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しゃーないな  作者: そら
6/6

第6話 空が好き

これで完結です。


兵頭圭吾の妻、詩織は53には見えないくらい、若々しかった。


本宅でこうして一緒に暮らしていても、何故かこの人は私の空気を邪魔する事がなく、思ったよりも楽に暮らしていけていた。


彼女はそれなりの家のお嬢様だったらしいが、さすが圭吾の妻に収まって姐さんとやらをしているだけあって、その凛としながらも、かもしだす物騒な気配はさすがだった。


そしておもしろい事に懐がとても狭い。


狭いのだ、この私が大丈夫かと思うほどに。


彼女いわく、あの男のそばで沢山我慢して生きてきたんだから、残りの人生、一つたりとも嫌なことはしない、だそうだ。


人であれ物であれ、選り好みしてなんぼ、という彼女に、当初この本宅ではなく別なマンションが私に用意されていたのだけれど、なぜか顔合わせの席で気に入られてしまいここにいる。


「変わった子」・・・・彼女の初対面の言葉だ。


初めて連れてこられたとき、その本宅の広間には、幹部以上が呼び集められて、私の到着をいまかいまかと待っていた。


もちろんトップの妻である彼女もいたのだけれど、私はすぐに圭吾の隣に座らされて紹介されながらも、うわのソラだった。


この都会で見る空が、その色合いがあまりにも膜がかかったかのようで、複雑な層をなしていて、それがとても気に入ってしまい、着いてそうそうの顔合わせなど、もはや意識の外で、頭の中では、どうやら空の色というのは、人間のありようの濃さに反映して、その色を変えるのかと一人思っていたりした。


そんな好きな事を見つけてしまうと、私は自分の中を好きな事でいっぱいにしてしまうので、周囲から見れば、全てを無視したわれ関せずに見えてしまう。


その時も一人一人あいさつを受けていたらしいが、それに何一つ返さず、あまつさえ、トップの圭吾が何か話しかけてきたのに私が答えなかったので、さすがに一部が怒りだし、私に声を荒げ近づいてきた男が数人いて、私の前に立ちふさがる影に、やっと私は現実に戻った。


それに目を向けても、私は別段反応はしなかったが、すぐそばにいた誠吾がすかさず前に出て、彼らを恫喝し、そのまま「俺の大事なもんに手ぇ出すなんて、躾をやり直さなきゃあいけねぇなぁ。」と、笑いながら、そのままその場でひどい「躾」とやらが行われた。


他のその場にいる人間が、口々に顔色をなくしながら懇願するも、それはいっこうにおさまらなかった。


やがてうめきながら、どうやら私に謝罪しろと言われた彼らの中でも、一番上らしい人間が私に這うように近づいてきた。


「あっ、血がつく。」と思った私は、あの頃当たり前に斉藤がよくしていたように、誠吾の腕を求めた。


うん、不思議だけど、誠吾も何も言わずに、阿吽の呼吸で私をすぐさま抱きあげた。


すると、あれっ?ある意味またしても場が凍った。


場が凍ったまま、何事もなかったかのように、私の歓迎の宴が引き続き行われた。


ちょうどお腹も減ってきたので、もちろん私はおいしくいろいろ頂いた。


時折、圭吾や誠吾、近江が私の世話をいそいそとやく。


食べたいものは、すぐに私の皿にとってくれる。


いたれりつくせりで、その宴は終わった。


そんなこんなで、大の男も震え上がる、こんなリンチにも少しも動じず、まして、あごで誠吾を使い、トップである圭吾も古参の幹部が自分を思って声を荒げた事を知っていてもなお、とりなしもせず、ニコニコと私を見ていた様子に、私は絶対のタブーに、この組織の中で初対面からなってしまった。


その後、詩織さんに名前呼びを強要され、


「あんた本当に私らどうでもいいと思ってるでしょ。おもしろいわぁ。」


との事で何故か気に入られこうして一緒に暮らしている。


それに誠吾の愛人の一人の美香さんとも、よく遊ぶ。


彼女はとても愛人業を割り切っていて、詩織さんの経営する高級クラブの№1で、あの騒動の後、わざわざ本家までやってきて、私にごますりにきたと堂々と言った女だ。


本家に足を踏み入れる事のできる愛人は、今のところ詩織さんお気に入りの美香さんだけで、何やら私はこの女性たち二人に、女の子としてのあれこれをいらんことに世話されている。


まあ基本めんどくさがりな私だ。


髪を洗うのも、あまつさえ着替えですらも、まあやってもらうのに、いなやはない。


時々忙しいはずの、あの3人が当たり前に乱入するのでさえ、もう慣れてしまった。


この都会の空が気に入っているうちは、別にいいか。


私なんてそんなもんでここにいるけど、彼らの埋めても埋めても乾き続けるありように、ちょいと私でさえ少し自分が心配になる。


盲目的に私を求める彼らは、斉藤の狂いようより悪い気がする。


私がこの都会の空にあきた時、無事ここから逃げ出せるだろうか。


私はこの身一つあればいい、ただ好きなものに出会えればいい。


ただ、ふらふらとクラゲのように生きていたい。


地に足が付くなんて、絶対無理。


けれど何だか最近、深い地の底から、いくつもの蔦が私にからみついてくる。


そこにひときわ黒々と斉藤のものも混じっている気がする。


何はともあれ都会の空はいい。


気まぐれに鈍く重いのがいい。





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