第17話 鉄鎚が息づく炎の街
ゴォォォォン……と、背後で重厚な石造りの門が閉じられる音が、吹き下ろす山風に乗って響いた。
山岳地帯へ向かう最後の城塞都市『ベルク・ヴァッハ』。
その堅牢な城壁を背に、エリカたち一行は新たな歩みを進めていた。
目指す次なる街『フェルゼン・ハフト』までの道のりは、そう遠くない。
距離にして三ライン(キロメートル)少々。
魔物さえ出没しなければ、歩いて一クロス(一時間)もかからないほどの近距離である。
急峻で岩肌の露出した山岳地帯から、足元は徐々になだらかな丘陵地帯へと景色を変えていく。
頬を撫でる風も、氷のように冷たい刺すような冷気から、僅かな湿り気と大地の温かさを混じらせたものへと変化していた。
「それにしても、このマントとブーツは本当に素晴らしいわね。ベルク・ヴァッハの職人に感謝だわ」
エリカは歩きながら、自身が纏う『雪飛龍のマント』へそっと触れ、そのほんのりと青白い真珠のような輝きに目を落とした。
指先に吸い付くようなしなやかな感触でありながら、驚くほど軽い。
外の気温変化を魔法のように和らげ、今の少し湿った風の中でも内側は快適そのものだった。
さらに足元では、アルベローゼとお揃いで仕立てた『冷狼のブーツ』が、乾いた土を踏むたびに小気味よい足音を鳴らしている。
「ええ。これなら、フェルゼン・ハフトの熱気にも少しは耐えられるかもしれませんね」
ふと、隣を歩くライナスが、細いフレームの眼鏡の位置を直しながら優しく微笑んだ。
彼の銀色の長髪が風に揺れる。
その肩には、エリカと全く同じ雪飛龍のマントが羽織られ、足元には冷狼のブーツが履かれていた。
偶然の成り行きとはいえ、傍から見れば夫婦のような完全なお揃いの出で立ちである。
エリカは内心でドクリと心臓が跳ねるのを感じ、微かな動揺を悟られまいと慌てて前を向いた。
彼の穏やかな声を聞き、その温かな体温をすぐそばに感じるだけで、胸の奥底に幾重にも鍵をかけて封じ込めたはずの恋心が、静かに、けれど確かに疼くのだ。
「ちょっとディオン!私の新しいブーツ、ちゃんと見てよ!すっごく可愛いでしょ!」
後方から、アルベローゼの明るい声が響いた。
彼女は深い森の緑色に染め上げられた『魔鹿』の革で作られた短衣とスカートをふわりと揺らしながら、ディオンの周りをピョンピョンと飛び跳ねている。
内側に保温性の高い銀灰色の毛皮が敷き詰められたブーツのつま先では、狼の爪を模した真鍮の飾りが陽光を反射して鈍く光っていた。
彼女たちの視線の先には、丘の向こう側にうっすらと見える、いくつもの煙突と黒煙が立ち上るフェルゼン・ハフトの街並みがある。
ドワーフたちの活気が、遠目にも祭りのような喧騒として伝わってくるようだ。
「ねえ、あそこってすごく賑やかそう! 美味しい屋台とか、可愛い小物の露店とか絶対あるよね? ……ディオン、全部回るわよ」
エルフ特有の尖った耳をピクピクと忙しなく動かしながら、上目遣いでディオンを覗き込むアルベローゼ。
「ああ、ブーツ似合ってるよ。……降神祭は構わないが、今は周囲の警戒を怠るな。この辺りは丈の高い草が多くて視界が悪い」
ディオンは赤い虹彩の目をスッと細め、腰に差した得物『黒鋼の細剣』の柄に手を添えながら、あくまで冷静な声で嗜めた。
「むーっ、ディオンの石頭!もうちょっと気の利いたこと言えないの!?」
文句を言いながらも、アルベローゼの口元はだらしなく緩んでいる。
「祭は構わない」という言葉に、彼女の胸の奥は甘く締め付けられていた。
ディオンと二人で祭を回る事が楽しみで仕方がないのだ。
「ディオンの言う通りだぜ、アルベローゼ。もう鉄の匂いが風に乗ってきてるが……同時に、酷く獣臭い匂いも混じってやがる」
先頭を歩いていたバハルが、身長二・四五ガルイの筋骨隆々たる巨体をぴたりと止め、背負っていた巨大な黒鋼の大盾をズシリと構えた。
直後、一行の真横にあった、背丈ほどもある草原が不自然に大きくうねった。
バサァァッ!
