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15. ジャパニーズ土下座

「うわわぁぁあああああ!」


 いつものように自分の雄叫びで目を覚ます修也。

 昨日あれだけ子供嫌いを治すための実験もとい拷問を受けたというのに、夢の内容が全く変わっていないあたり、どうやら成長の『せ』の字も無かったようだ。


「うるさいぞ! いい加減その雄叫びやめろよ!」


 昨日とは違い、自分よりも早起きをしたらしい知樹。

 うるさいというのなら昨日は何故これで起きなかったのかと疑問を覚えたが、それよりも気になることが一つあった。


「あれ? なんで俺ベットに。ってか今何時だ?」

「朝の7時だよ。お前、昨日ナノちゃんが抱きついた瞬間に気絶して、そのまま目を覚さなかっただろ?」


 『え? そうなの?』という表情を浮かべる修也。

 実験の後遺症か、どうやら昨日の記憶が一部すっぽ抜けているようだ。


「おいおい、まさか元に戻ったなんてことは」

「二人とも、おはようございます!」


 昨日の努力が全て水の泡になったのかと思い、思わず冷や汗を掻く知樹。

 すると、扉からナノが入って来て元気よく二人に挨拶した。


「あ、おはようナノちゃん」

「おう、おはよう」

「!!」


 ナノを視認したのにも関わらず、修也はまるでそれがいつも通りの日常の挨拶をするかのように返事を返した。

 これには、思わず二人も安堵の表情を浮かべる。

 とは言っても、それは修也を思ってのことではなく、昨日の自分の努力の成果に対してのものだった。

 対して修也はそのことを気にも留めず、出かける支度をしだした。


「うう、よかった、よかったです」

「ああ、まるで子供の成長を感じる親の気持ちだよ」

「お前ら俺に失礼すぎない?! どんだけ過小評価してたんだよ!」


 背中に剣を背負って、出かける支度を済ませる。


「魔法をかけてもらう必要がなくなったとは言え、やっぱ街に出るのは緊張するな」

「昨日もさっきも大丈夫だったんだ。街の人とぶつからなければ気絶することもないだろう」


 そう言いながらホテルを後にする三人。

 どうやら知樹の言っていたことも間違いではなく、実際に街に出て周りの人々を一瞥しても気分が悪くなることはなかった。

 自分の中で子供嫌いが改善されたとは思っていないが、この様子を見れば自信を持って成長したと言えるだろうか。


「そういえば知樹、ちゃんと魔法検定の勉強はしてきたのか?」

「お前が寝てる間に勉強したから大丈夫だよ」

「まあ、魔法検定とはいってもEランクの魔法は筆記も実技もさほど難しくないですから、お二人なら余裕で百点満点ですよ」


 修也が気絶する心配もほとんど消え、ストレスフリーで足を図書館へと進める。

 Eランクの魔法検定も余程のことがない限りは落ちることはないため、しっかりと勉強をした二人ならさほど問題はないだろうと全員思っていた。


 ―――


「それで、この点数はなんなのかしら?」


 ランティスト国立図書館一階にて、魔導十連門六位イオナ・メディッサは頭を抱え、うな垂れている。

 図書館についた三人は早々に魔法検定の筆記試験を受け、その間ナノは図書館を散策するという形で時間を使っていた。

 筆記試験自体はイオナの監修の元、図書館の一室で行われていたが、約一時間で終わり二人とも自信満々の笑顔で部屋を後にした。

 あとは採点を待つだけとなっていたが、約十分ほど経ったあと、採点が終わったのか、左手に二つの紙を持ったイオナが部屋から出てきた。

 しかし、紙を持った手は震えており、顔も若干下を向いている。


「どうでしたか? まあ俺達なら満点でしょうけど」


 知樹のこの一言がイオナの何かに刺さったのだろう。

 俯いた顔を上げると、憤怒という言葉が一番似合う顔が、そこにはあった。


「『エクスプロージョン』!」

「ぎゃああぁぁああああ!」


 そのまま流れるようにエクスプロージョンをうたれ、まる焦げになって仰向けに倒れた知樹。

 その光景を見ていた修也は、イオナと初めて会った日のことを思い出し、若干顔を引きずっていた。


「修也はいいわ。魔法を使えない分こっちで満点を取れていれば合格を出すつもりだったし」


 知樹を再生させながら、震えた小さな声で呟く。

 体が完全に再生しきり、上半身だけを起こすとそこには知樹を軽蔑とも憤怒とも取れる目で見下すイオナがいた。

 そして、手に握っていた紙を知樹の目の前に突き出す。

 その紙は二人の採点の結果だった。


「えっと、イオナさんこれは」

「いいから見なさい」


 あまりの圧に何も言い返すことができず、そのまま紙を受け取る。

