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27. ムサシの思い

 昼食後、イオナは討伐隊のところに行くと言って別れ、後の三人で町を少し見回ってから広場へと戻って来た。

 広場には既にイオナとムサシが戻って来ており、どうやら二人が来るのを待っていたようだ。

 その後ろには美紀と純介もいる。


「あれ、師匠もう戻って来てたんですか?」

「クラーケン討伐の説明が結構早く終わったのよ。それよりも」

「ナノちゃぁぁああん! 今すぐ私とショッピングしましょう!!」

「え? え? なんですかああぁぁあああ!」

「……あ、待って」


 広場に到着した瞬間、二人の後ろで歩いて来ていたナノが、猛ダッシュで近づいて来た美紀にさらわれ、そのあとを純介が追いかけて行った。

 どうやら彼女は相当女友達に飢えているらしい。

 一瞬の出来事で対応できず、後ろを振り向いたときにはその姿は無く、今ここにいるのは二組の師弟コンビだけになった。


「えっと、今のは」

「今回はナノがいると危にゃーで、二人に預かってもらうんだがや。小遣い渡してナノを好きにしていいって言ったら喜んで快諾してくれたがや」

「おい今危ないって言ったか?」


 どうやらここにナノを置いておくのを危険と判断したムサシが美紀と純介にナノを任せることになっていたようだ。

 ナノがいると修行に口を出されるというのもあるだろうが、正直それよりも『危ない』という言葉の方が引っかかる。

 それにここにイオナがいるのも少し考えてみれば不自然だ。


「なんで師匠はここに?」

「討伐隊のところに行ったら、同じ目的でこいつも来てたのよ」


 そう言って、隣にいるムサシに親指で指を差す。

 指を差されたムサシも言葉では返さないが、うんうんと頷いていた。


「それでね、こいつに持ちかけられたのよ。『お互いの弟子にとって良い修行方法がある』ってね」


 物凄く嫌な予感がする。

 イオナにしては珍しい、笑顔を浮かべていたのだ。

 しかし、先程料理を食べた時とは違う、いかにも悪巧みをしてそうな満面の笑みを作っていたのだ。


「なあ修也、嫌な予感がするんだが」

「奇遇だな、俺も同じこと考えてた」


 どうやらお互いに考えることは一緒のようだ。

 だが覚悟を決めた手前、逃げ出すのは流石にどうかと思ってしまう。その時だった。


「お先に!!」

「あ、おい!」


 先に動き出したのは知樹の方だった。

 (きびす)を返して、今来た道で広場から出て行こうとする。

 しかし、現実はそう甘くはない。


「『チェーン・バインド』」

「グヘ!」


 修也の子供嫌い矯正の時に使われた拘束用の魔法。

 今回は逃げ出す知樹に対して使われたようだ。

 光の鎖が逃げようとする知樹の体に巻きつき拘束する。

 走り出す勢いと鎖による拘束で、前に倒れてしまい、そのままズルズルと引きずられていく。


「さあ、二人とも来るがや」

「大丈夫よ、しっかりと強くなるように修行は組んであるから」


 よくよく考えてみれば、不可能な話である。

 片方は国が認めた最高峰の魔導士である魔導十連門六位。もう片方は竜を倒す程の実力を持ち、よくわからない瞬間移動を使う剣聖。

 そんな二人から逃げれるわけがない。

 修也もそのことを十分に理解しているからか、逃げるなんて気はもう起こそうとも思わなかった。


「それで、一体何をするんだ?」

「今回の目的はおみゃーの動体視力がどのくりゃー優れているかを確かめるんだがや」

「私は、知樹に魔法を使わせることが目的よ。なにせ、まだ『エクスプロージョン』しか撃ったことがないんだもの」


 とりあえず広場の中心くらいに立ち、今回の修行の目的を聞く。

 イオナの方は、至る所を擦りむいた知樹の肌を回復魔法で即効治癒していた。

 それが終わると、知樹は修也のいる位置よりも15m位離れた場所に立たされ、その隣にイオナも移動した。


「これからおみゃーを的に、二人で魔法を撃っていくんだがや」

「え? ちょっと待って今なんて」

「おみゃーはそれを全力で避けるんだがや」


 ナノをあの二人に任せた理由がわかった。

 確かに、知樹が魔法を誤射してナノに当たったら危ないし、それ以前にこんな荒ごとをナノが止めないわけがない。


「知樹、あんたは私が撃つ魔法を真似して撃ちなさい。ちゃんと弟子の申請もしたし、もう警察に捕まることはないわ」

「いや、そう言う問題じゃ。どういう魔法かもわからないのに」

「『エクスプロージョン』を見よう見まねでできたんだから大丈夫よ。それに、あんたは頭で理解するより感覚で分からせた方が効率よく覚えられるわ」

「わかりました、なんだかできそうな気がする!」


 向こうはこっちの気も知らずやる気を出している。

