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44. 尾行3

 ハルバードリッチ兄妹は喫茶店で朝食を済ませたのち、とある店に立ち寄っていた。

 その店は一階建ての平家のような外見で、さらに窓がないため、外から二人の様子を伺えなかった。

 その代わりに店内がかなり広く、様々なニーズに合わせた商品が所々に置いてある。


「確かに品揃えは良いし店内も広い。なんなら商品を試すこともできる」

「でも流石にここを兄妹で出かけるときに、しかも弟ならまだしも妹を連れてくるなんて。私あの人の神経を疑うわ」

「……これはない」


 三人とも一様に『ここはないだろ』と思いながらも店内にいる二人を、離れた距離の商品棚から覗き見ていた。


「兄妹で出かけるって時に、何で師範は行き先に武器屋をチョイスするかね〜」

「センスが無さすぎてむしろセンスしか無いわね」

「……美紀ちゃん。日本語がおかしい」


 ハルバードリッチ兄妹が海、喫茶店と来て次に訪れたのが何故か武器屋だった。

 ムサシが久しぶりに会う妹と一緒に来たかった場所として武器屋を選ぶあたり、『ああ、やっぱり師範は師範だなぁ』と思わせてくれる。


「気をつけて動けよ。万が一商品を倒して当たりでもしたら、怪我どころじゃ済まないぞ」

「わかってるわよ。ただでさえお金がないのに、武器を壊して弁償なんて御免なんだから」

「何で武器が壊れる方を心配するんだ……」


 何故自分が怪我を負う方に考えが行かないのか不思議だったが、今は美紀の思考よりも兄妹の目線の先にある武器の方に意識が向いてしまう。


「あれってあれだよな。よくアニメとかで剛腕な男が振り回すトゲトゲの鈍器」

「……モーニングスター」

「そうそれだ! ……いや、答えを出されても二人があの武器を見つめる理由がわからんのだが……」


 兄妹が何かを話しながら見ているのは、棒の先に鋭利な針がいくつも生えた鉄球がついている鈍器『モーニングスター』だった。

 二人……特にムサシの方が、真剣な目で武器を見ており、さも自分が使うかのように手に取り、ブンブン振り回しながら吟味している。


「なんであれを軽々振れるんだ?! あの人の腕力マジでどうなってんだよ!」

「そういえば筋トレの修行で倒れたあんたを軽々と抱えながら帰ってきた時があったわね。ムサシさんなら私たち三人を持ち上げることもわけないと思うわ。私でも大人二人を持ち上げるのがやっとなのに」

