第五章「オープン・ザ・ワールド」η(イータ)パート:「商いの都市、再会の悪夢」
午前六時。寮の小さな窓に朝日が差しこむころ、アイの端末が一度だけ短く震えた。画面には、見慣れた省の紋章。
《観光文化省 省令:国内別都市「オッキナサカ」にて〇月〇日〇時から開催のAI技能展示会に参加せよ。受付:〇月〇日〇時、代表者=AI-01(アイ)》
ツナの名前は、どこにもなかった。
「ぼくの同行許可は?」
「観光文化省の所属では無いので何度も強制は出来ないのだと思います。ですが——行かないで、とは記載されないよ。」
アイは事務的に告げながらも、わずかに視線を揺らした。ツナはうなずき、迷いを押し込めるように荷物を詰めた。
一路、西へとリニアモーターカーで向かう。
1時間も掛からずに、二人は海と川に囲まれた水都オッキナサカへと到着した。陽光が水面に反射し、街路には観光客と商いの熱気が溢れていた。
会場ゲート前で観光文化省の事務官が手を挙げ、二人を迎え入れた。中へ進むと、国防省のブースには巨体が静かに鎮座していた。Z-01。
「同じ機体かな?」
ツナの独り言に、遠距離骨伝導システムが応じる。
『そうだ』
低い声が二人の体に響くと、二人はその頼もしさに安心した。
名刺、握手、写真、笑顔。前回と同じ手口は、さらに洗練されている。袖口から漏れる微弱電磁、床下を這う干渉波。トーキョーヤでの経験が、確かに生きていた。
「ツナくん、三時方向、微弱なパターン異常」
「近付かないで」
アイの声は落ち着いている。ツナは、人波に飲まれない位置取りだけを慎重にとった。
正午のセレモニー。舞台袖から現れたのは、濃紺のスーツに小さな紅い旗章をつけた男だった。冷たい笑み。ツナの背筋が、反射的に強張る。
ニセコン町の夜——あの建物内の冷たさ、匂い、視界の揺れ。
あの施設の男は堂々とし、隠れようともしない。紹介者が名前を読み上げると堂々と両手を挙げてスポットを浴びる。C国代表団 幹部として
拍手が波のように広がる。男は視線だけで人を撫でるように会場を横切り、まっすぐこちらを見る。薄く、愉快そうに口角を上げた。
そのまま、ツナに近づくと笑顔で「再会ニ感謝!」と言う
「ば、馬鹿な!なぜヤッポンに!?」
ツナの叫びに、男は大笑いをしながら答えた。
「不起訴ダカラネ。何モ罪犯ヲシテナイ、ソウ判断サレタ。ソウイウ事ネ」
ツナは目を見開くと、自国の法律、司法制度、政治の敗北を瞬時に痛感した。
そのまま、男は続ける。
「可哀想ネ、コノ国の政治家、公務員ノ半分以上ハ我ガ国ノ息ガ掛カッテルノ知ラナイノカ?……戦イトハ数ネ」
勝ち誇るかの様に男は後ろで手を組み、握手は求めてこない。代わりに、白い外装、家庭用支援機を思わせる丸みのあるロボットが一歩前に出ながら喋る。
「フレンドリー・デモです。AI間の親善のしるしに、リンクを——」
「じょ、冗談じゃない!」
ツナはそう叫ぶと、アイの手を引いて大きく距離を取った。
その瞬間、観光文化省の事務官が割って入る。
「……あまり我が国の若者を虐めないでいただけませんか」
男は「クックックッ」と笑うと、ツナとアイに向かって短く言った。
「マタネ」
そして、C国ブース内に消えていった。
ツナの背中には滝のように汗が流れ、呼吸は荒くなり、体は小刻みに震えていた。
アイは言葉を探したが見つけられず、ただそっとツナの手を握りしめるしかなかった。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」
今回の一言
書きながら選挙って大事だと思いました。 空銃




