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必死で尽くしてきた王子に婚約破棄されたので、自分のために生きることにしました  作者: 小林翼


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第46話

 収穫祭の当日は、朝から晴れた。


 東の広場に屋台が並び、農民たちが朝早くから荷を運んでいた。今年育てた小麦、根菜、豆、干した果物——それぞれが自分の畑で取れたものを持ち寄った。去年まで荒れていた土地から取れたものを、自分の手で並べる。その誇らしさが、農民たちの顔に出ていた。


 周辺の領地からも人が来た。馬車が続々と城下に集まり、広場はあっという間に賑わいを見せた。辺境がこれほど人を集めたのは、記憶にある限り初めてのことだとマルタが言った。



 昼過ぎには宴が始まった。


 笛の音が広場に響き、子どもたちが駆け回った。エリゼが農民の女たちと並んで輪になって踊ると、周辺領地から来た客たちも混じってきた。去年よりずっと大きな輪になった。


 レイナルトは今年も輪の外にいた。


 ゲルハルトが「旦那様も踊りませんか」と言うと、「踊れない」と即答した。去年と全く同じ台詞だった。


「毎年同じことをおっしゃいますね」


「毎年、踊れない」


「しかし去年より眉間の皺が少ないですよ」


 レイナルトが何も言わなかった。


 しかし確かに、去年とは違った。去年はただ見ていた。今年は——見ながら、少し笑っていた。誰かが転んで、周りが笑って、エリゼも笑って——そのたびに、レイナルトの口元が動いた。



 夕方、宴が盛り上がってきた頃、マルタが輪の中心に立った。


 老農婦が声を張り上げた。


「みなさんに聞いてもらいたいことがある!」


 音楽が止まった。全員がマルタを見た。


「エリゼ様とレイナルト旦那様は、いつ結婚するんだい!」


 広場が爆発した。


 笑い声と歓声が一度に上がった。子どもたちが「けっこん!」と繰り返した。ドルン村のグスタフ老人が「そうだそうだ!」と続いた。農民の誰かが「早くしなきゃ」と叫んだ。


 エリゼは顔に血が上るのを感じた。


 隣を見ると、レイナルトが珍しく固まっていた。耳が赤かった。


「マルタさん!」


 エリゼが声を上げると、マルタが涼しい顔で言った。


「みんなの総意だよ。私だけじゃない」


 周囲から「そうだ」「そうだ」という声が次々と上がった。ゲルハルトだけが「私は何も申しておりません」と言いながら、口の端が上がっていた。



 宴が終わりに近づいた頃、エリゼはレイナルトの隣に並んだ。


 二人で遠くの焚き火を眺めながら、しばらく黙っていた。


「さっきは、すみません」


「マルタが言ったことか」


「はい」


「……謝ることではない」


 レイナルトが言った。


 エリゼが横を向くと、レイナルトは焚き火を見たままだった。耳がまだわずかに赤かった。


「農民たちに、見透かされているらしい」


「……そうですね」


「悪いことではない、と思っている」


 その一言に、エリゼは胸がじわっと温かくなった。


 悪いことではない——それはつまり、農民たちの「総意」を、否定しないということだ。この人なりの、精一杯の言葉だとわかった。


「私もそう思います」


 エリゼは言った。


 レイナルトが短く息を吐いた。それが、この人なりの笑いに近いものだと、一年かけてエリゼは学んでいた。


 焚き火が揺れた。辺境の夜が、温かかった。

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