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22. ばったり会う

「やべーな。完全に道に迷ったぞ」

「これが俗に言う迷子ってやつか。師匠とナノちゃんはどこにいるんだ?」


 港町マルセルは上から見下ろした時にわかったことだが、道が物凄く入り組んでいるのだ。

 港の方はそうでもなかったのだが、反対側はまるで迷路のようだった。

 本来であれば、イオナの紹介で美味しい魚介の料理を提供してくれるレストランに案内してもらう予定のはず。

 しかし案内所から出遅れたのと、ナノを連れたイオナの足が結構早く、最初の方はイオナの相当目立つ赤いドレスのような服を目印に追っていたが、入り組んだ町のせいもあり、途中で見失い今に至る。


「二手に分かれようにも連絡手段が無いしな」

「師匠たちと違って土地勘も無いから下手に動けないし」


 日は既に傾いており、このままだと夜になってしまう。

 ホテルに帰ろうにも、ここがどこだかわからない以上、戻ることもままならなかった。


「なあ修也、お前ちょっと道を訪ねてこいよ」

「俺に子供と話せとか、死ねって言ってるようなもんだぞ」

「話すの大丈夫になったんだろ! 子供を克服するいいチャンスじゃないか!」

「無理だ! 身近なあの二人はともかく、見ず知らずの人とか絶対無理!」


 頑なに道を訪ねるのを拒否する。

 確かに見たり話したりするのは、イオナのお陰で以前よりだいぶマシになった。

 しかし、子供嫌いなのは依然として変わらないので、見ず知らずの人に話しかけるのは無理だった。


「だいたい、そんなに言うなら知樹が行けば」


 ドンッ


「うわ!」


 こんな下らないことを喋りながら歩いていたからか、道を曲がったときちょうど誰かにぶつかり、尻餅をついてしまった。

 ()()()()()()()()()()()()からか、向こう側も尻餅をついている。


「修也! 大丈夫か?」

「痛ってー、悪い! こっちの不注意で……あれ?」

「純介! 怪我してない?」

「うん……大丈夫……」


 倒れ込んだとき、少しおかしいと思った。

 普段の修也であれば、子供に触れただけで気絶するはずなのだ。

 なのに、今回は尻餅をついただけで済んだ。

 不思議に思い、痛い尻を押さえながら前を向く。

 すると、同じく尻をさすりながら痛がっている男性とそれを心配そうに見ている女性がいる。

 両者ともに、自分たちと同じくらいの身長だった。


 ―――


「驚いたわ。まさか本当に私たちと同じ境遇の人がいるなんて」

「……」

「正直半信半疑だったけど、これであの人が言ってたことにも確信が持てたわ。二人ともどんな経緯で転生したのかはわからないけど、異世界転移組同士、仲良くやりましょ! って言うか、二人ともこの世界のことどう思う? 子供だらけの世界よ? みんなちっちゃくて可愛いし、子供好きにはたまらない世界よね」

「……」


 第一印象は『あまりにも真逆な二人』だった。

 よく喋る女性の方は、相当奇抜な格好だった。

 ジーンズのショートパンツに白色のヘソだしトップス。色白の肌とピンク色の長いツインテールに青色の眼。

 なんとも派手な格好だった。

 それに比べ、隣の無口な男は物凄く大人しそうだ。

 緑色のロング丈のジャケットに緑色の服と黒いズボン。緑色の髪の毛で、目は前髪によって隠れている。

 前髪の両端は左右に少しだけ跳ねていた。

 後ろには楽器ケースのようなものを背負っている。

 客観的に見てもこの二人が一緒に行動している理由が皆目見当もつかなかった。


「えっと、お二人は一体……」

「あ、自己紹介がまだだったね。私は荒谷美紀(あらやみき)。んでこの隣のが」

「……狙神純介(そがみじゅんすけ)

「俺は水無月修也だ」

「白沼知樹です。それで、お二人はここで何を」

「あ! ちょっと聞いてよ〜」


 自己紹介も束の間、何をしているのかを聞こうとしたら、どうやら愚痴を聞かされる流れにチェンジすると二人は感じとった。


「もう一人この世界の仲間がいるんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったのよ〜」

「き、奇遇だな。俺たちにも仲間がいるんだが途中で逸れて」

「しかもこの町って広くはないけど物凄く入り組んでるじゃない? 大通りとかを歩くならまだしも、こう言う裏路地みたいなのを歩かされると、いつの間にか囲まれて身ぐるみ剥がされちゃったりとかして。そしたらどう責任とってくれるのって話よね! ね!」


