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第14話 ドラゴンステーキ弁当とドラゴンのスモークジャーキー

 朝の光が差し込むド田舎食堂。

 山の稜線を染める薄金色の陽ざしが、窓越しに床板へ長い影を落としていた。

 店の中はまだ少しひんやりとした空気が漂っている。


 俺は鍋に火をかけつつ、焼き立てのパンを取り出す。


 表の掃除を終えたコレットが、誰かと話しながら店内に入って来た。


「店長~~表の掃除終わりました~」


「おう、おつかれ。朝のまかない、もうすぐできるぞ」


「ふあぁあ~~シチューですかぁ~♪ あ、でもその前に接客しま~す」


 ルンルンで、お冷を取りにいくコレット。

 カウンターにトンと座る人影。


「ふぁあ……おはよう、シゲル。今日もいい匂いねぇ」


 カウンターの椅子に座っているのは、女剣士レイナ。


 赤い髪をざっくり結び、胸当てを軽く装備したまま。

 寝起きのままなのか、目元には少し眠気の影がある。だが、その姿がこの食堂の朝の風景にはすっかり溶け込んでいた。


「おう、レイナ。今日も来たな。……とりあえず座ってろ、すぐに出す」


「言われなくても座ってるわよ。もうあたしにとっては朝の定位置ですもの」


 こんなやり取りも、もはや毎朝の風景となりつつある。

 俺は鍋を軽くあおり、スクランブルエッグを皿にのせる。さらに香ばしく焼けた厚切りベーコン、ちょっと焦げ目をつけたトースト、野菜のポトフ。


 あとは、淹れたての香り高いコーヒーをそえて。


「うっし、ド田舎モーニングおまち!」


「ふあぁ……朝食セット。きょ、今日は厚切りのベーコンにパンかぁ~いただくわ」」


 さきほどまで眠たそうな雰囲気は一変して、レイナは子どもみたいに瞳を輝かせフォークを手に取る。

 そして一口食べた瞬間、幸せそうに頬をゆるませた。


「んん~~! やっぱりシゲルの朝ご飯が一番落ち着くわぁ!」


「ですよねぇ~やだぁ~ポトフが荒れた胃にしみますぅ~~♪」


 隣にいるコレットもふはぁ~~とホッとしたような表情を見せてくる。

 なぜゆえに胃が荒れているのかは知らんが。

 まあ、ゆっくり食う朝飯ほど贅沢なもんはないわな。それを堪能してくれてるなら、作ったかいがあるってもんだ。


「美人剣士さんを担いで来た時はビックリしましたけど~レイナさんが常連になってくれて良かったですねぇ~店長」

「ちょっとコレット! もうその話は勘弁してよ」

「毎朝お店を掃除する意味ができて良かったですぅ~~♪」


 コレットの揶揄いに顔を赤くする女剣士。

 にしても、掃除は客の来る来ない関係なくやんなきゃダメだぞ。


「ふふ、コレットよ。ド田舎食堂は朝昼晩と客が入るようになったんだ。これからはそんな軽口を叩けなくなるかもしれんぞ」


「朝昼晩って。それ……あたしなんだけど! っていうか、ほぼ毎日あたししかいないんだが!?」


 レイナが再び顔を赤くして抗議する。


「そうだったか?」


「そうだったかって……なんなら客があたしだけの日とかふつうにあるわよ!?」


「まあ、そんなに焦らなくていいんだ。多少の蓄えはあるしな」


「……シゲル、あなたのそののんきさは尊敬すべきか呆れるべきか……」

「それは同意見ですねレイナさん。今月の売上、ほぼレイナさんですからねぇ~」


 レイナとコレットが額に手をあて嘆息する。

 だが、2人ともすぐにまたポトフをすすりパンをかじると、頬をほころばせた。


「ま、いいわ。あたしは毎日おいしいご飯食べらることができるから」


 モーニングを一通り食べ終えたレイナは、フォークを置いた。

 そして少し真剣な顔つきになる。


「ああ、そうだ。シゲル、話があるの」

「ん?」

「今日からしばらく、顔を出せなくなるわ」

「そうか」


「えっ……そんな即答で受け入れないでよ……」

「いや、俺がどうこう口を出す話でもないだろ」


「……そうだけど……少しは寂しがるとかしてもいいのに」


 そう言いつつも、レイナは苦笑して話を続けた。


