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木の実に転生  作者: B.Branch
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閑話〜トトとカカ

それは、降り続いた雨がようやく止んだ、そんな日だった。

雲間から太陽の光が差し込み、雨粒が眩しく光る。

魔樹であるトトは久しぶりの太陽に嬉しげに枝葉を差しのべ、空を見上げた。


トトの目にソレは太陽の光から生まれたように見えた。

雲の隙間から、光とともに一羽の鳥がひらりと舞い降りたのだ。

その鳥は真紅に染め上げられた美しい姿で、瞳は雲間から差す光を模したかのように輝いていた。


魔鳥カカ、とその鳥は名乗った。

魔樹と魔鳥は完全なる異種族でありながら、共生し助けあう、そんな関係だった。


『美しい』

トトは思わず、呟いた。

『よく言われますわ』

カカの返したその言葉に、トトは愉快そうな笑いをこぼした。

『月並みな言葉しか操れぬ、しがない我が身をお許しください、魔鳥の姫君。』

まだ年若い魔鳥カカは、幼さの残るしぐさで、ついと嘴をそらす。

『許しますわ。貴方の枝葉は心地よく羽が休まります。また、来るかもしれませんわ』

尊大さも愛らしく、トトはその艶めく羽毛を撫でることのできない自身を惜しく思った。

『お気に入りいただき嬉しく存じます。是非、またお出でください』


その次の日も、また次の日、そのまた次の日もカカはトトのもとを訪れた。

長き月日が経ち、カカはより美しく艶めきを増し、子供らしい愛らしさは、大人の女性の愛らしさへと姿を変えた。


『カカ、元気がないね。どうかしたのかい?』

いつになく沈んだようすに、トトは心配そうに尋ねた。

『皆がつがいを持つように言うのです』

それは当然のことだと、二人には分かっていた。だが、心にさざ波が立つのは止められなかった。

『カカの隣に立てるものはとても幸せだろうね』

カカは(うつむ)き、小さな声で『そうね』と呟いた。

二人の間に、いつもの心地よい沈黙とは別の静寂が横たわった。


その日からカカはトトのもとを訪れなくなった。

トトは自身の不甲斐なさに歯噛みした。

何もかも違う二人。

鳥と木、比べるべくもなく同一のところを探す方が難しい。

そして、二人の間を隔てる最大のものは、その寿命だろう。

彼女は同族のものと(つが)った方が幸せになれる。

そう考えた瞬間、彼女の泣き出しそうなキツめの瞳が脳裏に閃いた。


『迎えに行かなければ』

トトは唐突に、自分のすべきことに気づいた。

一瞬の猶予もない、動き出さなければ。

トトは自身を根こそぎ引き抜くために、大地を揺らした。

周りにいた動物たちは我先にと逃げ出して行く。


『何をしているのです!?』


声のした方を見ると、愛しい魔鳥カカが真紅の翼をはためかせ、トトに向かって飛んでくる。

『カカ・・・』

トトは都合のいい幻でも見ているのかと思った。

『死ぬつもりですか!?何を考えているのです!!』

怒り心頭のカカに、トトはやっと現実だと気づく。

『君を迎えに行こうとしていた』

トトが答えると、カカの瞳から一雫の涙が零れ落ちた。

『トト・・・』


カカの涙にトトは急にワタワタと慌て出す。

『分かっているんだ!私と君では本当の意味で(つが)うことはできない。それに大空を一緒に飛ぶことも自由に移動することさえできない。私は君をこの地に縛り付け、自由を奪う。私に君を望む資格がないことは分かっているんだ・・・』

早口で言いつのり、いつも穏やかで冷静なトトとは思えない様子に、カカは少し嬉しくなった。

『私も思っていました。私は貴方に相応しくないと。私はいずれ貴方をおいて死んでしまいます。寿命の違いすぎる私は貴方を傷つけ、悲しませるだけの存在なのかもしれないと・・・でも、私は貴方の側にいたいのです。私の我儘です』

止まったはずの涙がまた溢れそうになる。


トトは騎士の誓いの儀式のように、その身を(ひざまず)かせることができたらと思った。

『そうか、では私にも我儘を言わせてくれ。どうか私の側でその翼を休め、私を君の戻る場所にして欲しい』

トトが請うと、カカはその身をトトの幹にそっと寄り添った。

『はい』


その後二人は、とても仲良く幸せに暮らした。


しかし、終わりの刻は容赦なく訪れる。

カカを失った日から止むことがないかのように、行く日も雨が降り続いた。

トトは自身の心のようだと思った。

そんなある日、久方ぶりの太陽が雲間から覗いた。

トトはカカと出会った日のことを思い出していた。

『彼女は光そのものだった』


あの日のように雲の隙間から一筋の光が差す。

ふと、足元を見ると、そこに一本の若木が生えていた。

不思議に思っていると、なんとその木に卵が生り、生まれたのは魔鳥だった。

魔鳥たちはトトの周りを飛び回り、カカのように幸せをくれる。


『カカ、私たちの子供が生まれたよ。私はこの子たちを大切に育てよう』


トトは空を見上げ、誓いの言葉を呟いた。

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