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19. 同行決定

 突然現れた謎多き青年、文文琴葉。

 その正体はイオナ曰く、異世界人でありながら魔法のスペシャリスト集団である魔導十連門の第五位に君臨している、いわゆる本物の天才だった。


「は、え? マジで?」

「大マジよ。こいつは私の同業者。とは言っても、仲がいいわけじゃないけどね」

「やだなぁ。ちょっと傷つくじゃないか」


 不機嫌なイオナに対して、琴葉はヘラヘラと言葉を取り繕う。

 イオナが苦手意識のようなものを持っているのはなんとなくわかるが、その気持ちも共感できないわけではない。

 風呂で会った時もそうだが、困り顔も悩み顔も、なんというか常ににこやかなのだ。

 余裕があるようにも見えるし、こちらを嘲笑っているようにも見える。

 不気味じゃないが良くも見えない、見る人によって意見が割れる。そんな笑顔を浮かべているのだ。


「だいたい、なんであんたがこんなところにいるのよ」

「十連門ご指名の極秘任務が今し方終わったところでね。もう一人いるんだけど、彼は任務が終わって早々飛んで本部に報告しに行ったよ」

「それで、取り残されたあんたは暇だからここにいるってわけね」

「それもあるけど、もう一つ用事があってね」


 そう言うと、ローブの内側に手を入れ、何やらガサゴソとし始めた。

 取り出したのは一枚の手紙。漫画などでよく見る封を蝋で閉じてあるものだった。


「何よこれ」

「まあ、要約すると、十連門の会議があるから二週間後に首都に来て欲しいんだって」


 イオナは琴葉の話を聞く気がないのか、要約した説明をよそに手紙の封を開け、長ったらしい文章をスラスラと読んでいった。


「一ヶ月前にしたばかりじゃない。今度はなんの集まりなの?」

「なんでも、新しい兵器を作ったとかで、その内容を説明するそうだよ」

「そんなの手紙で報告すればいいじゃない!」

「僕に言われても……多分、情報漏洩を防ぐためとかじゃないのかな?」

「なら、テリーヌに届けさせなさいよ! あいつなら心配ないでしょ?!」

「いや、でも彼は元十連門だし……」


 どうやら一ヶ月前も会議があったらしい。

 知らない名前が出てきたが、それ以上にイオナが琴葉に対して、ものすごい剣幕でまくしたてる。

 琴葉も反論こそするが、非常にやんわりとしたもので、絶やさなかった笑顔も苦笑いになってしまっている。


「それに、君たちも首都のイルナスに行くんじゃないのかい? だったらちょうどいいじゃないか」

「はぁ、了解したわ。さあ、用事は済んだんでしょ? 帰ってちょうだい」

「相変わらず冷たいなぁ。まあいいや、それじゃあ僕は先に失礼するよ。後ろの三人も、イルナスで会ったら気軽に声をかけてね」


 そう言い残すと、にこやかな顔で手を振りながら街中へと消えていった。

 対してイオナは疲れ切ったようなため息を吐いた。

 どうやら、彼のことを相当毛嫌いしているように見える。


「全く、あいつと喋ると本当に疲れるわ……とにかく、同行する理由はできたわけだし、これから師匠として、あんたのことをビシバシ鍛えていくから覚悟しなさい!」

「そ、そんなぁ……」


 膝からガクッと崩れ落ち、そのまま前に倒れ込み項垂れる知樹。

 おそらくは、人生で初めてガチ凹みする知樹を見た気がした。

 しかし、彼の心情を察することはできても、声をかける言葉が見つからなかったため、とりあえずそっとしておくことにした。


「そういえば、船を乗り継いでいくって言ってたよな。イルナスは海の向こうにあるのか?」

「海って言うより湾って言ったほうが正しいわ。この街からもう少し北に進んだところにマルセルって言う港町があって、そこから船が出てるの」

「そこまではどのくらいで着くんだ?」

「ここからマルセルまでは馬車で丸一日、そこから船に乗って二日間でイルナスの港に着くわ」


 つまり、ここからイルナスまでは三日から四日ほどで着く算段になっているわけである。


「それと、これから先のお金は私が払ってあげるわ。どうせ余り余って使い道も無かったし」


 魔導十連門は国の代表の魔法使いというだけあって、どうやら相当給料がいいと見受けられる。

 少なくとも、四人分の交通費や食費を払っても、痛くも痒くもないようだ。

 どうやら、異世界で早くもヒモになってしまったようだ、と思ったがよく考えてみればこれまでもナノのお金で宿に泊まっていたのを思い出す。

 ヒモの称号はだいぶ前に獲得していたみたいだ。

 諦めてイオナのお世話になることにした。


「あんたたちはもう帰りなさい。諸々の手続きと馬車の手配はこっちで済ませておくわ」

「なんか至れり尽くせりですね。すごく申し訳なくなってきました」


 申し訳なさそうにナノが言う。

 今回のこともそうだが、ライセンスのことや知樹のことも含めて、いろいろとしてもらい三人とも頭が上がらない状態だった。

 一人だけ立場だけでなく物理的にも上がらなくなっているが。


「気にすることないわよ。とにかく、修也、知樹、ナノ、短い期間だけどよろしく頼むわね」

「ああ、よろしく頼む」

「よろしくお願いします!」

「はああぁぁああああぁ」

「なんであんただけデカいため息ついてるのよ!」


 一人だけ不服そうにわざと大きいため息を吐く。

 おそらく知樹は、旅の途中でイオナのスパルタ授業があることを予期しているのだろう。

 今もなお、殴りやすい角度で頭を下げているので、とりあえず弟子に一喝のグーパンチを浴びせ、身も心も引き締めさせようとするイオナであった。

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