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16. 才能の開花

 知樹がトイレに行った後、次に行われる実技試験の準備を図書館で待つことにした修也とナノ。

 その間やることは本を読む以外になかったようで、適当に本を見繕ってはそれを読んでいた。

 その中で修也の目に一冊の本が目に止まった。


「創世記神話。この世界の成り立ちねぇ」


 どうやらその本はこの世界の成り立ちと神話についてを綴った書物だった。


「なあナノ。この本って一体」

「ああ、創世記神話ですね。懐かしいですね~、歴史の授業で習った記憶があります」


 どうやらこの世界では、今修也が持っている本は学校の授業に出るほど教育必須のものらしい。


「簡単に言うと『この世界は神様と八人の賢者によって創生された』っていう内容です」

「読む前に盛大なネタバレくらったのは気のせいか?」


 自分が読もうとした本に対して、有識者からネタバレをくらって読む気が失せるなんてことはよくある話である。

 事実、修也もナノのネタバレを聞き、ツッコミを入れた後にスッと本を元の位置に戻した。


「ま、待ってください! 読みましょうよ!」

「えー、だって読む気失せたしな~」

「じゃあ私が口頭で説明しますから!」

「なんでそんなに読ませたがるんだ?」

「創世神話を題材にした御伽噺とかがあって、昔はよく寝る前に読み聞かせをしてもらっていたんです。ですから、その本は私のオススメの本と言っても過言じゃないんです!」

「まあ、そこまで言うなら……」


 渋々本を手に戻し、そのまま近くの机の上で開く。


「それじゃあ読みますね」


 ――――――


 昔々のそのまた昔。

 まだこの世界に何もなかった頃、神様はこの地に文明を築こうと思いました。

 しかし、神様には文明の築き方や世界の作り方が全くわかりません。

 そこで神様は様々な世界から八人の人間を連れてきて、それぞれに役割を与えました。

 神様は彼らを賢者と呼び、賢者達と知恵を出し合いながら、この世界に文明をを創造し、今の生活が成り立っています。

 この世界を創造した神は次に人を生み出し、世界中に人間を落としました。

 その後、神は魂の管理をするようになり、役割を終えた賢者達は私たち人間に紛れてこの世界の行く末を見守っているのです。


 ――――――


「こうやって私たちの世界は生まれたんです」

「いろいろぶっ飛んでるな。世界創造したり、人間作ったり」

「まあ、神様のお話はスケールが違いますからね」


 修也の元居た世界の神話も、場合によっては想像もつかないようなことが起きている時がある。

 そう考えると、この世界の神話もこういうものなんだなと腑に落ちることもできる。


「この八人の賢者ってのは?」

「異世界から連れてこられた最初の人々で、神様に与えられた特殊な力を使ってこの世界を作ったとされる人々です」

「特殊な力?」

「それぞれが、「火」「水」「土」「風」「魔」「善」「悪」「文」の力を与えられたと書いてあります」

「なんか色々あるな……説明頼む」


 理解できそうなものと、よくわからないものがあり、どの賢者がどのような役割を与えられたのかをナノに説明してもらうことにした。


「まず最初の「火」「水」「土」「風」はそれぞれが魔法の要素を作ったとされる賢者。次に「魔」は魔法の基礎や多様性を生み出した賢者。「善」と「悪」は人の感情を作った賢者。そして最後に「文」は文字を作った賢者です」

「最初の四つはわかるし、後の三つもなんとなく理解できるんだが、最後の「文」ってのはなんなんだ?」

「先ほども言った通り文字を作った賢者です。魔法と文字を繋ぐことで、詠唱して魔法を使えるようにした賢者だと言われています」


 今まで魔法もののアニメを見る時、なぜ詠唱すると魔法が打てるのか疑問に思うことはあった。

 原理はわからないが、どうやらこの世界では文字と魔法を繋ぐことで、それを可能にしているらしい。


「へえー、賢者ってのは実際にいるのか?」

「神話ですよ? 流石にいるわけないじゃないですか」

「まあ、それもそうか」


 未だトイレから帰ってこない知樹をよそに、二人仲良く喋る。

 そして、創世神話の本を読み終わり、本棚へ本を戻そうとした時だった。


 ドオオォォォオオオン!!