 それにこの修行、知樹の上達具合で難易度が一気に変化するため、一切気が抜けない。


「準備はできたがや?」

「ああわかったよ! やれば良いんだろ!」


 半ばヤケクソで修行を開始する。

 まずは知樹に手本を見せるためイオナが魔法を撃つ。


「まずは四属性の魔法。基礎の魔法を撃っていくわよ! 『ファイヤー・ボール』」


 野球ボールくらいの火球が修也目掛けて飛んでくるが、スピードは大して出ていなかったので、難なく避けることができた。

 簡単な魔法だからか飛距離もあまり無く、修也の後ろを過ぎるくらいから減速し、空中で消えた。


「さあ、あんたも早く撃ちなさい!」

「えっと、こうか? 『ファイヤー・ボール』」


 またも修也目掛けて飛んでくるが、これは狙いが甘かったのか、避けることもなく修也の右側へ逸れていった。


「おいおい、本当にこれ訓練になるのか?」

「まだ始まったばかりがや。油断は禁物だがや」


 いくら知樹の魔法に関する才能が本物でも、その才能を扱いきれなきゃ意味がない。

 この様子ならまだ全然いけるとたかを括ってしまう。

 その後もイオナが魔法を撃っては、知樹がそれの真似をして撃つという繰り返しの練習が続く。

 最初の方は簡単な魔法というのもあり、避けるのも非常に簡単だった。

 だが後半、時間が経つに連れて自分の体力と知樹の成長が反比例するようになっていった。

 魔法の精度も上がり、一発一発をしっかり避けないといけなくなり、その分だけ体力も削られていく。

 その後も修行は続いたが、だんだんと知樹の成長スピードがおかしいことに気づく。

 そして。


「オラオラオラオラオラァ!」

「いやああぁぁあああ!」


 今では四属性の魔法を同時かつ連続で撃つことができるようになっていた。

 さながら人間ガトリング砲だ。

 しかも、属性ごとに速度に違いがあり、その不規則性が避けるのをより困難にしている。

 教えることは全て教えたのか、イオナの方は攻撃に参加しておらず、知樹の隣で本を読んでいた。


「ちょ! これ以上は本当にまずいって! 当たるって!」

「ほぉ、これでも避けるんか。もう動体視力とか言うレベルじゃないがや」

「何感心してんだ! いや嬉しいけども!」


 横殴りの雨のように魔法はいつまでも修也を狙い続ける。

 しかし、それでも避ける修也にムサシは思わず感心してしまう。

 だが、流石にこれ以上は修也の体が持たないと判断したのか、イオナの方に手を振り、知樹のガトリング砲を止めさせる。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

「少し休憩にするがや。にしても、おみゃーの動体視力は人間離れしてるがや。この様子なら、防御とか受け流しの技術はすぐに覚えれるがや」

「お、おう、とりあえず、水を」


 満足そうな顔つきで修也の元へムサシが歩み寄る。

 とても嬉しそうに今後のことを話しているが、当の本人はそれどころでは無く、膝に手をつき息切れを起こしていた。

 ムサシから投げ渡された水の入った容器を受け取ると、それをグビグビと一気に飲み干していく。

 体の体温が上がっているからか、ぬるい水が少し冷たく感じた。

 イオナの方は、知樹に口頭で今使った魔法の有用性や、次にすることについて説明をしている。しかし、知樹はイマイチ理解していない感じだ。

 それよりも、今は自分のことに集中をしたい。限りなくゼロに近い体力を少しでも回復するべく大の字に寝転がり、天を仰いだ。


「……今頃ナノは何してるんだろうな」

「ナノに手を出したら許さんがや」

「あーはいはい。わかったよ」


 美紀と純介に連れ去られたナノのことを思いながら、ムサシの言葉を軽く受け流す。


「少し、おみゃーと話があるがや」

「なんだ、また説教か?」

「そうじゃないがや。まあ、色々だがや」


 雑談でもしたいのだろうか。

 寝転がる修也の隣でどっかりと胡座をかき、腰に携えた刀を自分とムサシの間に置いた。


「……なあ、なんであんたは剣聖になろうと思ったんだ?」

「……一番の理由はナノだがや。兄としてナノを守るために剣聖になったがや。もちろんナノがそれを望んでないことは知っとった」

「じゃあなんで」

「魔法が使えんがや」


 たった一言、そう言われただけで全てをわかってしまった。

 それは同じ境遇の修也だからこそ理解できるものであり、知樹やイオナなど、魔法が使える者たちからは同情の目でしか見られないものだった。


「ああ見えてナノは一般人より膨大な魔力の吸収率と魔力の保有率を持っとる。魔法を扱う才能の方には恵まれんかったみたいだったが。それに比べて、俺は魔力の吸収率が全く無いがや。だから魔法も使えんし、他の人間の魔力を感じ取ることもできんがや」

