新たな仲間が加わった
ギルドの建屋の裏にある練習場でアメとランロットが並び、その向かいには三人の男たちが横並びに立っている。
三人が装備する立派な鎧は日の光に照らされキラキラと輝いている。そんな三人の内の一人がアメとランロットを見て歯を見せ笑みを浮かべる。
「さながらおじいちゃんと孫娘といった感じだが大丈夫なのかね?」
口ひげを生やした男が小馬鹿にしたように言うと残り二人とフォルジェが失笑する。
「おっとこれは失礼。私の名はバルシュロッゼ・ケンプファーリッヒと申します。かつて英雄の一人に数えられた金剛のランロットとこうして合いまみえたこと、光栄の極みです」
大袈裟にお辞儀をしたバルシュロッゼに対しアメがペコリと頭を下げる。
「アメだ」
「おやおや噂の勇者さんは挨拶もろくにできないようですね。これは本物かどうか怪しいものですね」
バルシュロッゼは肩をすくめて鼻で笑うと横に来たフォルジェも鼻で笑う。
「話すだけ無駄ですよ。それよりもさっさと始めてこらしめてやりましょうよ」
「そうですね。では決闘の宣言をお願いします」
一歩引いたバルシュロッゼに変わってフォルジェが前に出ると丸めていた紙を広げ読み始める。
「此度の決闘は冒険者候補であるアメとランロットが、私の大切な仲間であるプレスをそそのかし引き抜こうとしたことで行われるものです。断じて許されざる行為ゆえ決着がついた暁には、謝罪はもちろん冒険者をただちに辞め今後一切業務にかかわらないことを誓っていただきたい」
仰々しく宣言を終えたフォルジェが口角を上げ嫌味な笑みでアメたちを見る。
「承諾した! じゃあアメたちが勝ったらプレスを仲間に入れる」
「承諾しよう」
アメが元気よく宣言するのを見てフォルジェは鼻で笑いながら返事をする。後方へと下がるフォルジェはすれ違いざまにバルシュロッゼに声をかける。
「バルシュロッゼさんお願いします」
「うむ任された」
大きく頷いたバルシュロッゼがアメたちを見たまま背後の二人に声をかける。
「あの少女についてはいろいろと噂は聞いるけどもどれも信憑性にかけるもの。まして勇者の再来などといわれていることが不愉快なんですよね。そのような偽物を担ぎ上げなければならないかつての英雄にも幻滅いたしました」
「ええ、バルシュロッゼさんほど勇者に相応しい方はいません!」
「私たちであの偽物に鉄槌を下してやりましょう!」
興奮し意気込むバルシュロッゼたちを前にしてアメがランロットを見上げる。
「なんだか楽しそう」
「ええ、勝つことを信じて突き進む姿は美しく、楽しそうに見えるものでございます」
「ふ~ん、そうなんだ」
感心して頷くアメが再びバルシュロッゼたちを見たところで審判が間に立つ。
「両方承諾が行われたことでこの決闘をギルドの元で行われる正式な試合であることを承諾いたします。よってこれより決闘開始とします!」
審判が吹く短い笛の音が会場に響く。
「さて、フォルジェ工房特性の防具と盾の性能チェックといきましょうか」
バルシュロッゼが四角の盾を構え前を見る。
「ふ~ん、この防具も綺麗だけどアメの好きな色じゃないな」
「なっ⁉ いつの間に!」
自分がかまえる盾の淵の上に座るアメが上から見下ろしていることに驚くバルシュロッゼだが、次の瞬間にはあごにアメのつま先が食い込みそのまま真上に打ち上げられる。
空中でバク転し足で綺麗な弧を描くサマーソルトキックを放ったアメによってバルシュロッゼもまた強制的にバク転し地面に叩きつけられる。
そして主を失い空中に残された盾をアメは着地した瞬間に蹴る。
高速跳んできた盾に思わず自分の盾を構え衝撃に備えた男の頭の上に着地したアメがそのまま後頭部を押すように蹴る。