地面の起伏そのものが持ち上がったかのような、凄まじい質量。
草原の緑に完璧に擬態していた、全長十ガルイ(十メートル)を超える巨大な草蛇『グローム・ゼルペ』が、大木のような鎌首を天高くもたげ、エリカへ向けて猛烈な悪臭を放つ大口を開けた。
「エリカ!」
ライナスが即座に動いた。
水流のような意匠を描く『水の短聖杖』を構え、透き通った水滴のような魔力結晶を輝かせながら彼女の前に立ち塞がろうとする。
だが、それよりも早く、黒い旋風が横薙ぎに走った。
「遅いッ!」
強靭なバネを弾いたかのように飛び出したディオンが、空中で黒鋼の細剣を一閃させる。
一族の秘術である古代エルフ言語魔法をのせた剣術。
その神速の踏み込みから放たれた刺突は、巨大な蛇の右目を寸分の狂いもなく的確に貫き、その巨体を大きく仰け反らせた。
「上から来るよ!」
アルベローゼが、美しい黒曜石のような光沢を放つ『黒魔樫の弓』を素早く引き絞る。
グリップに巻かれたヴィルヘル革が、彼女の華奢な手にピタリと吸い付いていた。
上空から、バチバチと耳障りな静電気を帯びた雷燕『ハイル・ヴォルケ』の群れが、集団で感電攻撃を仕掛けようと急降下してきていた。
「させないっ!」
番えられたのは、透明なガラスのように美しい矢尻を持つ『魔氷の矢』。
放たれた矢が空中で炸裂し、極低温の冷気と共に鋭利な氷片となって飛散する。
雷燕の群れは回避する間もなく次々と凍結し、ボロボロと雹のように地面へと叩き落とされた。
「チッ……足元にもいやがるぞ!」
バハルが大盾を地面に激しく叩きつけ、横合いから高速で突っ込んできた影を強引に弾き飛ばす。
刃のように鋭く発達した尾を持つ犬型魔獣『フェル・シュナイデ』だ。
硬い盾に弾き飛ばされてもすぐに体勢を立て直し、凶悪な尾を振り回しながらジグザグと予測不可能な軌道で走り込んでくる。
エリカは腰の『月光魔導の短剣』に触れて感触を確かめると、氷のように滑らかな手触りを持つ『雹雪木の杖』を正面に構えた。
先端に鎮座する、未研磨でありながら力強い冷気を放つ蒼い輝石が魔力を帯びて瞬く。
(強い魔法は駄目……絶対に)
エリカは奥歯を強く噛み締め、呼吸を細く長く保った。
強力な高位魔法を行使すれば、彼女の魂の奥底に巣食う『悪霊』が目を覚ましてしまう。
ひとたび刺激されれば理性を焼き尽くし、大切な仲間すらも惨殺したくなる――あのドロドロとした破壊衝動に、心身を完全に飲み込まれてしまうのだ。
だからこそ、今ここで選ぶべきは第一位階。
最も制御が容易で、出力の弱い魔法で十分である。
エリカは手にした『雹雪木の杖』を正面に構えた。
純白の木肌を握る掌から微量な魔力を流し込むと、先端に鎮座する蒼い輝石が微かに脈動し、ひんやりとした心地よい冷気を放って彼女の火照った思考を鎮めてくれる。
「《エメ・エレ》!」
短く鋭い、それでいて透き通るような詠唱と共に杖が振るわれる。
ドゴォォッ!
