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46. 実際には2

「と、まあ、こんな感じだったがや」

「うん、ムサシとナノの兄妹愛が見えたハートフルストーリーだったな。どっかの誰かが考えたものと違って」

「う……」


 美紀が考えた通りムサシはナノに奢ってもらっていたことに変わりはないのだが、その経緯は決してムサシが責められるべきものではない。

 むしろ責められるは……


「っていうか、元凶お前じゃねえか!」

「……確かに美紀ちゃんはよく食べる」

「美紀の食いっぷりはいつも見てて気持ちええがや……もう少し小食でも俺は構わんが……」


 流石にこれは指を指しても文句は言われないはずだ。

 どうやら美紀の食う量は、あのムサシですら遠回しにもう少し抑えてくれと言うほどらしい。


「仕方ないじゃない! だってお腹すくんだもん! ……それに、そんな食べ過ぎてるつもりは……」

「ちなみに昨日の夜は何を食べた?」

「ピザ、パスタ、ハンバーガー、フライドチキン、フライドポテト、シチュー、プリン、ショートケーキ、シュークリーム」

「しっかりデザートまで食ってんじゃねえか!」

「デザートは別腹でしょ?!」

「別腹どころか胃袋が異次元に繋がってんじゃねえか?!」


 超次元的な胃袋を持つ美紀の食事。

 これを聞けば誰だってムサシの財布の方を心配するに決まってる。

 剣聖がどれだけ給料をもらっているかは知らない……というかそもそも給料が出るのもビックリだったが、決して安くはないはず。

 それをこの女は財布の中身を軽くするまで貪っていたわけである。

『脛をかじる』とか、そう言うレベルではなかったのだ。


「じゃ、じゃあ、さっきの武器屋のあれはどうなの!なんでモーニングスターなんて買ってたのよ!」

「……露骨に話を逸らした」

「まあ俺もナノやイオナに色々工面してもらってるしこれ以上は言えねえな……」


 自分からは強く言いたくないのか、修也に告げるように美紀を指差ししながら言う。

 しかし、修也も女性陣二人に色々お世話になってる、言ってしまえばヒモ同然なので強く言おうにも強く言えないのが現状であった。


「ああ、あれは」


 ―――


 喫茶店で腹だけ満たした二人は、何を思ったのか武器屋に来ていたのだ。

 もちろん、修也たち三人もそこに来ているわけで。

 もちろん、三人がつけてきているのも二人は知っているわけで。


「さっきいなくなったと思ったら、またおるがや」

「私たちが気づいていないと思っているのかな?」


 三人の熱烈な視線を浴び、気が散りながら商品棚にある武器を眺めていく。


「お兄ちゃん、なんで武器屋なんかにきたの?」

「美紀のやつが新しい武器が欲しいって言っとったで、新調してやろうと思ってここに来たがや」

「へー、そうなんだ」


 兄の総評をナノから言わせれば、『普段ガサツで鈍感で他人の気遣いはできないような人』である。

 しかし、こう言う部分はマメなのか、意外にも彼は美紀のお願いをちゃんと聞いて叶えようとしていた。

 思い返しても自分にブレゼントをよくくれたし、実際に今つけてるネックレスも彼からもらったものである。


「あいつの喜ぶ顔が浮かぶがや」

「美紀さんも喜ぶと思うよ。でも……」


 テンションが高く、感情も表に出やすい彼女の喜ぶ顔は、付き合いの短いナノでも容易に想像できた。

 それでも、今二人の目の前にある武器で年頃の女性を喜ばせることができるとは思えない。


「なんでモーニングスターなの?! って言うか美紀さん今までこれで戦ってたの?」

「ちょっと前までは槍で戦っとたが、突くと言うより振り下ろすように使っとったですぐに折れたんだがや。だから、美紀にはこっちの武器の方がしっくりくると思うがや」

「持つところが木製だったの?」

「いや、しっかりと鉄だったがや」


 美紀が槍を使っていたことには別に驚かない。

 実際、使っている姿を想像すると結構似合っているように感じる。

 しかし問題なのは、鉄製の槍を軽々と振り回し、あまつさえそれをへし折るほどに強く振り下ろしていたという。


「……美紀さんって、力強いんだね」

「近接戦で言わせてもらえれば、美紀は異世界転生組の男衆が束になっても、拘束とかせん限り勝てんがや」


 美紀の食べたもの全てが筋肉に行っているなら、そこまで強いのもなぜか頷けてしまう。


「純介さんはどうなの? 美紀さんみたいにパワーがあるようには見えないけど……」

「純介はとにかく集中力が凄いがや。料理もできて手先も器用だし、色々出来るがや」

「純介さんってお料理できたんですね!」


 料理であれば、ナノもそれなりに出来る方だ。

 家事全般を得意とする彼女にとって、共通の話題ができるのはどうやら喜ばしいことのようである。


「うん。やっぱりこれが一番ええがや」


 ムサシはナノと話をしている間も、武器を吟味し、実際に持って使用感も確かめていた。

 そして、何を基準にしているかはわからないが、今現在ムサシが手にしているモーニングスターが、どうやら美紀に一番しっくりくる物と思ったようで、そのまま会計の方へ直行していった。


「これが欲しいがや」

「えーっと……三千ルピカだね」

「三千ルピカちょうどだがや」


 懐から取り出された財布から三枚のお札が店員の手元へと渡る。

 ムサシがチラッと自分の財布の残高を確認すると、百ルピカ硬貨が六枚あるだけだった。

 これは喫茶店の時にナノに奢ってもらって正解だったと言わざるおえないだろう。


「ナノ、行くがや」

「うん……修也さんたちどこまでついてくるんだろう」


 本来であれば、この後も二人で様々な場所を巡りたいし、事実そのつもりだった。

 しかし、流石にいつまでもついてこられるのは困る。

 特に美紀の眼力が気になって仕方ないため、どうしようかとナノが考えていると。


「ナノ。店を出たら口を手で塞いで、なるべく目を瞑っとくんだがや」

「え?」


 ナノの今の感想をそのまま綴ると『言うのが遅い!』であるだろう。

 なにせ、ムサシがナノにこのお願いをしたのは、店の扉を出る直前。

 心の準備が一切できてなかったのだ。


「行くがや!」

「んーーー!」


 扉が閉まるのとほぼ同時。

 その瞬間に、ムサシはナノをお姫様抱っこをする形で持ち上げ、そのままありえない脚力で店の屋根へと登った。

 店は一階建てで、よじ登れば上に乗れるだろうが、ジャンプで上がるのは一般人には流石に不可能だ。

 それをいとも容易く行うあたり、ムサシの体は人間離れしていると言えるのだろう。

 ナノも、いきなりのことで整理が追いつかなかったが、それでも口はちゃんと塞いでいる。


「お兄ちゃん何するの!」

「シッ……ちょっと待つがや」


 数秒経つと、店の扉がまた開く。

 そして予想通りとも言うべき形で、ストーカー三人衆が扉から出てきて、左右の道を見渡している。

 まるで誰かを探すようなその素振り。

 しかし、目的の人物が見つからないようで、入念に周りを見ていた。


「そろそろ降りるがや」

「……うん」


 そんな三人を見つめる兄妹は、このよくわからないストーカー行為の真相を聞き出すため、物音一つ立てずに地面に着地。

 その後、三人の背中に声をかけ、ことの顛末を聞き出すことにした。

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