Episode 26 第五試合 恐怖
龍夜とあかりのリーダー対決が終わり、残すは智咲の試験だけになった
「いよいよ、最後は智咲だな」
「うん、頑張ってくる」
少しして目を覚ました龍夜の腕に引っ付いている智咲は対戦相手の竜胆渚を見つめながら言う
「渚、なんであんたを智咲ちゃんにぶつけたか分かってるよな?」
「はい、ちゃんと理解していますよあかり先輩」
「それならええ」
あかりの意図を読み取っていた渚は、穏やかに微笑む
あかりは渚にあとは任せるとだけ伝え、それ以上は何も言わなかった
「えーそれでは、第五試合の方々は中央に来てください」
木吉のアナウンスが響く
それを聞き、智咲と渚は中央に向かう
「こんにちは〜竜胆渚です〜」
「こんにちは、加藤智咲です」
マイペースな二人は、和やかに挨拶を交わす
しかし、智咲は少し顔が強ばっていた
「どうかされたの?」
「いや、少し緊張してるだけです」
「あらあらぁ、あ、そうそう
貴方の試験内容は他の方たちと少し違うから説明しときますね〜」
智咲は渚の言ったことに驚きはしなかった
自分は戦闘向きのスキルではないから、他のみんなとは違う内容だと予想していたのだ
「それで、試験内容はどういった内容なんですか?」
「ひたすら私の攻撃に耐えてください
耐え切ることが出来たなら合格を差し上げますわ」
試験の内容はシンプルだった
しかし、どのくらい耐えたらいいのかを提示されていないので、精神的にもキツイ内容だ
その事を理解している智咲はゴクリと唾を飲み込む
「分かりました」
「いい返事ですね、では始めましょうか〜」
のんびりな声とは真逆の殺伐とした雰囲気を醸し出す渚
その異様さは目の前にいる智咲にしか伝わらない
「それでは、第五試合
加藤智咲vs竜胆渚 試合開始!」
木吉の開始の合図からバリアを張り、渚の攻撃に備える
視線の先の渚はじっとこちらを見ている
「それでは、行かせてもらいますね
しっかり耐えてくださいよ」
「いつでもどうぞ」
そう返した途端、渚の周囲が桃色に光る
光が徐々に数え切れないほどの大量の桜の花びらに変わっていく
「《山桜桃梅》」
桜の花びらを一枚一枚操る渚
その大量の花びらを全て智咲にぶつける
「くっ」
おびただしい程の数の花びらが智咲のバリアを覆う
初手の攻撃とは思えないほどの強さだ
「あらぁ、さすがにこれは耐えられますか〜
でも、一回じゃ終わりませんよ?」
バリアを覆う花びらに、更に追加で先程より数の多い花びらを生成し、ぶつける
桜の花びらのドームが出来上がった
パリン
二回目の攻撃で智咲のバリアが割れる
瞬時に張り直すが、先程よりも小さいバリアになってしまった
「これ、想像以上にきついぞ
強力な一撃じゃなく、徐々に削っていくタイプ
智咲にとって、相性最悪な相手だ」
智咲がいるであろう花びらの山を見つめて龍夜が言う
智咲のバリアは強度は申し分ないが、持続性があまり無かった
龍夜の言う通り、渚は智咲にとって最悪な相手だった
しかし、それを置いても何かが引っかかる龍夜
「ねぇ、龍夜
智咲ちゃんのバリア、脆くなってないかしら」
「え?」
「勘違いだったらいいのだけれど
渚という人の攻撃もすごい
でも、あそこまですぐにバリアが破られることがあるのかと思って」
雅の推測は正しいのかもしれない
確かに智咲のパリアは持続性は無かったものの、二回の攻撃だけで壊されるほどの脆さではなかった
龍夜の引っ掛かりはこれだった
しかし何故強度が落ちている?と考える龍夜
「恐怖や」
「あかり!?いつの間にこっちに」
「あっちが暇やったからきてもーた!」
そう言うあかりに、恐怖とはと聞く龍夜
それに、察しのついた雅が答える
「赤の象との戦いのせい?」
「さすが雅たん、よく分かってるやん
あんたらの戦いを見たわけじゃないけど、話を聞く限り柿澤ってやつにトドメを刺したのは智咲ちゃんなんやろ?