いきなり後頭部を強く蹴られ前に大きくよろける男がハッと前を向いたとき、飛んできた盾がクリーンヒットし今度は後ろによろけて倒れてしまう。
男の後頭部を蹴って真横に跳んだアメが最後の一人の前に着地すると、男は慌てて盾を構える。
だが一向に衝撃がこないことに疑問を感じた男が盾を構えたまま横からそっと覗く。
「なにしてるんだ?」
突然下から聞こえてきた声にビックっと体を震わせた男が下を見ると、いつの間にかすぐ近くにいたアメが不思議そうな顔で見上げていた。
「あっ」
渾身の力を振り絞り声を上げ木刀を振り上げようとした男だがアメに足払いされて短くあっけない声だけが残る。
空中にあった男の首筋にアメの足が振り下ろされ、地面に叩きつけられた男は動かなくなってしまう。
くるっと振り返ったアメが審判を見る。
「終わり?」
「あ、え、えぇはい。こほんっ、勝者アメ、ランロット!」
一方的というよりはもはや何が起きたのか理解できない周囲の観客たちを置いて、やはりよくは分かっていないが倒れているバルシュロッゼたちを見て判断した審判によって勝利が宣言される。
「プレス! 今日からアメの仲間だ!」
アメがプレスに手を伸ばす。
━━ってなわけでプレスが仲間に加わってアメの防具を作ってくれた。
「最後雑っ!」
シェールがツッコミを入れるとプレスの方を見る。
「プレスさんが防具を作るとこが大事じゃないの? ほら、プレスさんからもなんか言ってやって」
シェールに促されたプレスは頭をポリポリとかく。
「あ、あの……アメさまが動きやすくて……強い防具を……一生懸命作った……アメさま喜んでくれた」
「え……っと、おわり?」
引きつった笑顔のシェールが尋ねるとプレスが申し訳なさそうに頷く。
「えぇ……もっとあるでしょ。ほら、プレスさんが働いていたフォルジェ工房はどうなったの?」
「お二人に代わってわたくしがお答えします。フォルジェ工房はプレス様とアメ様の計らいで今も健在でございます。ただ、多くの作品をプレス様が作っていたことが世間に知られてしまい、失った信頼を取り戻すため奮闘中ではございますが」
必死に話を掘り下げようとするシェールの質問にランロットが丁寧に答える。
「ふ~ん、そうなんだ。でもさプレスさんに酷いことしてたんでしょ。もっとこうぎゃふんって言わせてやった方がいいんじゃないの」
拳をぶんっと振るシェールに対してプレスは静かに首を横に振る。
「フォルジェの鍛冶師の腕……本物だから……作らないの……もったいない……。今頑張ってくれてるから……嬉しい」
「んーなんか私だけが悪いヤツみたいな空気じゃん」
「実際そうだしなー」
「なんですってぇ!」
口を挟んだリネロにシェールが吠える。
「もがー」
ここまで黙って見ていたモガがアメの腕を掴み揺する。
「大丈夫。ちゃんと覚えている。次はモガの番」
「もがぁ~」
アメの言葉にモガが嬉しそうに包帯が巻かれた体を揺らして喜びを全身で表す。
「シェール先輩モガの話をしたいからリネロを離してほしい」
「あ? あぁ……わかった」
胸ぐらを掴んでリネロを揺らしていたシェールが手を離す。
「助かったぁ~」
胸元を押さえて安堵のため息をつくリネロの腕に包帯が巻き付く。
「うおっ⁉」
突然包帯に引っ張られて、強引に座らされ驚いた表情のリネロから包帯が離れ主の元へと帰っていく。
「もがっ」
モガがアメの方に手を向け話を聞けとリネロに圧をかける。
「分かったってちゃんと聞くよ」
返事をするリネロに満足したモガはアメを方に視線を向けるとアメは頷く。
「じゃあ話す。モガと会った日のこと」
待ってましたと言わんばかりモガが手を叩きアメの話が始まる。




