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36. 手伝いのお願い

「流石の手腕ね。道化師テリーヌの名前に恥じないマジックショーだったわ」

「俺その呼び名あんま好きじゃないんスけど……」


 ショーが終わり後片付けをしているテリーヌにツカツカとイオナが近づき、上から目線で褒めていた。

 どうやら道化師というのが気に入らないらしく、名前を呼ばれると不機嫌そうに三人の方を振り向いた。


「そう? 私はいいと思うけど」

「あの人が勝手につけただけじゃないっスか。褒めてくれるのは素直に嬉しいっスけど」


 おそらくは十連門(身内)にしかわからない雑談をし、イオナの褒め言葉だけは素直に受け取ったテリーヌ。


「あ、二人ともどうだったっスか? 俺のマジックショーは」

「凄かったです! 魅せ方が凄いとかマジックが上手かったとか! とにかく楽しかったです!」

「途中から最前列で見てたっスよね。楽しそうなのがこっちにも伝わってきてたっスよ」


 テリーヌのマジックがよほど面白かったのか、少し言葉が拙くなるナノ。

 それでも、腕をブンブン振りながら思いを精一杯伝えようとするその姿勢だけで、純粋にショーを楽しんでいたのがよくわかる。


「俺は魔法に関して何か参考になればと思って来たんですが……」

「?? どうしたんスか?」


 知樹はおもむろに海の方を見る。

 大海原にポツンと点在するそれは、先ほどまで真っ逆さまにひっくり返っていたサルデニア島と呼ばれる島だ。

 そして目の前には文字通りの驚天動地を引き起こした天才がいる。


「正直途中から見いちゃって。凄すぎて参考にしようがなかったです……」


 知樹の魔法のポテンシャルに関しては師匠(イオナ)のいう通り十連門レベルのものが内在しているのだろう。

 だがそれを自覚していても、むしろ自覚しているからこそ、テリーヌがやってのけたことを自分もできるのか不安を覚え少し萎縮してしまう。


「まあ、俺としては純粋に楽しんでくれたなら嬉しいっスよ」


 そんな知樹の内情を感じたのか、特に気にする必要はないとフォローをする。


「ここにきたのはテリーヌ。あんたに一つ頼みがあるのよ」

「珍しいっすね、イオナさんが俺に頼み事なんて。でも無茶なことはやめて欲しいっスよ」

「簡単な話よ。知樹(私の弟子)と勝負をして欲しいの」


 知樹よりも前に出てくると、胸を張るというおよそ頼み事をする姿勢じゃない頼み方でテリーヌに要望を伝えた。


「え、ちょ! そんなの聞いてないですよ! 今回はテリーヌさんのマジックショーを魔法の参考にしようとして来たんじゃ」

「言ったらあんた逃げるでしょ」

「……」

「はぁ。図星ってわけね」


 真っ直ぐな目で自分の意見を主張しようとするが、自分の考えていたことを当てられてしまい、思わず黙って海の方を見てしまった。

 正直、こう言い当てられてしまっては、強く出ることができないのだ。

 イオナの方も、知樹から文句はもう出てこないと判断し話を進める。


「俺はいいっスけど、わざわざ俺がやらなくても」

「あんたと知樹をぶつける理由は二つあるわ。一つは十連門の実力を認識させること。もう一つはあんたの魔法を知樹に食わせるためよ」

「食わせる?」

知樹(こいつ)の才能は十連門レベル。しかも見たり感じただけで魔法を覚える超感覚型」

「なるほど。でもそれならイオナさんが相手をすればいいっスよね」


 知樹の才能を育てるには、理論をいちいち説明するよりも上の人間と勝負をして経験値を積む方が遥かに理にかなっている。

 しかしそれなら、テリーヌではなくイオナが直々に相手をした方がいいのではないかというのがテリーヌの言い分である。


「言ったでしょ。十連門の実力を認識させるの」

固有魔法(オリジナルマジック)込みの勝負ってことっスか?」

「そういうことよ。私のは分かりずらいからあんたにお願いしたいわけ」


 本来固有魔法(オリジナルマジック)はテリーヌの『ペーパーズ・ポケット』のように普通の魔法とは一線を画した特殊な魔法なのだ。

 そんな中イオナの固有魔法(オリジナルマジック)『マジック・パワード』は魔法の性能を単純に強化するものだと聞かされている。

 おそらくイオナの固有魔法(オリジナルマジック)は例外中の例外。威力が格段に上がっただけで、使える魔法は普通の魔法使いと大差ないのだ。

 そこで固有魔法(オリジナルマジック)をよりわかりやすく体感できる相手としてテリーヌに白羽の矢が立ったわけである。


「後で見た目はアレだけど美味しいレストランをご馳走してあげるわ」

「師匠、それってまさか」

「本当っスか! イオナさんが言うなら間違いないってことっスよね! どんな絶品料理なんスかね!」

「いや、うん。テリーヌさんがそう思うならいいんだ」


 イオナが言っているのは、昨日昼食を食べに行った深海魚専門レストランのことだろう。

 確かに味は絶品の一言に尽きるが、初見であの見た目の料理を食べようとは普通思わない。

 それほどまでに見た目とのギャップが凄まじかったのだ。

 修行の手伝いのお礼にしては少々悪意のある品に、手伝ってもらう側として申し訳なく思ってしまう知樹。


「引き受けてくれるかしら?」

「このテリーヌ・フォクシー。誠心誠意頑張らせてもらうっス!というわけで、ここの片付けが終わったら広いところに移りましょう」

「わかったわ。さあ、二人とも片付けを手伝うわよ」

「はーい。わかりました!」


 地面に落ちたちり紙、鳩が飛び立った後の羽毛。

 派手に行った分後片付けは大変だが、四人でやれはそれだけ早く終わると言うもの。

 ゴミやマジックで使った道具をまとめ、それらを全て固有魔法(オリジナルマジック)で紙の中へと入れると、意気揚々と港から出ようとするテリーヌ。

 そしてその後をついていく形で三人も歩き出す。

 先程の約束があるからか、鼻歌まじりにご機嫌な気分を醸し出すテリーヌだが、あの料理を知る知樹からしてみれば少し複雑な気分だった。


「テリーヌさん。味はとっても美味しいので期待しないでくださいね」

「え、なんスかその含みのある言い方……」


 決して不味くはないので、はっきりとは言わず注告程度に気をつけるように言う。

 少し不安を覚えたテリーヌの案内の元、一同は修也が修行しているところとは別の広場へ到着した。

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