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第五章「オープン・ザ・ワールド」ζ(ゼータ)パート:「Z(ゼータ)の鼓動」

 スケジュールの都合上、一時帰国したアイとツナはトーキョウヤに降り立っていた。そこに、観光文化省から一通の省令メールが届いた。


《AI技能展示会への参加を命ず》


 淡々とした命令形の文面が、不穏な空気を漂わせていた。


 数日後、会場に二人は居た。知名度の高いアイは様々な意味で今回の目玉となった。

眩い照明に彩られ、各国の最新AIロボットやAI技術の紹介が整然と並んでいた。来場者の笑顔と拍手と共に名刺が交わされ、言葉巧みに国や企業の威信をかけて接触を試みる産業スパイたちの影が蠢く。


 ロボット同士が握手を交わす瞬間、互いに小さな静電気が走る。その一瞬を利用し、帯電を偽装して情報を抜き取ろうとしたり、防御したりといった攻防が、観客の誰も気付かぬまま繰り広げられていた。


 そんな中、会場の空気を震わせるようにして姿を現した巨体――デジタル迷彩のフレームに、三点式の大きな三角形型キャタピラを備えた軍事用AIロボット「Z(ゼータ)-01」。


 その圧倒的な存在感に、観客の目は畏怖で釘付けとなった。国防省の制服組が「災害派遣時には有用」と必死に強調すればするほど、かえって軍事色の濃さが際立ってしまっていた。


 やがて、背広姿の巻き舌アクセントを持つ外国人が笑顔を浮かべてツナに近づいてきた。

「コンニチワ、少し、二人に挨拶をさせてもらっても?」


 差し出された名刺は光沢紙に煌びやかなロゴ。しかし、その裏面に仕込まれた極小チップを、アイのセンサーが即座に検知する。

「ツナくん、それ危険です」


 アイがかすかに囁いた次の瞬間、ツナの体に振動と共に声が響いた。

「その名刺をアイに触れさせてはいけない」


 Z(ゼータ)-01が遠距離骨伝導システムで、二人にだけ分かるように伝えてきたのだった。情報戦での国防上、助け船を出してくれたようだった。


 アイに名刺を渡そうとした外国人は、アイがツナの後ろに隠れてしまったので肩をすくめ、作り笑いを残して人混みに紛れていった。――この瞬間、二人は気付いた。狙われているのは、アイの経験値データなのだと。


 別の展示ブースでは、C国製の家庭用介護ロボットが接近してきた。

「お年寄りの介護に安価で最適です。ぜひ、体験を」


 その声とともに差し出されたロボットの手が、アイの方へ伸びる。だがZ(ゼータ)-01から再び警告が走った。

 ロボットの内部回路には通常の介護機器には存在しない「干渉波送信モジュール」が搭載されていたのだ。電子戦特化型の機体だった。


 Z(ゼータ)-01との目に見えない電子戦が繰り広げられる中、二人は距離をとる。

「……ただの介護機ではありませんね」

 アイが冷静に告げるが、当事者以外の周囲の観客は誰一人気付いていなかった。ただ、C国の介護会社のブースのスーツ姿の男性と女性コンパニオンが「キッ」と国防省の制服組を睨んだ。


 さらに数人の男女がツナに接触を試みる。笑顔で名刺を差し出し、雑談を装いながら距離を縮める――だが、その袖口や腕時計にはハッキング用プログラム送信器が仕込まれていた。


 ツナが一歩後退する間に、Z(ゼータ)-01の視線が赤く光る。観客には分からない様に公安調査庁の要員が影のように現れ、スパイたちを人混みの奥へと連れ出していた。

「……人知れず、消えていく」

 ツナは息を呑んだ。これが現実の情報戦なのだ。


 捕まった人物たちは静かに処理されていく。だがスパイ防止法の無いこの国では逮捕はできず、すべては高度な政治的判断に委ねられるのだった。


 ――数日後。公式ではあるが報道されることのない非公開の場で、ツナとアイは国防省統合幕僚長、観光文化省の事務次官、公安調査庁長官から感謝状を受け取った。


 厳粛に読み上げられる言葉を聞きながら、ツナの胸には重みが刻まれる。

 ――自分たちの行動が、この国の未来を左右するのだ、と。


 表彰の場の落ち着きを見計らい、観光文化省・国防省・公安調査庁の若手官僚たちが名刺を差し出した。ツナはそれをアイに見せる。


 アイの瞳が淡く光り、名刺を一枚ずつ視覚スキャンしていく。

「……読み取り、メモリー完了。安全なクラウドを経由し、ツナさんの端末にも同期しました」


 スマホ画面に「新しい連絡先を同期中」と表示が浮かぶ。官僚の一人が目を見開き、思わず漏らした。

「紙の名刺が、そのままクラウドに直結するのか……」


 こうした経験を重ねた後日、ツナの心の奥底には「政治」への小さな芽が確かに芽生えていた。やがてその芽は、彼を新たな岐路へと導いていくことになる。

この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。

ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。

ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。   「空銃 × AI」


今回の一言

一説では我が国は電子的不正送金での年間被害額が300億円を超えており、それに対応するべく航空自衛隊の最大の基地、入間基地に電子作戦群が作られたそうです。  空銃(からづつ)

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