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第三巻 第二十一章 制服を着ない朝
西村千尋は、目覚まし時計を止めた。
午前六時半。
起きれば、いつもの電車に間に合う。
制服は椅子の背へ掛けてある。
鞄の中には教科書も、提出した退部届の控えも入っている。
机の上でスマートフォンが震えた。
梓から。
『今日の唐揚げは焦げてない』
写真が一枚。
次に、ひよりから。
『生徒会室にお菓子があります。日持ちするものです』
南から。
『記事、机に入れました。読まなくてもいい』
高橋先輩からは、公開放送の感想集を返してほしいという、用件だけの連絡。
長谷川元会長からは何もない。
気遣って連絡しないことを選んだのだろう。
宮本先輩から、朝の発声練習の短い音声が届いた。
最後に、佐久間さん。
『生徒会室の扉は、いつでも開けます。返事は不要です』
千尋は画面を伏せた。
優しい。
だから、痛い。
制服へ手を伸ばす。
指が、袖に触れる。
着ればいい。
駅へ行き、電車に乗り、教室の扉を開ける。
誰も責めないだろう。
それが分かっているのに、体が動かなかった。
千尋は制服から手を離す。
ベッドへ座り込んだ。
今日は行けない。
明日は分からない。
それでも、スマートフォンの電源は切らなかった。
唐揚げの写真を、もう一度開く。
昨日より、少しだけ綺麗だった。




