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47. 言わない約束

「それで今に至るってことか」

「そうだがや。っというわけでこれ」


 ムサシはモーニングスターを仕舞った魔具の箱を取り出すと、先程は見えなかった箱の側面に付いているボタンらしきものを押す。

 すると、仕舞う時とは逆の動きで、物理法則ガン無視して、箱からぬるりとトゲトゲしいその物体が出てくる。

 空中に放り出されたモーニングスターをタイミングよくキャッチすると、美紀の元へ近づき、女子には到底似合わないその武器を手渡す。


「おみゃーの新しい武器だがや。使用感とかはあとで聞かせて欲しいがや」

「あ……ありがとう。うん。すごくしっくりくる」


 自分の想像が全て外れたからか、プレゼントは予想外だったのか、あるいはその両方か。

 手渡されたモーニングスターを握ると、前まで使っていた槍とは違う、しっくり感のようなものを感じた美紀。

 それと同時に、自分のために武器を選んでくれたことへの感謝と、ストーカー行為をした挙句ムサシのことをやたら想像で決めつけてしまった罪悪感というものが美紀の中で込み上げてきた。


「……ムサシさん」

「ん? なんだがや?」

「その……私ムサシさんのこと勝手に決めつけて……それで……二人の時間に勝手にいちゃもんつけて……その……二人ともごめんなさい!」

「別にいいがや」


 美紀は我こそ強いが、わざとでは無いにしろ自身が犯した間違いを認めず押し通すような人間では無い。

 まして、ここまで勘違いが過ぎ、それを正されてはぐうの音も出なかった。

 緊張か恐怖か、その手は少し震えているが『まずは謝罪』をちゃんと理解して、それを実行し、ムサシもそれを見て美紀を咎めなかった。


「そうですよ。()()()()()()()()()()んですから」

「ナノ。それは違うがや」


 ナノも美紀を咎めず、むしろ慰めの姿勢をとるが、どうやらムサシはナノとは違うことを考えているようだった。


「『間違いは誰にでもある』……その言葉は、相手を慰める優しさの言葉じゃねえがや。むしろ自分を擁護し肯定化する卑怯者が使う言葉だがや」


 なかなかどうして厳しいことを言う。

 しかし、間違っているかと言われれば、全員なんらかの心当たりがあるのか、否定の声は出なかった。


「『間違うことは悪いこと』と断言するわけじゃねえが、それでも『間違いは誰にでもある』なんて言葉を使えば、それが言い訳になっていくがや。大事なのは間違いが悪かったかどうかを自覚することだがや」