「……(ナノ)に嫉妬したのか?」

「それもあるがや。でもそれ以上に自分が何もできんのが腹立たしかったがや。だからやれることは全部やってきたがや。修行、技の考案、そしてこの刀」


 それは自分たちの間に置かれた刀だった。

 ムサシと戦った時もそうだったが、この刀には何か得体の知れない魅力の様なものがある。


「これは十二天武の一本。名前を「天邪鬼(あまのじゃく)」と言うがや」

「十二天武。確か、あの時の山賊が欲しがっていた書物の……」


 思い出されるのは前の町(ミルエネ)の図書館で起きた山賊との一悶着。

 世紀末モヒカン集団が欲しがっていたのが、件の十二天武についての書物だったのだ。


「十二天武は伝説の武器とも呼ばれて、名前の通り十二個の武器があるがや。その力は持つだけで魔導十連門にも匹敵すると言われているがや」

「この刀、そんなに凄いのか」


 寝そべりながらも、自分の隣にある刀を見つめる。

 今に話が本当なら、この刀から発せられる魅力も、なんとなく理解できるものがある。


剣聖(ここ)に行き着くまでに血反吐を吐くほど修行をしたがや。この(天邪鬼)を使いこなすのにも苦労したがや。でも、それでも足りない時はあるがや」


 昔のことを思い出しているのだろうか。

 拳を握り込み肩を震わせるその姿は、今までどれだけ努力してきたのかを語っているように見えた。


「どうしてもナノを守りたかったんだな」

「おみゃーもそう言う経験があるんだがや?」

「ッ!!」


 想定していなかったその一言に、思わず体を起こしムサシの方を見つめる。

 今まで修行の鬼とも言えたその顔は、いつもの賑やかさを忘れ、何かを憂いてるように遠くを見つめている。


「おみゃーの子供嫌いには何か原因があるがや。じゃなきゃそこまで俺らに拒絶反応を示したりはせんがや」

「俺は……」


 昔のことを思い出す。

 あまりにも暗すぎるその思い出は、修也の足枷となって今も昼夜、起きている時も寝ている時も問わず修也の心を縛り付けている。


「その様子じゃ、守れんかった様だがや。別に無理に言えって訳じゃあらせんし、言いたくなかったら言わなくてええがや」

「あ、ああ……」

「だが、今度は守るがや。失ったのなら、もう失いたくないのなら、強くなるがや。強くなって守りたいもんを守るがや」


 よっこらせと起き上がり、修也を見下ろす。

 見下ろされているのに、今度は同じ目線に立っている様な気分だった。

 ナノの兄として、同じ目標を持ったものとして、そして自分の道を示してくれる師範として。

 今の話を聞いたからか、自然と心の奥から熱いものが込み上げてくる。


「なんかやる気出てきたぞ! 俺頑張るぜ。師匠の一番弟子として、必ず力をつけて見せる!」

「おお、頑張るがや!b二番弟子!」

「ああ……ん? 二番弟子?」


 ちょっと言葉に引っかかってしまう。

 てっきり今までの話から、師範は孤独に一人で修行に励んできた人生を送ってきているのだと思っていた。

 しかし、どうしてもその理想をぶち壊してしまいそうな一言が出てきたのだ。


「言っとらんかったがや? おみゃーは二番目の弟子だがや。おみゃーの上には一人、姉弟子がいるがや」

「え、俺はてっきりナノを守るという思いの中、一人で山籠りでもしてたのかと、って言うか姉弟子?」

「ああ、それだいぶ昔の話だがや。弟子を取ったのは俺が剣聖になった後だがや」


 危うく修也のムサシに抱く理想像が崩れるところだった。

 まさかこの話を聞いた後で、自分に姉弟子がいることが発覚するとは思いもよらなかった。


「まあ、弟子とは言っても教えることはほとんど教えきった免許皆伝みたいな状態だがや。だから、弟子と呼べるかどうかは怪しいところだがや」

「そ、そうなのか……まあいいや。とにかく、やる気が削がれないうちに、さっさと修行に戻ろうぜ」


 話している間にだいぶ体力も回復していた。

 背中についた砂埃を払いながら、修行へと戻る。

 今の状態だったらどんな修行でも頑張れる、と思えるほどやる気が出てきており、ムサシもそれを汲み取ってくれているのか、早々に次の修行の準備をし出した。

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