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40. 武器の力

 知樹がテリーヌとの激闘を繰り広げている中、修也とムサシの師弟はランニングという名の鬼ごっこから帰っており、今は広間に戻ってきていた。

 広場に入るとムサシは近くにあったベンチへどっかりと座り、修也はそれを目の前にして立って話をする。


「それで、頼みって何だがや」

「簡単な話だ。残りの今日を含めたあと四日分の筋トレを三日で全て終わらせる。そのかわり、クラーケン討伐の二日前を開けてくれないか?」

「ちゃんとできれば一日空けても大丈夫だがや。だが、その一日で何をするがや」


 残り四日分の修行を三日で終わらせる代わりに、期間を短縮してほしいと頼む修也。

 師範であるムサシとしては、回数をこなしていれば問題ないらしく了承はしたが、そうなると残りの1日で何をするのか気になるところだ。


「ただの休息日だ。こんを詰めすぎるのも良くないと思ってな」

「休憩時間はちゃんと与えてるつもりだがや」

「それでもキツイんだよ! それにせっかく港町に来たんだ。ここでしか味わえない絶品の魚料理とかもあるだろ? お互いに一休みするのも大事だって」


 修也の言いたいことが理解できない訳ではなかった。

 事実修也がこの町に来て食したものと言えば、ホテルのご飯と見た目が化け物の珍味だけだ。

 漁業が盛んな町に来たのだから新鮮な魚を食べたいというのはごもっともな意見である。


「……まあ、おみゃーがメニューこなせるなら別になんでもいいがや」

「そうか、良かったぜ」


 修行の短縮と休暇の確保ができ、とりあえず一安心する。


「そうだ、休憩がてらに良いもの見せてやるがや」

「?? 良いもの?」


 ふと思い出したかのように立ち上がると、広間の中心あたりへ歩き出したムサシ。

 良いものと言われると少し気になってしまい、ムサシの後ろへついて行こうとする。


「ああ、おみゃーはそこのベンチの前で立ってて欲しいがや」


 元の位置から動かないでほしいと言われ、とりあえず何も考えず突っ立っておく。

 その間もテクテクと広間の中心を通り過ぎ、広間内の修也がいる位置とは対称の場所へ移動した。


「よーく見てるがや! まあ、見てても捉えれきれんと思うが」

「任せとけよ。目には自信があるからな」


 大きな声でしっかりと見ておくように促すムサシ。

 今回の件で修也は自分の動体視力に対して自信を持ったのか、特に疑問に思うこともなく目を凝らしてムサシの方を見つめる。

 こちらが準備okなのを確認すると、ムサシは帯刀している天邪鬼の柄を握った。


「さあ、どこからでもいいぜ」


 ムサシが移動するであろう方向にも気を配りながら、足の動き、手の動き、目の動き、相手から読み取れるであろう全ての情報を凝視する。

 しかし当のムサシは動くどころか抜刀する素振りすら見せない。

 その後も両者ともに見つめ合うだけの硬直状態がしばらく続くが、先に動いたのは修也の方だった。


「なあ、何で動かな……ッ!!」


 刹那。そう言ってもいいほどの一瞬の間だった。

 先に動いたということは先に集中力が切れたということでもある。

 剣聖(ムサシ)がその合図()を見逃すはずもなく、修也の言葉が切れた時には()()()()()()()()()()()

 次に感じたのは首に伝わるヒヤリとした感触。

 視覚に集中して触覚に情報が伝わるのは想定外だったのか、いきなりのこと反応が遅れてしまう。

 気づいた時には後ろから出てきた刃が修也の首の左側面に()()()()()()

 もちろん峰の方だが。

 状況から見るに、ムサシは自分の後ろのベンチに立っていて、またよくわからない瞬間移動を使ったのだろう。


「し、心臓に悪いぜ師範。せめてやるなら心の不意をつかないように……」


 多少の文句を垂れながら、安全なのを確認したのちにムサシの方を振り返る。

 おそらくは後ろでしてやったりと笑っている師範がいるのだろう。

 その程度の気持ちでムサシの目に焦点を合わせた時だった。


「ッ!!」


 真っ先に自分の心を貫いた感情は「恐怖」だった。

 初めて会った時も、ナノのことでこちらに殺気を飛ばしてきていたが、今回はそれの比ではない。

 まるで今目の前で起きていることを整理しているような、先程の修也かそれ以上の驚きの表情をしていた。


「……おみゃー。なんともねぇがや?」

「あ、ああ、いたって健康体だ。って言うか今から体調不良になりそうなくらいすくみ上がってるんだが」


 足を少し震わせながらムサシから少しでも距離を取ろうとするが、既の所(すんでのところ)で思い止まっている。

 意図的にでは無い。人間の生存本能が無理矢理そうさせるのだ。

 今自分は頭の中で狩られる側だと理解できるから逃げようと思い、今目の前にいるのが自分の師範だと知っているから踏みとどまれる。

 しかし、なんと言っても圧が凄まじいため、まともに目を合わせることすらできない。


「……天邪鬼(こいつ)の能力はなんだと思うがや?」

「……瞬間移動」

「まあ、半分正解で半分不正解ってとこだがや」


 首筋に()()()()()()天邪鬼を下すと、修也に見せるように持ち方を変える。

 ムサシが質問をするころには先程の圧は無くなり、表情もいつも通りに戻っていた。


「確かに能力自体は瞬間移動だがや。ただしこいつは、自分の周りにある対象物の近くにしか移動できんがや」


 確かムサシと戦った時や修行初日の朝、そして風船を空中で取った時も、ムサシは一瞬にしてその場から消え、()()()()()に現れていた。


「移動できる距離は自分を中心とした半径二十五メートル。その範囲内にある物体からさらに半径五メートルの位置に瞬間移動できるがや。まあ、簡単に言えば二十五メートル範囲内の物体の近くに移動できると思っとけばいいがや」

「そ、そうなのか。でもどうしてわざわざそんなことを俺に教えるんだ?」

「俺は弟子にした奴に天邪鬼(こいつ)の能力を教えることにしとるがや。自分のことを曝け出してこそ信頼関係が築けるってもんだがや」


 そう言いながらベンチから降りると、天邪鬼を鞘に納刀し、また広間の中心へと歩いていく。

 その顔は、明らかに何かを考えているような思い詰めているような、そんな顔をしていた。

 しかし、後ろからムサシの後についていく修也には、そんな些細な表情変化などわかるはずもなかった。


「どうやらおみゃーには厄介な人生が待っているみたいだがや」

「ん?なんか言ったか?」


 頭の笠を深く被り、修也には聞こえない声量でボソッと呟くムサシ。

 対して修也は案の定とも言うべきか、ラブコメあるあるの難聴系主人公のような一言だった。


「いや、何も言ってねえがや。さあ、修行の再開だがや」

「おう、休み獲得のために頑張ってやるぜ!」


 ひとまずは腕立て伏せから始めるために地に伏せ、黙々と体を上下させる。

 二人の間に大して会話はなかったが、それでもムサシはよそ見することなく修也の方を、正確に言うなら修也より手前にある地面を見つめていた。

 その顔は先程同様、全く晴れることはなかった。

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