瞬時に極限まで圧縮された突風が、見えない巨大な大槌となって空間そのものを殴りつけた。
空気を割る強烈な衝撃波が、牙を剥き出しにして一直線に走り込んでくる犬型魔獣『フェル・シュナイデ』の側面を激しく打ち据える。
「キャインッ!」
骨の軋む鈍い音と共に、突風の異常な圧力に完全にバランスを崩した魔獣の身体が、無防備な姿で宙を舞った。
「そこだッ!!」
そこに待ち構えていたのは、巨漢の龍人バハルだった。
彼が風を切り裂きながら力任せに振り抜いた黒鋼の軽ハルバードが、ガギン!と内部で鈍い音をたてて、空中のフェル・シュナイデの胴体を容赦なく両断する。
ザバァッ、と生暖かい血飛沫が宙に舞い、獣特有のすえた脂の匂いと濃い血の匂いが風に混じって鼻腔を突いた。
真っ二つになった骸は、ビシャリと音を立てて液体を撒き散らして乾いた土の上に沈み、二度と動かなくなる。
「お見事です、エリカ。流石の魔力制御だ……その位階の魔法でも、あなたならば十分すぎるほど強いですよ」
ふと、いつの間にか背中合わせになる位置に立っていたライナスが、周囲への警戒を解きながら穏やかな声で言った。
激戦の直後だというのに、彼の声はまるで聖堂の鐘のように静かで、エリカのささくれ立った神経を優しく撫でる。
背中越しに伝わってくる彼の確かな体温に、エリカは張り詰めていた肩の力をスッと抜いた。
「この程度の魔獣ならね。第一位階で十分よ」
努めて平坦な声を作り、エリカは雹雪木の杖をゆっくりと下ろす。
ふうっと、長く細い息を吐き出した。
(……よかった)
胸の奥底で鎌首をもたげ、蠢こうとしていたどす黒い殺意の気配。
それが完全に顔を出すことなく、霧散してくれたことに深く、深く安堵しながら。
落ち着きを取り戻したエリカの視線が、ふと隣に立つライナスの姿を捉え、ハッと瞳を見開いた。
街で新調したばかりで、先ほどまで青白い真珠のような美しい輝きを放っていたはずのお揃いのマント……それが今や、あちらこちらが鋭い爪で無惨に引き裂かれ、魔獣の攻撃をその身で庇ったのか、裾の辺りは黒く焦げて焼けた臭いを漂わせている。
真新しかったブーツも、泥と魔獣の返り血に酷く塗れていた。
それらの痛々しい傷跡を見れば、ライナスがこの短い戦闘の間、いかに身を粉にして戦場を縦横無尽に駆け回っていたかが痛いほど伝わってくる。
前衛のバハルやディオンへの神聖魔法による絶え間ない支援、そしてエリカを狙う死角からの攻撃を、彼が己の新しい装備と身を挺して防いでくれていたのだ。
「ライナス、あなた……せっかく新調した装備がボロボロじゃない……」
「ああ、これですか?気になさらず。装備が破れただけで、私自身は無傷ですから。皆さんが無事なら、それが一番です」
ライナスは焦げたマントの裾を軽く払いながら、困ったように、しかし心の底から安堵したような優しい笑みを浮かべた。
その自己犠牲を一切厭わない彼の姿に、エリカは胸の奥がキュッと締め付けられるような、切ない愛おしさを覚えた。
鬱蒼と生い茂る木々が温かい風にざわめき、湿った腐葉土の匂いに、鉄錆のような生臭い血の臭いが混じって鼻腔を突く。
切り伏せられたヴィルヘルの残骸——砕けた魔を含む青白い骨と肉の塊——が転がる獣道で、バハルは大きく息を吐き出した。
「しっかし、街のすぐ近くでも油断できねえな」
バハルの丸太のように太い腕が振るわれると、空気を裂く重い風切り音とともに、ハルバードにこびりついた黒ずんだ血塊と砕けた骨の欠片がバサッと地面に払い落とされる。
不浄な汚れが下草を濡らしたのを確認すると、彼は背中に負った巨大な大盾の革帯を乱暴に締め直した。
常人であれば歩くことすら困難なほどの重量だが、彼にとっては最前線で命を預ける頼もしい相棒であった。
しかし、その相棒の片割れを目にした瞬間、バハルの険しい顔つきにさらなる陰りが落ちた。
