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28. 一方その頃

「ナノちゃん! この服とかどう? ナノちゃんだったらもう少し明るい服着ても似合うと思うよ!」

「わぁ、可愛いです!」

「ねえ純介、あんたはどう思う?」

「……うん、可愛いと思う」


 修行の厄介払いにとムサシの仲間の二人である荒谷美紀(あらやみき)狙神純介(そがみじゅんすけ)によって、マルセルの繁華街まで拉致されてしまったナノ。

 とは言っても、ほとんど女友達に飢えていた美紀の手によってここに連れてこられた訳だが。


「純介あんたねぇ、そこはもうちょこっとどこら辺が可愛いとか言ってあげないと、女の子は喜ばないわよ。そんなんだからいつまで経っても彼女ができないのよ」

「……ごめん」

「ちょっと! なんで何も言い返さないのよ! 言われっぱなしじゃ良くないって自分でも思わないの? 少しは自分の頭で考えて反論くらいしたらどうなの? そんなんだからいつまで経っても彼女が出来ないのよ」

「……え、えっと。その、ごめん」


 ナノから見て、この二人は仲が良いのか悪いのかよくわからなかった。

 気弱な男子と気の強い女子。どう考えてもミスマッチなのはわかりきっている。

 美紀の怒涛の言葉責めに何も言い返せない純介は、完全に萎縮し顔を俯かせていた。

 どうやら彼はあまり喋らない分、態度や行動によって感情を示す様だ。

 ナノの小さな体だからこそ、前髪に隠れた俯く純介の目をチラッと見ることができたが、視線が明らかに真下を向いており、目には生気の様なものが一切感じられなかった。

 気分が落ち込んでいるからなのか、目を見た瞬間に暗い何かが純介から出ていのに気づき少し引いてしまう。

 美紀はそれに気づかずナノの服を選んでいるが、見てしまったものは無視できないらしく、なにか気分転換になりそうなことを考えるナノ。


「え、えっと、服を選んでるのもいいんですけど、近くのカフェでお茶でもどうですか?」

「カフェ! お茶会! つまり女子会! いいわ、これよこれ。私が求めていたのはこう言う女の子同士でしかできない様なことなのよ!」

「え? 女子会?! それじゃあ純介さんが」

「そうと決まったら早速いきましょ! 純介、あんたもついてきなさい!」

「……え、でも、女子会って」

「か弱い女の子だけにするつもり? あんたは護衛として付いて行かなくちゃいけないの! わかったらさっさと行くわよ!」


 カフェと聞いた瞬間、美紀の頭の中でどう言う脳内変換がされたのか、女子会をすることになってしまった。

 純介のことを案じて提案したはずが、さらに気分を落としかねないことになってしまい、一瞬やってしまったと思ったが、美紀の提案で護衛役という形で女子会への参加券を得たようだ。

 そしてそのまま美紀はテンションマックスで服屋を後にし、そのままカフェへと直行する。

 色々と言っておきながら結局純介も同行させるあたり、どうやらこの二人の関係は悪くは無いと言うのだけはわかった。

 カフェに到着すると窓際の席に通され、ナノの前に美紀が座り、その隣には純介が座った。


「ナノちゃんは何にするの?」

「私はアイスコーヒーにします、ストロー付でお願いします」

「純介、あんたは?」

「……僕は、ブラックコーヒー」

「わかったわ。すみませーん!」


 それぞれの注文を聞いた後、ウェイトレスに声をかけて全員の注文を言っていく美紀。

 二人の注文を終え、次は自身の注文をする番。


「ココアのアイスと……この超巨大特盛パフェを一つ!」


 ウェイトレスに向けてメニューを見せ、自分の食べたいものを指差しで誇張する。

 メニューに載っていたそのパフェは、全長45センチと普通のパフェより明らかに巨大で、食後の一杯として嗜むにはあまりにも大きい器だった。


「た、食べられるんですか? そんなに大きなの」

「大丈夫大丈夫! 私これでも色々食べれるんだよ! 好き嫌いもしないし、なんなら自分で作ったりとかもできるんだから」

「お二人ともお昼は何を食べたんですか」

「……レストランで、フィッシュチップスを」

「私は、ムニエルにマリネにフィッシュチップスにフィッシュバーガーにフィッシュピザにフランスパンにシーフードシチューにポトフ」

(お兄ちゃんの財布の方が心配になってきた……)


 どれだけ胃に詰め込めば気が済むのだろうか。

 明らかに一般人が食べれる量を超えており、それに加えてのパフェ。

 もはや別腹の域を軽く超えており、食べ過ぎで太らないのが不思議でならなかった。

 純介の闇を見た次は、美紀の底なしの食欲を見せられだんだんと兄の方が心配になってきたナノ。

 その後、注文通り頼んだ飲み物と、ウェイトレス二人がかりでせっせことパフェが運ばれてきた。


「うーん! 美味しい! アイスクリームとチョコソースがたまらなく美味しいわ! ナノちゃんも一口食べる? あ、なんならお菓子とか果物と一緒に食べてみるのも美味しそうよ!」

