第47話
収穫祭の翌日、国王からの使者が到着した。
正式な表彰式のためだった。王家の紋章を持つ騎士が二人、書状を携えて城に入った。ゲルハルトが慌てて式の準備を整え、エリゼとレイナルトに礼装を用意するよう伝えた。
「礼装など持っていない」
レイナルトが言うと、ゲルハルトが「昔のものがあります」と言って押入れから引っ張り出してきた。少し窮屈そうだったが、着ることはできた。
エリゼはリーナに手伝ってもらって、辺境に来てから初めてまともなドレスを着た。農作業の格好ばかりだったから、リーナが「やっとです、やっと」と言いながら涙ぐんでいた。
城の広間に農民たちも集まった。
国王の使者が前に立ち、書状を広げた。参列者が静まった。
「本日、ヴィクトール王陛下の御名のもと、ヴォルフ伯領の農業振興における卓越した功績を表彰する」
使者の声が広間に響いた。
「レイナルト・ヴォルフ辺境伯、ならびにエリゼ・フォン・アルトワ上級侯爵令嬢」
二つの名前が、並んで呼ばれた。
エリゼは前に出ようとした。
そのとき、手を握られた。
レイナルトだった。
隣に立っていたレイナルトが、エリゼの手を——そっと、しかし確かに、握っていた。
エリゼが驚いて顔を上げると、レイナルトは前を向いたままだった。使者の方を見ていた。表情は動いていなかった。しかし握った手は、離れなかった。
それから、低く静かに言った。
「……もう離さない」
エリゼは前を向いた。
目が熱くなった。こらえようとしたが、こらえきれなかった。涙が一粒、頬を伝った。
使者が書状を読み上げ続けていた。広間の農民たちが息をのんで聞いていた。誰もエリゼの涙に気づいていなかった——たぶん、マルタ以外は。
老農婦が一番後ろで、口を押さえてうんうんと頷いていた。
表彰式が終わった後、ゲルハルトが使者の対応に回った。
エリゼとレイナルトは広間の隅に並んでいた。
「手、離れていましたね」
エリゼが言った。式が終わった後、いつの間にか手が離れていた。
「……人前だったから」
「式の最中は人前ではなかったんですか」
レイナルトが口をつぐんだ。エリゼは笑いをこらえた。
「レイナルト様」
「なんだ」
「嬉しかったです」
レイナルトが横を向いた。
「……俺も」
短く言った。
それだけで、十分だった。
農民たちがわらわらと近づいてきて、「おめでとうございます」「よかったよかった」と声をかけた。マルタが「やっぱりいい夫婦だ」と言った。レイナルトが「まだ夫婦ではない」と返すと、マルタが「時間の問題だよ」と笑った。
ゲルハルトが遠くから二人を見て、静かに頷いた。
その目が、少し潤んでいた。