無骨で傷だらけの指先が、布で粗方拭い清めたハルバードの刃筋をそっと撫でる。
木漏れ日に鈍く光る黒鋼の表面を滑っていた指先が、ふと、ある一点で引っかかり、ピタリと止まった。
「チッ……亀裂かよ……」
舌打ちと共に漏れ出たのは、深い落胆の声だった。
わずかに走った、蜘蛛の糸のようなヒビ。
ほんの小さな亀裂とはいえ、竜人の異常な膂力に任せて強烈な一撃を叩き込むバハルの戦闘スタイルにおいて、それは次の一振りで武器の致命的な破損に繋がりかねない。
原因は、このヴィルヘルの骨の硬さだけでは無い……。
いかに真新しい黒鋼であろうとも、バハルの規格外の膂力には耐えきれず、摩耗を早めているのだ。
「あの骨、やけに硬えと思ったんだよ。やっぱり『魔』を含んでる部位は厄介だぜ」
バハルは恨めしそうに足元に散らばる血溜まりに沈む肉片と骨の残骸を一瞥し、頭を掻き毟った。
無事に生きて帰れるとはいえ、武器の損傷は死活問題だ。
街の門をくぐり鍛冶屋へ持ち込めば、ドワーフの頑固親父に「手入れが荒い」と散々嫌味を言われた挙句、本日の討伐依頼で得たなけなしの報酬を修理代としてむしり取られるのは火を見るより明らかであった。
「……はぁ。修理代はいくらだ?今日の酒代は出るか?」
分厚い胸板から重い溜め息がこぼれ落ちる。
巨大な盾を背負い、返り血を浴びた大男の背中は、今はただ、今夜の酒代を考え、小さく丸まっていた。
「大丈夫ですよ。今日の宿代と酒代ならなんとかなります。それに、もう目的地は目の前ですよ」
ライナスが指差した先……丘を登り切った彼らの眼下に、ついにその街の全貌が現れた。
圧倒的な熱量と喧騒が、風景そのものを揺らしているかのようだった。
ライナスがふと口を開く。
「街中であまり出来る話ではないのと……昨日紹介状を書き上げたので話しますね」
「紹介状ですか?」
エリカが訝しげにライナスに聞く。
「ええ。王都ルーン・ヴィークに着いた際、私たちが真っ先に訪ねるべき人物への書状です」
ライナスの言葉に、ディオンとアルベローゼ、バハルも歩を止めた。
「紹介状?ライナスに、王都に知り合いがいるのか?あ、教会騎士団にいた時のか?」とバハル。
「ええ。教会騎士団の方ではなく、かつて聖都騎士団で共に学んだ私の友です。名はカスパール・フォン・ベルンシュタイン。現在は王宮の筆頭司書官を務めており、聖図書館の奥底に眠る『禁書』へのアクセス権を持つ数少ない一人なのです」
ライナスは遠く、霞む空の向こうにある王都を見つめるように目を細める。
昔を思い出しているようだった。
「エリカとディオンの呪い……悪霊……その正体と解呪の方法を見つけるには、聖図書館で古い記録を遡る必要があります。聖図書館でも通常の書架にはないかも知れません。場合によっては禁書……閉架書庫……それらも確認する必要があるかも知れません。彼なら……彼の立場ならアクセスも容易でしょう……。私たちの力になってくれるはずだ。……ただ、彼は極めて理屈っぽく、そして少々風変わりな男でしてね。この紹介状が、果たしてどこまで通用するか……」
「司書官か……。堅苦しそうだけど、エリカとディオンのためなら仕方ねぇだろ」とバハル。
「一言で言うとめんどくさい男です……魔導知識論争をふっかけるのが好きでね……言い負かすと、途端に懐くんですよ……私は散々言いまかしていますけどね」
「なるほど……さすが兄さんだ……僕は話をする自信が無いよ」とディオン。
話を終えると、巨大な魔導仕掛けの鉄門が立ちはだかった。
一行がどう通るのかと思案にくれていると、ライナスがクスクスと含み笑いをしながら鉄門に触れる…………途端に人力で動かすのは不可能に思えるような厚さの鉄扉が両側に開き始めた。
偏執的なドワーフが趣味で作ったと伝えられている、通称「ドワーフの大鉄扉」だ。