 この荒谷美紀と名乗った女性、めちゃくちゃよく喋る。

 修也の言葉を遮ってまでベラベラと喋り倒した挙句、今度は同調を求めてくる。

 正直言ってめんどくさいと思ってしまった。


「……」

「そっちの彼、全然喋らないんだけど」

「ああ、純介はコミュ障なのよ。特に初対面の人には全く話をしなくって本当に困っちゃうわ。私も何度か治した方がいいって言ってるんだけど、一向に治らないのよね〜」


 あなたはもう少し静かにできませんかね。

 よく喋る荒谷美紀と無口の狙神純介。

 最初こそなんでこんな二人が一緒にいるのかと思っていたが、どうやら美紀が純介の分まで喋っているように見えた。


「ところで、修也と知樹はなんでここにいるの? あ、私たちのことは名前呼びでいいから!」

「なあ知樹、俺この人苦手かも」

「バカ! 聞こえたらどうする!」

「ん? 何か言った?」


 この手のタイプの女子とは、同世代でもまともに話したことがないからか、美紀に少なからず苦手意識持ってしまった。

 もちろん悪い人ではないんだろうけど、なんか話しづらい。

 ここは修也に変わって、まだコミュ力がある方の知樹が率先して会話を進めることにした。


「俺たちにもこの世界の仲間が二人いるんですが、二人とも途中で逸れてしまって。さっきまで彼女たちを探してたんです」

「え?! 今『彼女たち』って言った?!」


 おっと、どうやら知樹の口が滑ってしまったようだ。

『彼女たち』と言う言葉を聞いた途端、美紀の目が爛々と輝き出した。


「その二人って女の子なの?!」

「え? いや、女の子っていうか……」

「ねえ紹介してよ! 私これまでの旅でまだ女子と喋ってないんだよね。周りの男共みんなむさっ苦しいわ無口だわで、全然話し相手がいなかったのよ! まあ二人とも話は聞いてくれるんだけど、なにぶん一人はわかってるようでわかってないし、純介は無口だしで、話してるようで話してない状況がずっと続いてたのよ! ねえお願い! 紹介してよ!」

「ちょ! 近い近い!」


 必死にナノとイオナを紹介しろとせがんでくる。

 どうやら女子には女子にしかわかり得ない世界があるらしく、周りの男共では、その相手にすらならないようだ。

 にしたってあまりにも必死すぎである。

 対して、全く喋らない純介は、どうやら先ほどの言葉が堪えたらしく、道端に座り込んでしょげることで感情を喋るより顕著に出していた。


「わかった! わかりましたから!」

「おいおい、どう収集つけるんだこれ」


 あまりにもカオスな空間に思わず頭を抱える修也。

 美紀は依然として知樹に二人の紹介をせがみ続け、純介は道でしょげ続けている。

 どうやってこの場を収めようかと考えているときだった。


「あ! あんたたち! やっと見つけたわよ!全くどこに行ってたのよ!」

「お二人とも大丈夫ですか!」

「し、師匠! 助かっうわ!!」

「あ、あなたたちが知樹が言ってた女子二人ね! 二人ともキュートで可愛いわね! ねえねえ! この赤いドレスどこで買ったの! それに隣のあなたも髪の毛艶々で羨ましいわ! どこのシャンプー使ってるの? ねえ今度教えてよ!」

「ちょ!二人とも誰よこの異世界人! 失礼にも程があるわ!」

「しゃ、シャンプーですか……」


 先ほどまで知樹にせがんでいた美紀は、二人を見つけると速攻で知樹を捨て、二人の元へ駆け込み、膝でスライディングしながら会話のターゲットを二人に移した。

 っというか膝めっちゃ痛そう……。

 イオナが修也と知樹に助けを求めるが、二人は見て見ぬ振りをした。

 それは女性の世界に足を踏み入れないための防衛行為でもある。

 美紀がうるさく二人に対して一方的に話をしていると、今度はイオナとナノが来た方向とは逆側から人が来た。


「おう! 美紀、純介! おみゃーらどこに居ったんだがや」

「あ……ムサシさん。よかった……見つかった」

「ムサシさん! 見て見て! 可愛い女の子見つけちゃった!」


 立ち膝で一方的な会話をしていた美紀が、二人を先程来た男に紹介するために立ち上がった。

 美紀が壁になっていて見えなかったのだろう。

 イオナとナノは目の前の人を視認すると、両者ともに驚愕の表情を見せた。

 特にナノの方が驚いていたのか、口をパクパクさせた後、ようやく一言。


「お、お兄ちゃん……」

「おお、ナノ! やっとかめに会ったな! 元気にしとったか?」

「え?」


 男の方のなまりがすごくて何を言っているのか少しわからなかったが、何かとんでもないことが起きたことだけは理解できた。

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