30. チート級の才能
「何やってんだ? 修也のやつ」
「腕立て伏せでしょ。ムサシの修行の一環じゃないかしら?」
一人黙々と腕立て伏せから始める修也。
それを遠目で見ているのが弟子知樹と師匠イオナの魔法師弟コンビである。
先程の共同修行で修也を一方的に蹂躙して、とんでもない魔法の才能を示した知樹は、修行が終わった途端に、使った魔法の説明と次にやることとについてイオナと話をしていた。
「図書館で話した通り、魔法は火、水、土、風、無の五つの属性で構成されていて、マジックライセンスのEからCまでは基本的に無属性の魔法大半をが占めてるわ。もちろん例外もあるけど」
「それじゃあ、俺がさっき使ってたのはBランク以上の魔法なんですか?」
「その通りよ。BランクとAランクは攻撃系の魔法がほとんどね。あんたは才能もあるし、感覚で覚えるのも早いから本来なら段階的にやる魔法を全部飛ばしてるの。まあ、Cランクまでに覚えたい魔法があったら私かナノに聞くことね」
知樹の才能を高く買っているのか、色々とすっ飛ばしていきなりナノの所有しているランクよりも一段階上の魔法を撃っていたようだ。
「でもまさか、四属性を同時に発動できるのは正直驚いたわ。これは、琴葉なんか目じゃないくらいの才能ね」
思い出されるのは、魔導十連門五位にして自分たちと同じ異世界転生者の文文琴葉。
イオナ曰く、魔導十連門で初めての異世界人と言っており、とんでもない快挙を成し遂げた人物だと語られた。
だが、知樹は彼のことを全然知らず、いまいちどう言う人なのかわからない。なぜか修也は彼と一回会ったことがあるらしいが。
「文文琴葉さん、だっけ? どんな人なんですか?」
「気に食わない男よ。私より上にいるのに全然威張らないし、順位が近いからってよく話しかけてくるし、わからないところがあれば教えてくるし」
「非の打ち所がないくらい良い人じゃないですか!」
「だから気に食わないのよ! あの余裕綽々とした笑みがより一層腹が立つのよ!」
その感情は明らかに嫉妬からくるものだった。
人の嫉妬は醜いとよく言うが、これには目もあてらてなかった。
思い出しただけで腹が立つのか文字通り地団駄を踏み、苛立ちと悔しさを地面をサンドバックにすることで発散させている。
プライドの高いイオナにとって、自分より上に異世界人がいることが気に食わないらしく、それに加えて非の打ち所がない性格と、あの笑顔がよりイオナの苛立ちを増強させているようだ。
確かに琴葉を初めて見た時、優しいような、余裕があるような、そんな笑顔を浮かべていた。
見る人によって意見が分かれる笑い方ではあったが、まさかここまで顕著に分かれるとは思わなんだ。
「はあ、はあ、とりあえずあんたの目標は文文琴葉を超えることよ! 固有魔法抜きにしても、互角以上に渡り合えるレベルまで鍛えてあげるわ!」
「師匠の私怨が混ざってるのは気のせいですかね」
修也の方は仲間を守ることを目標として修行をしているが、こちらはどうやら現役の魔導十連門の一人を超えることに目標を定めたようだ。
同じ異世界人で魔法の才能も両者ともにあるらしく、わかりやすい指標として定めやすいというのもあるが、イオナの嫉妬による私怨も含まれているだろう。
「そのために必須になってくるのが今回覚える魔法の技術一つ、複合詠唱よ」
「複合詠唱?」
「まあ簡単に言えば複数の属性を一つに組み合わせることで、新たな属性魔法を生み出す技術のことよ。例えば」
おもむろに自身の右手を知樹の前に差し出すイオナ。
すると、掌から何やら煙みたいなものが出てきて、イオナの手を覆うように煙は下へと下がっていく。その挙動はどちらかと言えば冷気に近いものだった。
そして次の瞬間、何もない場所から掌サイズの氷塊が突如として現れ、イオナの手に収まった。
「これが複合詠唱。この氷は水と風の魔法を組み合わせて作ったのよ」
「それじゃあ、他にも組み合わせはあるんですか?」