そいつにバリアを破られまくったってこともあるやろうけど、多分一番はそこやな
殺してしまったことに大しての罪悪感が智咲ちゃんの精神を疲弊させ切ってる」
スキルを扱うにはある程度の精神力が必要だ
精神力が強いほど、スキルもより強力になっていく
人を殺したということに、智咲の精神は耐えきれずスキルも弱体化してしまっているということだった
「こればかりは仕方の無い事ね。
一ヶ月ちょっと前までは普通の高校生だったんだもの
人を殺すことになんて慣れれるわけが無いわ」
「智咲...」
気付かぬうちに罪悪感に蝕まれていた智咲に気づけなかった龍夜は、悔しい表情で智咲のいる所を見つめる
バリアはさらに割られみるみるうちに小さくなっていた
「もう限界やな」
あかりはそう言い立ち上がる
彼女の言葉の意味を理解した龍夜たちは、下を俯き暗い表情をする
あかりの行動を見ていた渚は、最後にもう一回バリアを割り、攻撃を止める
周りにあった大量の桜が消えて、智咲の姿が見える
智咲は膝から崩れ落ちていた
あかりが智咲にゆっくりと近づき告げる
「不合格や
今の智咲ちゃんには作戦参加は認められへん」
「まだ...!!まだやれます!!」
「あかん、これ以上は魔力欠乏症になりかねん
試験は終わりや」
「嫌です!!!」
あかりに告げられた言葉を受け入れられず、必死に訴える智咲
その様子を龍夜たちは見ているだけしか出来なかった
「お兄ちゃんも、ひなも、雅さんも、みんなが戦うのに、私が戦わないなんて嫌だ!!!」
「あんたは弱すぎなんや。
死にに行く手伝いなんて私らがすると思ってるんか?」
「死にません!!私がみんなを守るんです!!」
「弱いあんたが誰を守れんねん
足引っ張って仲間も殺されて終わりや」
あかりの言葉に智咲は何も言えなくなる
自分が弱くなっていることは分かっていたのだ
しかし、それでもみんなと戦いたいと思っていた
俯きながら涙を流す智咲に、あかりは更に追い討ちをかける
「あんた、初めて見た時から龍夜に引っ付きっぱなしやったよな?
あれはただお兄ちゃんが好きなだけで引っ付いてたんとちゃうやろ
人を殺したって言うことが怖くて、龍夜に引っ付いてるしかなかったんや」
「ち、ちが...」
図星であった
赤の象との戦いから、ずっと智咲の頭の中に残る柿澤の最後の表情
苦しく悶え、憎しみの目を向けるその表情がこびり付いて離れなかった
それが怖くて龍夜に触れたり、龍夜と一緒の部屋で寝たりして自分を落ち着かせようとしていた
しかし、その恐怖が薄れることは無かった
「今の状態で作戦に参加することは認めらん
避難所で大人しくしとき」
「.......」
そう言いあかりは試験終了を皆に伝える
なにわ連合の幹部たちは皆訓練場から出ていった
あかりは龍夜とすれ違う時に、ごめんなとだけ伝えてその場を後にした
そして、訓練場には龍夜たちと智咲だけが残った
「智咲...」
「ごめんお兄ちゃん、ごめんなさいみんな...」
泣きながらみんなに謝る智咲
誰も智咲にかける言葉が見つからなかった
しばらく沈黙が流れる
意を決して雅が口を開いた
「あかりの言うことはもっともだと思うわ」
「ちょ、雅さん!?」
雅の発言に、ひなが少し怒り気味に止める
しかし、それを気にせず雅は続ける
「智咲ちゃんの苦しみに気づかなかった私達も悪い
でも、これは貴方の問題なの
私も人を殺した
未だにあの時の感覚を思い出すこともあるわ
赤の象との戦いで、初めて人を殺して私はその罪悪感と手に残る首を切った感覚で嘔吐したわ」
智咲が乗り越えれる手がかりになるように、自分が初めて人を殺した時のことを話す雅
話し始めた雅を止めるものは誰もいなかった
「貴方を助けたかったから、みんなに傷ついて欲しくなかったから、私は殺意を向けてくる人間を殺すことを決めたわ
貴方も守りたいものがあるんでしょ?
今のままじゃ、あかりの言った通り誰も守れないわよ」
「そんなの分かってますよ!!!
私は...!!」
智咲は何かを言いかけたが、それを飲み込み立ち上がる
そしてみんなを置いて走り、訓練場から出ていった
「言いすぎたかしら...」
「いや、俺が言うべきだった。
キツい役をやらせてごめんな」
智咲に言ったことを後悔する雅に龍夜が謝る
龍夜自身も智咲を大切にするあまり、どうしたらいいか分からなかった
「私、追いかけるね」
「ひな...頼む」
誰かがついていた方がいいと判断したひなは、智咲を追いかける
残された龍夜たちは何を話せばいいのか分からず
一先ず解散となった
「智咲?いるんでしょ?入るよ」
智咲を追いかけたひなは、智咲の泊まってる部屋に来ていた
ノックをするが返事は無い
しかし鍵が空いていたので、ドアを開け中に入ると智咲がベッドに横になっていた
「智咲...」
ひなは何も言わず智咲が横になっているベッドに座る
「智咲は悪くないよ。
つい最近まで普通の高校生だったんだし、殺しなんて慣れるわけないもん」
黙々と話すひなに、智咲は黙って聞いているだけだった
「みんなが凄すぎるんだよ」
「でも、みんなはどんどん強くなっていってる」
ようやく口を開いた智咲の声は、涙を堪えるのに必死な声だった
「あかりさんが言ったことは図星だった
みんなを守るってあの時覚悟したのに、あの時のことが頭から離れない
怖いの。スキルを使うとあの時のこと思い出して上手く力が入らなくなる
こんなんじゃ、みんなを守れないのに」
堪えきれず涙を流す智咲
それにつられて、ひなも涙を流し智咲の話を黙って聞いている
「強くなりたい
みんなを守るためにこの恐怖に勝たないといけない
そんなことは分かってるの
分かってるけど、体が言うことを聞いてくれない
どうしたらいいの...」
力無くひなに問いかける智咲
ひなは智咲を見つめて、話し出す
「じゃあ、強くなろ
私にいい考えがあるの」
NEXT
人を殺したという恐怖に苦しめられている智咲
それを乗り越えるために、ひなが思いついた提案とは一体?
Episode 27 に続く