 建物が小刻みに揺れるくらいの巨大な爆発音が図書館の外から聞こえてきた。

 何事かと思い、図書館の入り口のところまで走る。

 館内は異様に入り組んでいるが、来た道を覚えていたのかすんなりと入り口まで辿り着いた。

 そこには仁王立ちで入り口を守るように立つイオナとその周りに図書館の従業員が数名いた。


「お、おい。この騒ぎは一体」

「あいつらよ」


 たった一言そう言ってイオナは前に指を差した。

 イオナの指差す方向に恐る恐る視線を向ける。

 そこには、いかにも世紀末に出てきそうなモヒカンの集団が図書館の入り口から数メートルのところにいた。


「時代背景間違えすぎだろ! なんで魔法の世界に世紀末の住人がいるんだ!」

「こいつらは近くの山を根城にしている山賊よ。時々山を降りてきては肉や野菜を根こそぎ奪っていく奴らよ」

「それもう猿じゃねえか! 普通そこは山道を通ろうとした人を襲うだろ!」


 何もかも間違っている山賊に、ツッコまずにはいられなかった。

 それにしても、背丈が小さいからか、いくら世紀末モヒカンと言っても少しショボく見える。

 すると、モヒカン集団の中から一際巨大なモヒカンを携えた山賊が出てきた。


「ようよう、イオナさんよう。俺達は交渉をしにきたんだ。何も今すぐ殺り合おうってわけじゃぁないぜ」

「あんた達と話し合うことなんて何もないわ!」

「ようよう、そんなこと言っていいのか?おい」


 一瞬睨みをきかすビックモヒカン。

 すると、集団の中からもう一人のモヒカンが出てきた。

 右手には剣を、そして左の腕には少女が抱えられている。

 少女はガクガクとその身を震わせながら、瞳には今にも溢れそうな涙を浮かべていた。


「ようよう、このお嬢ちゃんがどうなってもいいのか?」

「テメェらふざけんなよ! それが人間のやることか!」

「ようよう!部外者は黙ってろよ……それでどうなんだ?」

「……あんた達の目的は何」


 握り拳を作り、額に血管を浮かべながらも取り引きに応じることにしたようだ。

 イオナもこの状況には怒り心頭といった感じだった。


「ようよう、さすがは魔導十連門、賢い判断痛み入るぜ。俺たちの目的はただ一つ、十二天武の文献をあるだけ全部持ってこい」

「なんであんた達があれを欲しがるのかしら」

「ようよう、上の組織がそれを欲しがっててよぉ、俺たちは下請けってわけだ。そんなことよりどうなんだ? お嬢ちゃんの命と本。どっちが優先かなんて賢い魔導十連門ならわかるよなぁ」


 異様に意気揚々と喋るビックモヒカン。

 周りを取り囲むモヒカン達もそれに呼応する様にニヤニヤと笑い合う。


「……わかったわ、みんな、十二天武に関する文献をありったけ持ってくるのよ」

「クソ。こんな時に何もできないのかよ」

「修也さん……」

「人質がとられているのよ。下手に動けないわ」


 自分の不甲斐なさを見にしみて理解する。

 力も何もない、背負っている剣ももはやただの飾りと化していた。

 主人公ならここで囚われの少女を助け、敵も倒すことができるのだろう。

 何もできない歯痒さに思わず奥歯を噛み締める。

 その時だった。


 ドオオォォォオオオン!!


 今度はモヒカン集団の少し後ろで巨大な爆発が起きた。

 それは、少し離れていた三人にも視認できるほど大きな爆発で、爆風により何人かのモヒカンが吹き飛んでいった。


「ようよう! 一体何が起きたんだ!」

「わかりません! いきなり後ろで爆発が!」


 一瞬だけ爆破の方に全員の意識が向いた。

 この場にいる誰一人としてこの状況が理解できなかったのだ。

 そして、モヒカン集団に視線を戻した時、本来腕に抱えられていた少女の姿がなかったのだ。


「ようよう! 人質はどこに行ったんだ!」

「り、リーダー! あれを!」


 さっきまで少女を捕らえていたモヒカンが上空を指差す。

 そこにはふわふわと宙に浮く少女の姿があった。

 全員がその有様に呆気にとられている中、修也だけ別のものに注目していた。


(足に何か書いてあるな……小さくて読めねえ)