「良い質問ね。火と水を合わせて霧に、水と土を合わせて泥にすることもできるわ。ただし、魔法同士の相性もあるから、一概に新しい魔法ができるわけじゃないけど」
「それじゃあ自分で組み合わせを模索していけば良いんですね!俺こういうの大好きなんですよ!」
「まあ、精々頑張りなさい」
自身の魔法の才能に新たな可能性を示してもらい、興奮気味の知樹。それを見ていたイオナはやれやれと言った感じで首を振る。
流石の知樹でもこの複合詠唱は苦労するだろうと思い、わからないところやコツなどは適宜教えるという形で修行を開始した。
近くのベンチに座り込み、読書をするイオナ。
対して知樹は早速イオナに言われた通り四属性の魔法を組み合わせる修行を始めようとしたが。
「師匠! できました」
「早すぎないかしら?!」
知樹の魔法を覚えるスピードが明らかに異常だった。
嬉しそうに師匠に報告する知樹の手には、自分が先程作った氷塊と同じサイズのものが握られている。
修行を開始してからものの数分しか経っていないにも関わらずこの速さ。
イオナの想定以上に知樹の才能は素晴らしいものだったようだ。
「だったら、他の組み合わせも見せてもらおうかしら」
「わかりました!」
そう言うと知樹は地面に両手を当て、手から何かを流し込むような感覚で地面に対して魔法を使った。
すると、知樹の屈んでいる場所から少し前で、地面の形状がゆっくりと歪んでいき、最終的には泥水へと変貌を遂げた。
「お、驚いたわ。早すぎるなんてもんじゃないわよ」
四属性の同時行使しかり、今回の複合詠唱しかり、どうやらアニメや漫画のチート系主人公レベルの才能を秘めていたようだ。
思わず弟子にすら嫉妬しそうになるが、そこは師匠。驚きと嫉妬の心を落ち着かせ、弟子の方へと向き直る。
「知樹。どうやらあんたにはとんでもない才能が秘められているみたいね」
「正直自分でも信じられないくらい上達してますね」
「あんたを弟子にして正解だったわ。四属性を扱える上にこの上達スピード、これならあっという間に私や琴葉を超えるかもしれないわね」
弟子の上達速度に思わず自分の立場の危うさすら感じてしまう。
おそらく知樹の才能は魔導十連門並みかそれ以上と考えるイオナ。
弟子の早すぎる成長に危機感からか、イオナはいつも以上に身を引き締めることにした。
「さっき言ってた時も疑問だったんですけど、普通の人は四属性使えないんですか?」
「魔法で使える属性には人によって個人差があるの。一般人なら無属性だけか、それに加えてもう一属性。十連門レベルなら無属性と三属性、もしくは無属性と残り二属性を極めてる場合が多いわね」
「師匠はどれくらい使えるんですか?」
「私は無、火、水、風よ。残念ながら土属性の魔法は使えないのよ。って言うかなんで私が教えてない土属性の魔法まで使えたのかしら……」
「なんとなくイメージでできました!」
「惚れ惚れするわね、その才能」
「あはは、なんか師匠に勝った気分が……イテッ!」
基本となる属性を全て使える優越感からか、思わず自分の師匠を軽視する言葉をポロッと口から出してしまうが、イオナが聞き逃すはずもなく、無言でスネを蹴られた。
「とにかく! あんたにはそれくらい才能があるってこと。でも気を抜いちゃダメよ。魔法は才能の世界なの。いつどこで自分を超える逸材が現れるかわかったもんじゃないんだから」
「わ、わかりました」
一方は直向きな努力によって能力を補い、剣術を修めようとする修行。
一方は才能とセンスだけで技術を会得し、魔法の知識を深めようとする修行。
同じ異世界人、同じ場所で修行する修也と知樹だが、その形は明らかに違っている。
魔法が使えるか使えないかでここまで違いが出るらしく、努力家と本物の天才が一緒に修行をするこの空間は明らかに異質だった。
その後も修也は一人で黙々と筋トレに励み、知樹はイオナの指導の元、使える技術を着々と増やしていった。