「少しばかり王都に戻るわ。ギルドにドラゴン討伐の報告をしにいくつもりなの」

「ああ、あの山で狩ったやつか」

「そうそう。クエスト受注はしてなかったけど、ドラゴンは基本的に討伐対象よ。だから正式に報告することにしたわ」


 なるほどな、ギルドに討伐報告が受け付けられればレイナの実績に追加される。

 まあランクやら細かい事は知らんが。


「よし……ちょっと待ってろ」


 俺は厨房へ引っ込んだ。

 保存箱を取り出し、手早く調理をはじめる。


 しばらくして、俺は包みを抱えて戻ってきた。


「ほら、これもってけ」


「……えっ、弁当!?」


 レイナの赤い瞳が、がばっと輝く。

 彼女が包みを開いた瞬間―――


「はわぁああ~~なによこれ! 美味しそうぅう!!」


 ドラゴン肉のステーキを、甘辛いソースで絡めたもの。

 ご飯の上に贅沢にのせ、彩りの野菜を添えてある。

 ふたを開けた途端に立ちのぼる香りに、レイナは完全にノックアウトされたようだ。


「これ、絶対移動中に最高のやつじゃない! あぁ~~ありがとうシゲルぅう!」


「ふはぁああ……て、店長ぅ……はぅはぅ(じゅるり)」


 レイナの隣でハァハァと興奮気味のコレットには「昼にはつくってやる」となだめる。


「あと味は落ちるが冷凍のもある。食べたいときに解凍して食え」


「ええぇ、そんな便利なことまで……! さすがシゲルね!」


 彼女の喜びように、俺は満足しつつ冷凍された弁当をいくつか彼女に渡した。レイナもそこそこ性能の良いマジックバックは持っているので、これぐらいの量なら入るだろう。


 おっと、忘れるところだった。


「あとな。これももってけ」


「あら、これはなにかしら?」


「スモークジャーキーだ」


「ええっ……! 干し肉ね!」


 俺はうなずく。


 干し肉はこの異世界での定番。長期保存が可能で、冒険者が旅の道中でかじる旅のお供だ。

 だが、俺が作るのは一味違う。


「これはな、ジャイアントトレントの炭でいぶした、ドラゴン肉のスモークジャーキーだ」

「……なにその豪華すぎる響き!」


 レイナは目を白黒させつつ、一切れかじった。

 瞬間―――


「う、うま……! なによこれ、肉の旨味が凝縮してるのに、炭の香りがふわって広がって……! 干し肉の域を超えてるわよ!?」


「持ち運びやすいし、すぐ食べられてエネルギーになる」


「……いや、これ……王都で広まったら絶対大評判になるわよ」


 レイナは口に含んだスモークジャーキーをごくりと飲み込むと、名残惜しそうに残りのジャーキーを包みに戻す。


「て、店ちょうぅうう……じゃ~き、じゃ~き(じゅるり)」


「わかったわかった、コレットの分もあるから安心しろ」


「やた~~店長大好きぃ~~♪」


 小躍りするコレットに微笑みつつも、レイナが重そうなバックパックを背負った。


「ありがとうシゲル。ほんと、食べ物のことではあんたにかなわないわ」


「まあ気にするな。俺は誰かに食べてもらうのが好きなんだ」


 レイナは肩をすくめながらも、笑顔だった。

 その笑みの奥に、少しの名残惜しさも混じっているようだ。


「じゃ、あたしは王都へ行ってくる。また戻ってくるわ」


「気をつけて行ってこい」

「レイナさ~~ん、お土産よろしくですぅ~~」


 彼女は軽く手を振り、背を向ける。

 腰に剣を提げ、相棒である白銀のシルバードレスをまとい、食堂から一歩踏み出す。



 こうしてレイナは、王都へと旅立っていった。


 王都に持ち込まれたドラゴンステーキ弁当とドラゴンスモークジャーキー。

 シゲルの伺い知れないところで、「ド田舎食堂」の噂はじわじわと広がっていくことになる。


 そしてそのきっかけを運んでいくのは、他ならぬレイナなのだった。


【読者のみなさまへ】


第14話まで読んで頂きありがとうございます!

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※本作はカクヨムにて先行公開中です。


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