 一枚目は修也の採点結果。

 そこには全ての問題に対してマルが書いてあり、五十の文字が書かれている。

どうやら修也は筆記試験では満点だったようだ。


「お、修也! よかったじゃないか。お前満点だってよ!」

「ま、まあ当然だろ。結構簡単だったし」


 そのままの流れで二枚目をめくる。

 そこはまさにバツマークのオンパレードだった。

 マルに関しては二つしか書いておらず、点数の欄を見てみると、まるでイオナの怒りを誇張するかのように巨大な十の文字が堂々と書かれてあった。


「それで、この点数はなんなのかしら?」


 そのまま最初の一言へと戻る。


「申し訳ございませんでした」


 知樹が取った行動はジャパニーズ土下座だった。

 地に頭をつける知樹を見て、頭を抱えるイオナと、若干引いてる後ろの二人がいた。


「私言ったわよね。筆記と実技の五十点ずつで百点にするって。半分の五十点を取れば合格って言ったわよね?」

「はい、確かにおっしゃってました」

「あんた、昨日何時間勉強したの」

「えっと、まず単位が違います」


 上半身を起こしながら、昨日は一時間すら勉強していないと遠回しに言う。

 何時間という問いに対してこの返答はマズかったのか、すぐさまエクスプロージョンの体制に入るイオナ。


「ま、待ってください! もう少し話を」

「話すことなんてないわ! 脳の髄までキッチリ再生させてあげるから覚悟しなさい!!」


 もう一発くらうのは流石に嫌だったの、腰を抜かしながら後退りをする知樹。


「ストップストップ! 修也! ヘルプミー!!」

「はぁ……ったくしょうがないな」


 頭をかきながらため息をつく。

 親友の哀れな姿に呆れながらも同じ痛みを知るもの同士、これ以上見ていられないと思ったのか、知樹を庇うようにイオナの前に立つ。


「試験は実技もあるだろ? そこで四十点取れれば合格できるじゃねえか」

「こいつがいくら他の異世界人より魔法の適性が高くても無理よ。異世界人は魔力の吸収率も体内に保有できる量や質も悪いの。私の見立てじゃ、取れて二十点が限界ってところかしら」

「そんなのやってみなくちゃわからないだろ」

「やらなくても無理なことくらい見ればわかるわ。魔導十連門を舐めないでよ」


 二人の間にひりついた空気が流れる。

 アニメや漫画ならここで二人の視線にヒバナが散る表現が出るだろう。

 しばらく無言の時間が続いたが、二人に呆れたのか、ため息をつきながらイオナは後ろを向く。


「まあ、私には関係のないことよ。せいぜい足掻いてみることね」


 実技の準備に取り掛かるのか、イオナは三人のいる場所から去ろうとする。


「ああ、それともう一つ」


 何かを言い忘れたかのように振り向き、異世界人の二人を一瞥する。


「この世界の、特に魔法に関しては努力が一切通用しないと思ってくれていいわ。やってみなくちゃわからないはこの世界じゃ無意味だと言うことだけは頭に入れておくことね」


 注告なのかお節介なのか、それを言い残すと今度こそ三人の前から去っていった。


「魔法に努力は通用しない……か」


 この言葉が一番響いていたのは知樹よりも修也の方だった。

 事実、子供を見ただけで気絶するよりはだいぶマシな状況になったが、魔法が使えないと言われたことは依然として変わらないし、おそらくそれは真実だろう。

 修也もまだどのような魔法があるのかをあまり理解していないが、この後の実技でさらに現実を突きつけられることになる。

 それが分かっているからこそ、魔法は努力じゃどうにもならないという言葉が骨身に染みて理解できた。


「確かに魔法は使えないかもしれない。でも、それでも、俺はこの世界を生き抜いてやる」


 拳を握りしめ、改めて覚悟を決める修也。

 その言葉が知樹の心を打ったのか、未だ上半身を起こしただけの状態の知樹が、目を瞑ったまま歯を食いしばっていた。

 それに気がついたのか、知樹も自分に同情してくれているものだと思い、少しだがウルッときてしまった。


「知樹……お前」

「修也……スマン! トイレに行ってくる!」


 それだけ言い残すと、イオナが去っていった方向とは逆方向に走り抜けていった。

 どうやらシリアスな雰囲気に押され、トイレに行くタイミングを完全に失っていただけのようだった。


「……なあナノ、俺、あいつの親友やめていいかな?」

「今回ばかりは修也さんに賛成です」


 ほんの少しだが、知樹が試験に落ちることを願ってしまう。

 なんなら、トイレに行く途中で漏らして仕舞えばいいと思ってしまう修也だった。

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