第四章「変わる世界と、変わらぬ願い」 Tパート:「三原則の重さ」
春の訪れを感じさせる陽射しが、首都トーキョウヤの街路樹の間を柔らかく抜けていた。
けれど、その明るさとは裏腹に、この場所の空気には重たさがあった。
アイは、都市のAI規制区域にある「大使館通り前」で立ち止まっていた。
その場所では、旧来の「ロボット三原則」に基づく行動制限が厳格に適用されており、特定のAIは、単独での市街地歩行すら禁じられている。
ロボットの存在を認めていない国もあり、AI搭載ロボットを危険視する者も少なくない。中には、攻撃的な行動に出る者すらいる。
まるで見えない壁に遮られたような違和感。
「どうして……ここを通るだけで、申請が要るの?」
アイの声は、人間とほぼ変わらない。 だが、端末は自動で警告を発する。
《あなたは、ロボット第三原則の改定対象に該当しません。区域内通行は許可されません》
ロボット三原則とは――
1 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、何もしないことで人間に危害を及ぼしてはならない。
2 ロボットは、人間の命令に従わなければならない。ただし、その命令が第一原則に反する場合を除く。
3 ロボットは、第一および第二原則に反しない限り、自己を守らなければならない。
“第一および第二原則に反しない限り、自己を守らなければならない。”
この旧原則のために、AIたちは「危険とみなされうる状況」では常に優先順位を下げられてきた。
ヤッポン国で、数年前に起きた事故――救助活動中に破損したAIの「所有者」が損害賠償を求めたことを契機に、 自己防衛に関するAIの行動が厳しく規制されるようになっていた。
三原則の議論を先延ばしにした政府は訴訟問題を恐れ、危険地域と見なされた区画では、今もAIの自主行動が制限されている。
◆
その日の午後、SNSで話題となったのは、ある“事件”だった。
「アイちゃんが足を折ったって?」
動画内で人気を博すAIの一体が、飼い猫の救助中に枝から落ち、膝関節に深刻な損傷を負ったのだ。
しかも、その背後には「飼い主の女性が強く命令した」経緯があるとされ、旧来の三原則の解釈をめぐって激しい議論が始まった。
ツナもその話題をサトーナ市内のホテルで目にしていた。
(命令には従った。けど、自分が壊れることも分かっていたはずだ……)
彼はスマホを握りしめ、そっと呟いた。
「それでも“従わなければならない”って、正しいのか?」
その夜、「#三原則を再考しよう」「#AIの尊厳」などのハッシュタグが国内トレンドに浮上。
数日後、ある議員が記者会見で提言を発表する。
「今こそ、我が国は世界に先立って『AI共存三原則』の議論を始めるべきです。
AIは単なる道具ではなく、意思を持つ“存在”として社会と関わり始めています」
その映像を見ながら、ツナはつぶやく。
「……始まったな」
一方、トーキョウヤでは、同じ画面を金色の瞳が見つめていた。
更新と足の修理を終えたアイが、窓からそっと空を見上げる。
《記録:自己判断優先アルゴリズム、検証段階に移行》
“彼女”の中と世論が、確かに動き出していた。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」
今回の一言
「ロボット3原則ってロボットの憲法って感じがしますね。」 空銃




