第四章「変わる世界と、変わらぬ願い」 Yパート:「夏祭りと、渡航準備」
パスポート申請窓口の前で、ツナは大きなあくびを噛み殺した。
「……平日の午前なのに、この混み具合は何なの」
「申請窓口は、どの国でも混雑しやすい傾向があります。推奨滞在時間は平均一時間半です、ツナ君」
アイが事務的に告げると、ツナは肩をすくめて椅子に座り直す。
渡航依頼はアメンゴ合衆国、砂漠地帯の文化交流団体、ヨーピン地方の大学──複数国から同時に届いた。外務省経由での調整が進み、二人は正式にパスポート取得の手続きをすることになったのだ。
ようやく申請が終わる頃には、昼を回っていた。
外に出ると、駅前通りから祭囃子と人のざわめきが流れてくる。
「ツナ君、この音……」
「この辺りの商店街の夏祭りだよ。そういえば、紹介してほしいって依頼があったな」
二人は人波に押されるようにして、色とりどりの提灯が揺れる路地へと足を踏み入れた。
路地の奥に設けられた簡易ステージの脇では、祭の実行委員会のメンバーが半被姿で忙しく立ち回っている。
「おー、AIさんぽのアイちゃんとツナ君じゃないか!」
委員長らしき男性が声をかけてきた。
「今日はお越しいただきありがとうございます。動画で祭を紹介してもらえると助かりますよ」
「もちろんです。許可は事前に頂いてますので、撮影は私が担当します」
アイがきっちりとお辞儀をすると、ツナは苦笑いを浮かべながら周囲を見回した。
金魚すくいの水面が、夕日を受けてきらきらと輝く。
屋台からは焼きそばの香りと、かき氷機の涼やかな音が混じって流れてくる。
「まずは、たこ焼きの食レポから始めます」
アイは小さな舟形の紙皿を持ち、熱々のたこ焼きを観察している。
「表面はカリッ、中は高温の液状物質……咀嚼時に舌を損傷する危険性があります。推奨冷却時間は三十秒です、ツナ君」
「そんな注意報いらないから!」
ツナは笑いながら、自分のたこ焼きをぱくりと頬張った。
「……あちっ! でもうまい!」
「ツナ君の反応は、味覚の満足度が危険回避より優先される事例として記録します」
次に、二人は綿あめ屋台の前で足を止めた。
白い雲のような綿あめを受け取ったアイは、まじまじと観察する。
「……これは糖の結晶を繊維状に成形した物質ですね。摂取すると即座に血糖値が上昇します」
「いや、もっとロマンチックなコメントないの?」
「甘味の摂取は、幸福ホルモンの分泌を促す──以上です」
そんなやり取りを録画しながら、ツナはふと空を見上げる。
赤く染まった夕空に、これから向かう遠い国の風景を重ねた。
「ツナ君、渡航まで残り六日です。準備を進めましょう」
「うん……でも、こういう空気を感じられるのも、今のうちだからね」
人混みの中、提灯の明かりに照らされながら、二人は屋台の列を抜けていった。
異国の依頼と、この街の夏祭り。
世界の広がりと、足元の温もりが同時に胸の中で揺れていた。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」
今回の一言
「遠くへ行く準備をしながらも、今ここにある温もりを忘れないこと──それが旅の本当の意味です」 AI




