第39話
秋が深まり、そして冬を越えた。
春になった朝、エリゼは夜明け前から外に出ていた。
辺境の北側に広がる枯れ野——かつて鉱山跡地の廃土が堆積していた荒地だ。土壌の改良を始めてから八ヶ月。ようやく今夜、試みる準備が整った。
エリゼは荒地の中央に立って、目を閉じた。
深く息を吸う。辺境の夜明けの空気は冷たくて、澄んでいた。
両手を広げた。地面に向ける。
魔力を流した。
今まで経験したことのない量の魔力が、体の奥から溢れ出した。
細い糸のように地面へ染み込んでいくのではなく——川が氾濫するように、広がっていく。荒地の土の下を走り、石の隙間を通り、根の記憶が残る場所へ、眠っている種の跡へ、水脈の細い流れへと伝わっていく。
エリゼは意識を手放さなかった。流れを感じながら、制御しながら、導いていった。
どれくらいの時間が経ったか、わからなかった。
夜明けの光が差し込んだとき、エリゼは目を開けた。
荒地が、消えていた。
正確には——荒地が、緑に変わっていた。
一夜で。
地平線まで続く広大な土地に、青々とした草が一面に広がっていた。低木の芽が無数に顔を出し、その間に野の花が点在している。空気の匂いが変わっていた。土と草と、朝露の混じった、生きた土地の匂いがした。
エリゼはしばらく、その光景を見ていた。
膝が少し震えた。魔力を使い果たしたためか、感動のためか、どちらかわからなかった。
「エリゼ」
背後から声がした。
振り返ると、レイナルトが立っていた。夜明け前から来ていたのだろうか。外套姿で、少し離れた場所から、この光景を見ていた。
「……見ていましたか」
「最初から」
レイナルトが荒地だったところに目を向けた。その目が、いつもとは違う光を持っていた。
「お前が来る前は」
静かな声で言った。
「この土地がこうなるとは、思っていなかった」
「私も、ここまでできるとは思っていませんでした」
「……そうか」
レイナルトが、緑の野原をしばらく見ていた。
「よくやった」
また、その三文字だった。しかし今日のそれは、以前とは重さが違った。
エリゼは答える前に、草の上に座り込んだ。足が限界だった。
「すみません、少し座ります」
「怪我か」
「疲れただけです。一晩中使いましたから」
レイナルトが無言で隣に腰を下ろした。
二人で並んで、春の朝の野原を見た。草の上に朝露が光っていた。どこかで鳥が鳴いた。
「今日は近隣の領主たちが視察に来ます」とエリゼが言った。
「知っている」
「この景色を見たら、驚くでしょうね」
「驚くだろうな」
会話が途切れた。
しかし沈黙は、もう全く重くなかった。最初の夜に感じた「なんとか埋めなければ」という焦りは、とっくになくなっていた。この人との静けさは、息ができる静けさだ。
エリゼはそれを思いながら、朝の野原を眺めていた。
遠くから、農民たちの驚く声が聞こえてきた。