「この門は人間を感知するだけの門ですよ。ヴィルヘル避けです。いつも通り、中で検問はありますからね」とライナス。
聖女王歴二〇〇〇年、エルカリアの月(四月)三十日――降神祭。
かつて創造神が人界に降臨し、光をもたらしたと伝えられる祝祭の日。
太陽が西へ傾き始める琥珀の刻(十五時)、検問を抜けて堅牢な防壁の内側へと足を踏み入れた一行を出迎えたのは、むせ返るような熱気だった。
そこは、まさに鉄と黒煙が支配する街であった。
街のあちこちにそびえ立つ巨大な高炉からは、空の青を焦がすかのようなオレンジ色の火の粉が舞い上がり、幾筋もの太い黒煙が天を衝くように、もうもうと立ち上っている。
そして工房に近い石畳は焼けるように熱い。
呼吸をするたび、街全体を包み込むなめし革の独特な香りと、鉄を打つ際の焦げた匂いが街中に漂っている。
カンッ、カンッ――。
無数の職人たちが重いハンマーで鋼を叩き上げる重低音が、絶え間なく風に乗って響き渡る。
そこかしこから漂う汗と油の匂い。
祭りの熱気と職人たちの活気が混ざり合い、街全体がひとつの巨大な生き物のように脈打っていた。
鉄と革とドワーフの街――『フェルゼン・ハフト』。
「にししっ!着いたぁー!狩猟ギルドも大きいって聞いてるし、すっごく楽しみ!」
アルベローゼが愛用の弓を背中に引っ掛け直しながら、太陽のように輝く笑顔で歓声を上げた。
彼女の瞳はキラキラと輝き、すでに頭の中は、ディオンと一緒に魔導ランタンが並ぶ賑わう屋台通りを歩き回る想像でいっぱいのようだ。
「まずはギルドで情報収集だな。それから、この細剣の刃の調子もドワーフの職人に診てもらいたいし、バハルの武器の打ち直しも必要だ」
浮き足立つ少女とは対照的に、ディオンは腰に帯びた細剣の柄を冷静な手つきで確かめる。
油と鉄の匂いが立ち込める煙突群を見下ろしながら、彼は至極真面目な顔で今後の行程を口にした。
「おう!俺は絶対、酒場に行くぜ!ドワーフだらけの酒場ってのは、腕相撲と美味いエールが相場って決まってるからな!ああ、楽しみだぜ!」
先の戦いで武器を破損させていたバハルも、豪快に笑いながら丸太のような巨大な拳を打ち鳴らす。
ひび割れたハルバードの事などもはや忘れているとしか思えないはしゃぎぶりだ。
それぞれが己の目的に向かって動き出そうとする男たちに対し、クスクスと鈴を転がしたようなエリカの笑い声が聞こえる。
「ディオン……こんな時間から情報収集をして、その後に武器の打ち直しの依頼までこなすつもり?そんなことをしていたら夕飯は何時になるのかしら?今日はお祭りなんだから、普段は野宿するような冒険者も来るでしょう?早くしないと宿が全部埋まっちゃうわよ」
「そうだよディオン!私と一緒にお祭りに行かないつもり!?」
すかさずアルベローゼが同調し、むすっと可愛らしく頬を膨らませてディオンをジロリと睨みつけた。
正論と不満の挟み撃ちに遭い、ディオンは困ったように眉尻を下げる。
「……言われてみれば、その通りだ。はは、どうやら僕にはリーダーなんて無理そうだよ。皆の言う通り、まずは落ち着いて宿の確保からだね」
少しだけ肩を落とし、苦笑交じりに反省の弁を口にするディオン。
「当たり前じゃない……リーダーは黙ってエリカに任せておきなさいディオン」とアルベローゼがニシシと笑う。
アルベローゼの笑いに仲間たちの笑い声が重なり、一行は喧騒と活気に満ちたドワーフの街の奥へと足を踏み出していった。
熱気と活気あふれる職人たちの喧騒が、噴水前広場で立ち尽くす五人を歓迎するように響いてくる。
エリカはライナスと顔を見合わせ、その優しい銀色の瞳に微かに頷き返した。
「さあ、行きましょう。まずは宿を探すわよ」
それぞれに過酷な宿命を背負いながらも、束の間の休息と新たな出会いを求め、五人は熱気に満ちた『フェルゼン・ハフト』のメイン通りへと、力強い足取りで足を踏み入れていった。




