33. 朝食と今日の予定
修也が修行で明朝に出て行ったあと、しばらくしてソファで眠っていた知樹が、のそっと起き上がった。
眠い目を擦りながら瞼を開け、清々しい朝の空気を肺に取り込んでいく。
しかし、知樹の鼻腔をくすぐったのは新鮮な空気ではなく、お腹が鳴りそうなほど美味しそうな匂いだった。
「ふあぁ〜、今何時だ?」
「あんた、起きるのが少し遅いんじゃないかしら?」
「おはようございます、知樹さん」
時計を見ると九時になったばかりのようだ。
対面にあるソファでは、ナノとイオナが紅茶を飲みながら優雅な朝を満喫している最中だった。
紅茶の隣には、トーストに目玉焼き、ベーコンにサラダと言った、ザ・朝食と言わんばかりのメニューが一つのプレートに乗っている。
自分の方の机の上を見てみると、同じようなメニューとおそらく今さっき入れたであろう紅茶が、湯気をたてながら知樹の目の前に置かれていた。
「朝食ならさっきナノが作ってくれたわ。とても美味しいわよ」
「えへへ、ありがとうございます。昨日帰りに色々と買っておいたんですけど、お二人の好みがわからなかったので適当に見繕っておきました」
「ありがとうナノちゃん。そういえば修也のやつは? 昨日ムサシさんが運んできて、それっきりずっと寝てたけど」
昨日、疲れ切って寝ている修也をムサシが運んできて、そのままベットへと放っていったのだ。
いくら二人用のベットでも、ど真ん中で大の字に寝られては自分の寝るスペースがないため、仕方なく知樹はソファで寝ていたのだが。
「あいつならとっくに修行のために出て行ったわよ」
「そう、ですか……」
自分の知らないところで修也の頑張っていると思うと、感心すると同時に少し自分と比べてしまう。
才能を持っていないだけでこの世界での努力の差はここまで開くものなのか。
思わず修也に同情の思いをかけてしまいそうになるが。
「あんたが今抱いてるのは同情じゃなくて哀れみよ。それはあれだけ努力している修也に対して失礼だわ」
「……わかりました」
「あんたに今できるには、あいつに追い越されないように魔法を覚えることよ」
朝食をむしゃむしゃと食べながら諭すように言葉を放つが、その姿はトーストを食べている女の子にしか見えず、威厳が少し足りないように感じる。
他の魔法使いにあまり会ったことが無いため比べる対象が少ないが、未だに彼女が魔導十連門なのか、疑いたくなる瞬間はあるのだ。
「あ、そういえば今日、こんなものが机の上にあったんですが」
そう言ってナノが取り出したのは一枚のチラシだった。
黄色を基調とした鮮やかでとても目を惹く作りをしており、周りにはカラフルな風船が描かれている。
その中心にはこの前船の案内所で出会った男が、楽しそうな笑みを浮かべながら飛び跳ねている様子がチラシに描かれていた。
「『テリーヌ・フォクシーのマジックショー』って書いてあります」
「テリーヌさんってこの前案内所で会った人ですよね。っていうか魔法の世界でマジックショーって……」
「はぁ、あいつ、まだこんなことしてるのね……」
魔法がある世界でマジックショーという、いかにも驚きが半減しそうなニュアンスに顔を引き攣る知樹。
対してイオナは、これが日常茶飯時とでも言いたげにため息をついていた。
「テリーヌはイベントとかサプライズとかに目がないのよ。あいつの固有魔法はこの前見たわよね?」
「あの紙の中からネックレスの入った箱が出てきたやつですか?」
イオナから話を聞くと、どうやら彼は魔導十連門を辞めたのちに、自分の固有魔法を十分に活かせる運び屋へと転職したらしい。
彼の固有魔法は初めて会ったときに見ており、ナノ宛にムサシから届けられたネックレスの入った箱を、自分の取り出した紙の中から出していたのだ。
「あの固有魔法も、元は自分がやるイベントに便利だからって理由で作ったらしいわ」
「動機がすごいですね……」
「これどうしますか? 見た感じとても楽しそうですよ!」
「内容はどうあれ、私以外の十連門の魔法を見ておくのは悪くないわね。まあ、元だけど」
これまで魔法の最高峰に君臨する魔導十連門には元も含めると三人と出会ったが、実際に固有魔法以外の魔法を使っているのを見たことがあるのはイオナだけだ。
実際に自分の目で最高峰の魔法を見るのは修行の一環にもなると考え、このマジックショーを見にいくことに決めた三人。
「でも師匠、修也はどうするんですか?」
「私たち三人でいくわ。あいつは修行で忙しいでしょうし、邪魔をしちゃ悪いでしょ?」
「わかりました! それじゃあ早速出かける準備をしましょう!」
マジックショーが楽しみなのか、ナノはトーストを口いっぱいに頬張ると、紅茶で一気に胃袋へと放り込んだ。
知樹の方も負けず劣らず急いで食べると、身支度を済ませて出かける準備をし出した。
対して自分のペースで朝食を食べ進めるイオナは、プレートに乗ったご飯を全て食べ終えると、今か今かと玄関で待っている二人の元へ向かった。