 (ナノ)が絡むと途端に暴走するシスコンのムサシではあったが、根は筋の通った人間のため、しっかりするところではしっかりしている。

 根がしっかりしているからこそ、間違いを嫌い、もし間違えたらそれを正すという、当たり前に見えて難しい部分ができているのだろう。

 それでも彼のシスコンは治らないが。


「悪いと分かって謝るなら改善する。もうそれ以上は望まないがや」

「うぅ…… あ゛り゛が゛と゛う゛ム゛サ゛シ゛さ゛ああぁぁあああん」


 これがギャップ萌えというやつなのだろうか。

 今まで修也の中ではムサシのシスコンという部分が強すぎて他をあまり見ていなかった。

 だからこそ、今のムサシがかっこよく見えてしまう。

 許してもらった美紀はその緊張が解けたのか、地面にへたり込んでしまう。

 そしてムサシは、ちょうど撫で易い位置に来た美紀の頭をポンポン叩きながら、言葉ではこれ以上何も語らず慰めていた。


「純介、ナノ……俺、やっぱあの人の弟子になって良かったと思う」

「うん……私もお兄ちゃんがお兄ちゃんでよかったと思います」

「……俺も、ムサシさんと出会えてよかった」


 ムサシと美紀のやりとりを見ると、昔の自分に重ねてしまいそうになる。

 だがそれでも今の師範は、胸を張って『この人の弟子です』と言えるくらいかっこよかった。


「とりあえずみんな、移動するか」

「え? どうしてですか?」


 美紀が泣き、ムサシが慰める。

 美紀も自身の悪いところを認め、ムサシもそれを聞いて美紀を許した。

 ここまでの内容を知っているからこそ、今このシーンはすごく感動的に見えるし、できればここに水を差すようなことはしたく無い。

 ただしかしそれでも、これだけ良い場面になっても、今すぐ場所を移したい理由があった。


「だってほら……ここ店の前じゃん」


 どれだけ感動的な場面でも、場所が間違っていればその感動も薄れてしまう。

 今五人は先程出てきた武器屋の前から移動しておらず、目の前には人通りの多い道がある。

 今ここに、泣き喚いている異世界人の女子と、それを慰めるおっさん。

 そしてそれを温かい眼差しで見つめる男女三人。

 それが人々の目にどう映っているかは知らないが、今この場は、兄妹をストーキングするために喫茶店の窓を覗いていた時と似た何かを感じる。

 そんなことを考えていると、店の扉が勢いよく開かれる。

 そこには、ムサシが武器を買った時に会計をしていた店員がいた。

 おそらく美紀が叫んだのを聞き、何事かと駆けつけてきたのだろう。

 その男は、こちらを一瞥すると、何を気遣うわけでもなく、たった一言。


「営業の邪魔だから他所でやってくれ!」


 店側からすれば至極真っ当な正論を言われ、何も言い返せずその場から立ち去ることにした。


 ―――


 店員に怒られた&周りの目によって自分たちの場違い感がかなり出てしまっていたため、とりあえず場所を移動して、別の通りへ来ていた。


「おみゃーらは一緒に来なくてええがや?」

「二人の時間に水を差すほど、俺は空気が読めない(KY)男じゃねえよ」


 広間に来たと同時にどうするかを話し合ったが、兄妹は引き続きデートの続行。

 純介は買った魚を下拵えするためにホテルへと戻ることにした。


「美紀。おみゃーはどうするがや?」

「私は適当に街をふらつくわ」

「それじゃあ俺は、知樹の修行の様子を見てくる」


 お互いに目的が定まったところで、ナノとムサシは来た道を戻っていった。


「……ねえお兄ちゃん」

「ん? なんだがや」

「純介さんと美紀さんに預かってもらってた手紙あったでしょ? あの内容ってどういう意味なの?」


 ふと思い出したかのようにムサシに聞く。

 修也と知樹が合同で修行をした際に、ナノは美紀と純介に拉致されて強制的にショッピングなどをしていた時がある。

 その時に渡されたムサシからの手紙には、『都市イルナスには行かない方がええがや』という文字が書かれていた。


「……最近、魔導国家ライブラリでとんでもない兵器が開発されたがや。俺も詳しくは知らんが、なんでも人から魔力を吸い上げ、それをエネルギーとして強力なレーザーを放つことができるものらしいがや。その威力は、小国を焼き払えるほどらしいがや」


 剣聖ともなると、国家レベルの情報を耳にすることがあるらしく、かなり真剣に話をしている。

 そもそもこの情報を一般人である自分に話すのはどうかと思うが、ナノも気になるのか、話を変えようとしなかった。


「そういえばイオナさんも、最近開発された兵器のためにイルナスに行くって言ってたような。でもそれがどうかしたの?」

「俺はこれが、どうにも胡散臭く見えて仕方がないがや。基本的に大きな力には大きな代償が付き物だがや。小国とはいえ国一つを焼き払えるほど強力な兵器。これを人の魔力で換算したら、一体どれだけ恐ろしい量になるのか分かったもんじゃねえがや」


 今自分たちが向かっているライブラリの首都イルナスで、何が起ころうとしているのか。

 どちらにしても、四人の内、イオナ以外はただの一般人のため、仮に何かが起きても、それはきっと自分たちには関係ないし、どうすることもできないのだろう。

 そう考えるとナノは、恐ろしい、怖いとは思っても、どこか他人事のように考えていた。


「でも、今は修也がいるがや。俺があいつを鍛えて、おみゃーを守らせるがや……まああと一日しかあらせんが。だからあの言葉は忘れてええがや」


 ムサシの『修也にナノを守らせる』という意思は相当硬いらしく、それと同時に修也にかなりの信頼を寄せているようにも見える。


「ねえ、修也さんにあのこと言わなくて良いの?」

「あのこと?」

「波止場での話。修也さんたちに説明してる時は私が途中で遮っちゃったけど、あの後の話のこと」

「あれは絶対に、特に修也には言わねえがや……もし言ったら今までの全てがおじゃんになるがや」


 波止場での話の続きは、修也に言うつもりはないらしい。

 どうやら修也に関してのことらしいが、その話はムサシが絶対に言わないと公言するほどのものだった。


「だから約束するがや。あれはもう他言無用、できれば忘れるがや」

「……うん、わかった、お兄ちゃん」


 神妙な面持ちで話す二人。

 この後もショッピングや名所巡りをして、兄妹水入らずの時間を心行くまで楽しんだが。

 しかし、純粋に楽しんでいるように見えるムサシと違い、ナノの心には、まだ波止場での話が心に引っかかるのだった。

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