37. 努力のない成長
「さて、それじゃあ早速勝負をするっスけど。本当に大丈夫っスか?」
公園に到着するなり、屈伸や新脚などの準備運動をせこせこと行い、1対1の勝負に備えるテリーヌ。
「とは言っても、流石に素人相手に本気は出せないっスよね」
そう言うと懐から一枚の紙を取り出し、固有魔法で紙の中から腕輪を取り出した。
特に変わった様子のない銀色の腕輪を自身の手首に取り付けると、今度こそ準備万端と言いたげに知樹と相対した。
「テリーヌさん、それ何ですか?」
「一定以上の魔力の出力を抑える腕輪っス。まあハンデみたいなものっスよ」
「いいんですか? そんなのつけて。これでも十連門の一番弟子ですよ」
「こっちは元とは言え一応十連門だったっス。舐めない方が身のためっスよ」
十連門の弟子とは言え、知樹はこちらの世界に来て日が浅い。
そんなお子ちゃまに、たとえハンデをつけたとしても遅れをとるつもりはないと、余裕綽々に知樹を煽って見せる。
「そうですか。それじゃあ! 最初から全力でやらせてもらいますよ!!」
テリーヌの言葉に苛立ちを感じたのか、開戦の火蓋を早々に切り落とし、先制攻撃として高火力の炎の魔法を無詠唱で発動し、テリーヌへと遠慮なくぶつける。
「流石に才能が過ぎるっスよ!」
不意打ちとも取れるその攻撃に咄嗟の反応が遅れ、知樹の放った魔法に全身が巻かれそうになる。
しかし、流石は十連門。こちらも無詠唱で水の魔法を発動させると、周囲に水の壁を張ることで轟々と燃え盛っていた炎の魔法を鎮静させる。
「それ、俺がマジックショーで使った魔法っスよね。流石に吸収が早過ぎるんスけど」
「見様見真似でやってみたんですけど、うまく行ったみたいですね。それじゃあ次は」
「おっと、そう簡単に撃たせないっスよ。『アイス・ニードル』!」
知樹が次の攻撃へ移ろうとすると、今度はテリーヌから攻撃をけしかけてきた。
これはショーの序盤で使われていた氷針を作り出す魔法だが、今回は掌ではなく空中に数本を出現させ、それをロケットのように知樹に向けて打ち出していった。
「ちょ! 殺しにかかってきてないですか!?」
「先は丸くしといたから痛いくらいで済むっスよ。まあ、死ぬほど痛いっスけど」
「あんま変わらないじゃないですか!!」
明らかに殺傷力のある攻撃にテリーヌの気を疑いたくなるが、考える時間もなく氷針は知樹の眼前へと迫ってきていた。
しかし負けず劣らず、知樹も咄嗟に炎を前に発射することで氷を即座に溶かして攻撃を防いだ。
(にしても、才能の塊っスね。魔法を無詠唱で使える異世界人なんて琴葉さんぐらいしかいないと思ってたんスけど……)
余裕の表情こそ崩さないが、内心では驚愕と焦り、そしてハンデを身につけてしまったことを少し後悔している。
自分がまだ十連門に所属していたなら、おそらく摘んでいたであろう才能の芽を、現十連門のイオナが育てているのがこれまた驚きであった。
「それでも、まだ彼には遠く及ばなそうっスね……」
「ん? 何か言いましたか?」
「いや、なんでも無いっス」
「何を考えてるのか知らないですけど、まず下を見た方がいいんじゃないですか?」
自信のあるニヤつきを表情に出すのと同時に、人差し指を下に向けて足元を見るように促す。
「うわ! いつの間にやったんスか!?」
テリーヌの足元にあるのは人一人が縦に収まるくらいの広さの、小さい沼だった。
ずっと正面の知樹を捉えて考え事をしていて、足元を見ておらず気づかなかったのだろう。
テリーヌの下半身は足首あたりまで浸かっており、履いていた黄色の靴は沈みきって見えなくなっていた。
「重いっスね。足が上がらないっス」
「複合詠唱で水属性と土属性を合わせて足元に沼を作りました。簡単に抜けられたら困るので、土の分量を多くして粘り気を強くしておきましたよ」
「いらない気遣い痛み入るっスよ……」
(複合詠唱を無詠唱で発動した挙句、魔法の分量調節まで……)
目の前の凡人に見える天才は、明らかにその才能の器が桁違いだった。
イオナから聞いてある程度予想はしていたが、目の前の男はそれよりも遥か上の領域に片足を突っ込んでおり、才能だけで言えば自身の元十連門としてのプライドを簡単に打ち砕けるほどのポテンシャルがある。
「まあそれでも負けるつもりはないっスよ。少しばかり本気を出させてもらうっス!」
テリーヌは自分のカバンの中から紙を数枚取り出すと、空中の放り投げるようにばら撒いた。
しかし、ひらひらと舞い落ちるかと思われた紙は空中で静止し、同時に同じようにまるで折り紙を折るかのように綺麗に折りたたまれていった。
「さあ、始めるっスよ!」
素早く折られていった紙の群れは全て一様に紙飛行機の形になり、テリーヌの周りを取り囲むようにクルクルと飛び始めた。