「修也さん、こんな時になに見てるんですか」

「何か勘違いしてる?」


 少女の足に何か細かい文字が見える。

 しかし、あまりにも小さすぎて、修也の目でも捉えることができなかった。

 ナノはなにを勘違いしたのか冷ややかな目で修也を見つめる。

 少女はそのままイオナ達の元へゆっくりと降下していった。


「大丈夫だったかしら?!」

「うぅ、こ、怖かったですぅ」

「もう大丈夫よ。あなた、この子を図書館の奥へ」

「わかりました」


 図書館の従業員が、人質になっていた少女を図書館の奥へ隔離する。

 対して人質を失ったモヒカン達はこの状況に唖然としていた。


「これでもうなにも怖くないわ。さあ、あんた達覚悟しなさい」


 ここからは見覚えのある流れだった。

 イオナは親指を中指を合わせ、エクスプロージョンの態勢に入る。


「『エクスプロー「『エクスプロージョン!!』」


 モヒカン集団の中心で爆発が発生した。

 しかし、爆発を起こしたはずのイオナは呆気にとられている。

 かなり大きな爆発だったため、モヒカン集団はほぼ壊滅状態にあった。


「イ、イオナ、こりゃ流石にやりすぎじゃ」

「私じゃないわ! 私の詠唱に被せて誰かが打ったのよ!」


 イオナに被せるようにエクスプロージョンの詠唱を行なったのは明らかに男性の声。

 それも、三人が聞き覚えのある声だった。


「おいおい、人がトイレで篭ってた時に、こりゃ一体なんの騒ぎだ?」

「知樹?!」


 図書館の外の左側から現れたのは、さっきまでトイレにずっと篭っていた知樹だった。

 その手は、イオナと同じエクスプロージョンの構えをしていた。


「これ、あんたがやったの?」

「え、ま、まあ、封印されてたパワーが弾け飛んだと言いますか?うん」


 カッコつけたいのが見え見えだが、その顔は明らかに魔法を打てたことへの喜びと、自分がモヒカン集団を壊滅させたという優越感からか、ものすごくニヤついていた。


「嘘でしょ。いくら魔法の才があるとは言ってもこれほどなんて……」

「おいおい、そんなに褒めるなよぉ〜」


 知樹の顔がさらにニヤついた。

 さまざまな喜びの感情が入り混じっているのか、なんとも言えない顔に成り果てていた。

 その直後、鎧を着た集団が現れ、迅速な行動で倒れたモヒカン達を担架で運んでいく。


「なあ、あの人たちは一体」

「魔導管理局管轄の魔道警察隊。魔法に関するあらゆることを取り締まってるわ」

「きっと、さっきの騒ぎで誰かが通報したんだと思います」


 しばらくすると、鎧集団の中から隊長格らしき人がツカツカとイオナの目の前まで歩み寄り、そのままイオナに対して敬礼した。


「魔導十連門イオナ・メディッサ様とお見受けいたします。今回は山賊の退治にご協力していただき、誠にありがとうございます!」

「……私はなにもしてないわ」

「それともう一つ」


 今度は知樹の前まで歩き出す。

 今回の件、目に見える結果で最も活躍したのは何を隠そう魔法の才を遺憾無く発揮した知樹なのだ。

 おそらくは、山賊退治の第一人者として表彰されるのだろう。

 そんなことを考えるとますます顔のニヤけが止まらなかった。

 そして知樹の目の前に立った兵士は自分よりも身長の高い知樹を見上げて一言。


「ライセンス外の魔法の違法発動により、貴殿を逮捕する」

「え?」


 この場にいる全員。特に知樹の活躍を知る修也、イオナ、ナノはこの一言を受け入れるのに数秒の時間を要してしまった。


「と、知樹が逮捕?」


 山賊退治の功績を挙げた人物に贈られるものとしてはあまりにも酷い一言である。

 そのまま知樹の手には、刑事ドラマなどでよく見る手錠がかけられてしまう。

 齢十七歳にして早くも犯罪歴を残してしまう知樹であった。

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