「私はもうお腹いっぱいです……胃もたれしそうなくらいに……」


 美紀の顔が隠れるくらい巨大なパフェは、ソフトクリームにチョコソースがかかっており、お菓子や果物がふんだんに盛られていて、見ているだけで胃もたれを引き起こしそうだ。

 その隣にいる純介は、美紀とは対照的に静かにブラックコーヒーを飲んでいた。


「……お兄ちゃんとはどのくらい旅をしてるんですか?」

「え? ムサシさんと? そうねぇ、一ヶ月くらいかしら」


 ナノには一つ気になることがあった。

 それは、ムサシが自分の知らないところで何をしているのか、そしてムサシが何かやらかしていないかどうかだ。


「お兄ちゃん、何かしでかしませんでしたか? あんな性格だし、人の話を聞かないこともよくあるので」

「そうね、振り返ってみれば色々とやってたわ。悪さをする盗賊団を倒したと思ったら、村を襲った魔物を討伐したこともあったわね」

「……根城の洞窟を崩落、斬撃の衝撃で村が半壊」

「そうそう! そのせいで村の人たちに殺されかけたわね!」

「ほっっっんとうにうちの兄がごめんなさい!」


 人助けをしていると思ったら、それを上回る迷惑をかけていたことを突きつけられ、目の前の二人だけでなく村の人に対しても罪悪感が込み上げてくる。

 申し訳ない気持ちで思いっきり机に頭を打ちつけ、その衝撃でパフェがグラグラと傾く。


「おっとっと……あんまり謝らないでよ。そりゃ、それ以外にも色々してきたけど、前の世界じゃ考えられないくらい充実した毎日だったわ」

「……それに、感謝してる」

「そうね、いきなり知らない世界の、しかも森に飛ばされてね。魔物に襲われていたところを助けてもらったの。あの時のムサシさんは本当に凄かったわ! 一瞬で魔物を一網打尽! まさに剣聖って感じだったわ」

「そう、なんですか、えへへ、それは良かったです」


 兄のことを褒められて嬉しいのか、思わず笑みが溢れる。それを見て美紀と純介も少し笑みを浮かべた。

 笑いながらアイスコーヒーをストローで飲む姿は、その小さい姿も相まって小動物を思わせる。


「ナノちゃんもなんだかんだでムサシさんのことが好きよね」

「?!?! ゴホッ! ゴホッ! な、なんですか藪から棒に」


 唐突な話題を提示され、心の準備なんかできるはずもなく、アイスコーヒーで咽せてしまう。

 自分が兄のことを好き? そんなはずはないと思ってしまうが、いきなりのことに頭が回らず、自分の頭の中を整理することで精一杯だった。


「旅の途中でね、いつもナノちゃんの話をするんだけど、その話が全部ナノちゃんの自慢話だったのよ。『俺の妹は家庭的だから助かってるがや』とか『この服は妹が編んでくれたものだから一生大事にするんだがや』とか」

「……『妹の婚約者はブチ○す』って言ってた」

「も、もうやめてください……」


 赤らめた顔を手で覆い隠し、首を振っていた。

 自分のことを兄に話されただけでなく、それを兄の旅の仲間に聞かされると言う、とてつもない辱めを受け怒りか照れかわからないほど肩を震わせる。

 しばらく経った後、ようやく落ち着いたのか、顔を覆っていた手を下げ、アイスコーヒーをストローで一気飲みした。


「ふぅ、お兄ちゃんには色々と聞きたいことが増えました」

「ごちそうさま! 美味しかったわ! 気が向いたらまた来ようかしら」

「……ごちそうさま」


 ナノが悶絶している間も食べ進めていたのか、ナノがアイスコーヒーを飲み干す頃には、美紀の目の前に置かれていたパフェは綺麗に無くなっていた。


「あ、そうだ。ナノちゃんに一つ伝えることがあったんだ。これなんだけど」


 何かを思い出したかのような仕草をすると、美紀は自分のポケットから一枚の手紙を取り出しナノに受け渡す。


「ムサシさんからよ。私たちはこれで行くけど、お代は払っておくからゆっくり読んでね」


 そう言い残すと、レジで会計を済ませて二人は店を後にした。

 取り残されたナノは、手元に残された手紙を恐る恐る開いていく。

 手紙の封の中には、一枚の折り畳まれた紙が入っていた。その折れ目を開くと、おそらく兄のものであろう筆跡で乱雑に文章が書かれていた。

 兄妹だからこそ読めるのかスラスラと手紙の内容を見ていく。


「え、なにこれ」


 これまでのことや、美紀や純介のこと、ネックレスのプレゼントのことなど色々と書かれてはあった。

 しかし、文を読み進めていくうちに、だんだんと話の内容が不穏になっていった。

 そして最後にはこの一言。


『都市イルナスには行かない方がええがや』

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