第17話
エリゼが来て、二ヶ月が経った。
朝、窓を開けると、畑の緑が目に飛び込んできた。最初の視察で見た、あの茶色い荒れ地とは別の場所のようだった。試験区画の小麦が穂をつけ、根菜の畝が土を持ち上げ、豆の蔓が支柱に絡んでいる。
今日が収穫の日だ。
農民たちが朝早くから集まっていた。
普段は疲れた顔をしているマルタが、今日は目を輝かせていた。娘夫婦も来ていたし、グスタフ村長もドルン村の農民を数人連れてやってきていた。
収穫が始まった。
鎌を入れるたびに歓声が上がった。穂が太い。粒がしっかりしている。根菜を引き抜くと、驚くほど大きく育っていた。マルタが根菜を両手で持ち上げて、顔をくしゃくしゃにした。
「こんなに実ったのは、十年ぶりだよ」
涙をこぼしながら、それでも笑っていた。
「十年ぶりに、ちゃんとした収穫だ」
エリゼは鎌を持ったまま、その言葉を聞いた。
十年。その間、この人たちはずっとこの土地で、実らない畑と向き合い続けていたのだ。
収穫が一段落した昼過ぎ、誰かが酒樽を持ち出した。
気づいたら宴が始まっていた。
農民の誰かが笛を取り出した。別の誰かが手を叩いて拍子を取り始めた。子どもたちが歓声を上げて踊り始めた。
マルタがエリゼの手を引いた。
「さあ、踊りなさい」
「私、辺境の踊りは知りません」
「見てればわかる。足を動かせばいい」
気づいたら輪の中にいた。
子どもたちが周りを回り、農民の女たちが手を繋いだ。エリゼは見様見真似で足を動かした。最初はぎこちなかったが、笛の拍子に合わせていると、自然に体が動いた。
笑い声が混じった。誰かが「上手いじゃないか」と言った。エリゼも笑った。
王都の夜会とは全く違う踊りだった。作法も、衣装も、音楽も。でも輪の中にいる全員が、本当に楽しそうだった。
輪の外に、二つの人影があった。
レイナルトとゲルハルトが、少し離れた木陰に立っていた。
「旦那様も踊りませんか」
ゲルハルトが言った。
「踊れない」
即答だった。
「では見ているだけでも」
「見ている」
レイナルトの目は、輪の中のエリゼを追っていた。泥まみれで笑いながら踊るエリゼを、じっと見ていた。
ゲルハルトがそれに気づいて、口の端を上げた。何も言わなかった。
夕暮れが近づいた頃、宴がゆっくりと落ち着き始めた。
子どもたちは親に抱えられて眠り、農民たちも家路につき始めた。マルタがエリゼの隣に来て、並んで沈む夕陽を見た。
「お嬢さん」
「はい」
「ここに来てくれてよかった」
静かな声だった。宴の賑わいとは違う、しみじみとした言葉だった。
「本当に、来てくれてよかった。あんたが来なかったら、今年も荒れた畑を見て終わっていた」
エリゼは少し間を置いた。
「私も」
口を開くと、思いがけず声が詰まりかけた。
「私も、来てよかったと——初めて、心から思えました」
王都を出たとき、辺境に行くと決めたとき、それは「逃げる」ことに近かった。しかし今は、そうは思わない。
ここに来てよかった。ここにいる理由がある。
「ありがとう、マルタさん」
マルタが「礼はこっちのセリフだよ」と笑って、エリゼの背中をぽんと叩いた。
橙色の空の下、刈り取られた畑が広がっていた。
来年はもっと広く。再来年はもっと豊かに。
エリゼは夕陽を見ながら、静かにそう思った。