「今明らかにおかしいことを言った気がするが触れないでおこう……」


 自らをレディという割に発言が全くレディではない。

 むしろ頼もしさすら垣間見えてしまう美紀の腕をチラッと見てみると、男の腕よりは太くないものの、筋肉のようなものが少し見えてしまう。

 人より明らかに露出の多い美紀の服は、一般的な女性が同じような服を着るのとは違う考えで、それを着ているのだろう。


「あ、二人とも移動するわ」

「向こうって店員がいるとこだろ?って言うか、モーニングスター手に持ったままだけど師範あれ買うの?」


 レジ前へと向かうムサシの右手には、先程振り回していたモーニングスターが握られたままになっている。

 普段、十二天武の天邪鬼を一本腰に携えてるだけの師範が、一体なんの目的があって買うのか不思議でならなかった。

 その後、かなり座高の高い椅子に座った店員の前でモーニングスターの購入が完了した。


「マジで購入した……ん、なんだあれ」


 会計を終えたムサシが、ズボンのポケットから手のひらサイズの装飾が施された箱のようなものを取り出した。

 そして、その箱にモーニングスターを近づけると、一瞬にして箱の中へ吸い込まれていった。


「は?! なんだあれ! あれも魔法なのか?!」

「……魔法じゃなくで魔具」

「え? なにそれ」

「あんた知らないの? この世界の一般常識じゃない!」

「マジで知らないんだけど……」


 ムサシが取り出した箱について、ナノやイオナからは一切なにも説明を受けていないので、修也は本当に知らないのだ。


「魔具って言うのは、魔力を流し込むことで使える道具のことよ。その種類は武器から日常用品に至るまで色々なものがあるわ」

「でも師範って魔力ないだろ?なんであれ使えるんだ?」

「ムサシさんのは特別性なの。昔、十連門の人に作ってもらったらしいわ。普通の市販で売ってるものは、ちゃんと魔力を流し込まないと使えないわよ」

「へー……んで、あれなに?」

「あれは、魔導十連門テリーヌ・フォクシーの『ペーパーズ・ポケット』を参考に作られた魔具で、物を出し入れできる力があるのよ。品質によって、入れられるものの大きさや量が変わるの。まあ、流石に人は入れれないけどね」

「テリーヌって確か……」


 この町に来た初日に、船の案内所でたまたま会ったのが『テリーヌ・フォクシー』その人である。

 確かに、テリーヌがムサシからナノへのプレゼントを渡すときに、似たようなことをしていた。


「魔導十連門が自分で魔法を作るのは、魔法の発展と繁栄って言う名目を掲げてるからだそうよ。現に、有用な固有魔法(オリジナルマジック)がこうして便利になって役立っているの」

「……ちなみに僕たちも一つ持ってる」

「なにそのマウント。いや、正直羨ましいけども」


 持たざる者に見せつけるかのように、ポケットからムサシが持っているのと似たような魔具を取り出した純介。

 彼はこうゆうことをしないと思っていたが、多少茶目っ気はあるようだ。


「ってことは、イオナの固有魔法(オリジナルマジック)もどこかで役立ってるかもしれないのか」


 人の役に立つものを作り出し、実際にそれを多くの人に使ってもらっている。

 固有魔法(オリジナルマジック)はあくまでもそのきっかけに過ぎないのだろうが、普通の人にはきっとできない。

 そう思うと改めて魔導十連門の凄さに驚いてしまう。


「あ、そろそろ二人とも動くわ。さあ、ついてきなさい!」

「なあ、まだやるのか? もうそろそろ昼だぞ」

「当たり前でしょ! この後服屋に行ってお買い物してお土産買ってもらうんだから」

「なんでお前が決めるんだ……最後のは完全に私欲だし」

「……戻って魚料理の準備したい」


 純介の手にはまだ港で買った魚入りの袋が握られている。

 手の込んだ料理をしたいのか、それとも魚の鮮度が落ちるからか、早くホテルに戻りたがってる。


「それ魔具に入れないのか? さっき一個持ってるって言ってただろ」

「……別のものが入ってるから無理」

「ほら、ちゃっちゃと行くわよ」


 ムサシとナノが店の扉から出ていくのを確認したのちに、数秒待ってから扉を開ける。

 窓のない店内から、陽の光が当たる大通りへと出て行く。


「あれ? 二人ともいないわ!」


 店の外の大通りには、朝とは違いちゃんと人通りがある。

 しかし二人を見失うほど人が歩いているわけではないので、後ろ姿くらいは見えるはずだ。

 それが今、忽然と姿を消したのである。


「おいおい、本当にいないじゃないか」

「……見つからない」


 二人も通りの左右に目を凝らしながら見渡すが、修也の目を持ってしても、あの特徴的な笠を見つけることができなかった。


「これじゃあ、後をつけることはできないな」

「誰の後をつけるんだがや?」

「そりゃ、師範とナノの後ろに決まってるだろ」

「それはそれは、楽しそうですね修也さん」

「まあ、ちょっとは楽しい……え?」


 おそらく五日間は聞いてきたであろう声と、だいぶ聞き馴染みのある声が後ろから聞こえてくる。

 聞き馴染みがあり過ぎて、思わずちゃんと応答してしまう。

 そして振り返れば当然、ハルバードリッチ兄妹が後ろにいるわけである。

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