止めた方がいいのに……
アメを追いかけるランロットに抱えられたプレスが連れて行かれた場所で見た光景は、二人の男が互いが剣を抜き一触即発状態だった。
その一触即発状態の真ん中にアメが一人で立つ様子にプレスは肝を冷やし身を縮める。
「ご安心ください。アメ様はお強い方ですので」
そう言いながらランロットはプレスを降ろして立たせてくれる。
「なんだお前は!」
ランロットの安心してくれという言葉とは裏腹に響く怒鳴り声にプレスは思わず体をこわばらせてしまう。
「なんだってお前の方こそなんだ? なんでケンカなんかしてる?」
「うるせえ! ガキがすっこんでろ!」
男が剣を振り上げアメを脅すが、アメは驚くどころか呆れた表情で肩をすくめる。
「街中で剣を振り回してはいけないとギルドのお姉さんからアメは習ったぞ。お前は習わなかったのか?」
アメの言葉に周囲から失笑が漏れる。その笑いに剣を振り上げた男が苛立ち、こめかみに浮かんだ血管をぴくぴくとさせる。
「おい! 今アメといったな。もしかして最近噂のガキか?」
もう一人の男の言葉に剣を振り上げていた男も反応しアメの顔をまじまじと見る。
「噂のガキかは知らない。アメはアメだ」
「そういえば英雄の一人ランロットと一緒に行動しているとか聞いたぞ。どうせ英雄様の活躍で有名になっているだけでガキの実力は大したことねえんだろ!」
声を荒げながら再び男が剣を振り上げると周囲からどよめきと悲鳴が上がる。
だが次の瞬間男が持っていた剣は宙を舞い地面に落ち弱々しく横たわる。
何が起きたのか分からず目を見開く男をアメがジト目でにらむ。
「剣を振り回すな。危ないだろ」
アメの言葉になぜ剣が手元から離れ飛んだかは分からないが、アメが原因であることは理解した男が激昂で顔を赤くし拳を振り上げる。
「お前静かにしてろ」
次の瞬間、アメのつま先が男の腹にめり込み、白目を向いた男はその場に倒れてしまう。
それを見るや否やもう一人の男が背を向けるアメ目掛け剣を真横に振り払う。
「なっ……」
凄まじい勢いで、更に背後から振られた剣は当たるどころか、剣先に着地したアメに踏みつけられ重みに耐えかねた男は剣から手を離してしまう。
小さくため息をつき呆れた表情のアメと目があった男は直感的に危険を感じ後退りをするが、次の瞬間には首筋にアメの回し蹴りが食い込み真横へぶっ飛ばされる。
土煙を上げ地面を滑っていく男は止まった先で白目を向き泡を吐いている。
「変な人間も多くて困る」
眉間にシワを寄せ呟くアメに周囲からは歓声が上がるが、当の本人は遠くにいるランロットとプレスを見つけると颯爽とその場から去ってしまう。
「待たせてごめん。終わったから帰ろう」
背中に受ける称賛の声など気にもせず何事もなかったかのようにプレスに話しかけるが、当のプレスの方が唖然とした表情でアメを見つめている。
「なんだ? どこか痛いのか?」
自分を凝視するプレスを不思議そうに見ながらアメは尋ねるが、プレスはアメのことを観察するかのように見続ける。
「ほ、本当に足で戦う……初めて見た……」
どこか虚ろな表情でポツリと呟くプレスに代わりランロットが口を開く。
「プレス様はアメ様の戦う姿を目の当たりにして感銘を受けられたようです」
「そうなの?」
ランロットの言葉にアメは嬉しそうに右足をパタパタさせる。
「冒険者になったらもっと強い敵と戦わないといけないと聞いた。硬いやつも多いって聞く。だからプレスがアメの防具を作ってくれると嬉しい」
満面の笑顔をアメはプレスに向ける。
***
机を蹴った勢いで道具たちが床に落ちて散らばる。
それらを慌てて拾おうとするプレスを見下ろしていたフォルジェが足で押してひっくり返すと、倒れたプレスの頭を踏みつける。
「もう一回言ってみろ!」
踏みつけた足に力を入れプレスを床に這いつくばらせる。
「……防具を作りたい……あの子の……為に」
「ああん? 誰が仕事を取ってこいって言った? お前は俺に言われた通りにやればいいんだ!」
フォルジェの苛立ちが限界に達したのか、踏んでいた足で蹴ると痛みをこらえ唸るプレスを鼻で笑う。
「オレに作ってほしいと言われた……。なによりオレが作りたい。あの戦い方に合う防具を……」
声を絞り出すプレスが言い切る前にフォルジェが足で踏みつける。
「ここは俺の工房でお前は俺が面倒見てやってんだ。俺がやれって言ったことだけやればいいって言ってんだろ! あんなガキに防具を作るだぁ? 今ある仕事もろくにこなせねえ奴ができるわけねえだろ‼」
「だ、だから……今の依頼を終えたらあの子の依頼を受ける」
「なんで依頼を受ける話になってんだよ! ここにある材料は俺のだ。あのガキのために使う材料なんてねえよ!」
「だ、だったら……ここを辞める」
その言葉を聞いた瞬間フォルジェは顔を真っ赤にして踏みつけた足に力を込めプレスをぐりぐりと踏みにじる。
「辞めるだぁ! てめえみたいな愚図でノロマなヤツがどこで生きるってんだ! 野垂れ死にするに決まってんだろうが‼」
怒鳴り散らすフォルジェに踏まれてなおプレスは顔を上げる。
「あの子……アメがオレに仲間にならないかって……言ってくれた」
プレスが言い終える前にフォルジェが頭を強く踏みつける。苦しそうに唸るプレスに体重をかけ怒りの表情を見せていたフォルジェだがふっと笑う。
「つまり俺のとこの仲間をそそのかして奪おうってしてきたってことだよな。決闘だ、あのガキが泣くまでいたぶって二度と冒険者になるなんて言えないようにしてやる」
「まって、止めた方が……」
「うっせぇよ!」
ニヤリと不適な笑みを浮かべるフォルジェはプレスを蹴って言葉を遮る。
「お得意さんに頼むか。うちの防具を提供すれば宣伝にもなるし一石二鳥だな。そうと決まれば早速手続きしないとな」
そう言うや否やフォルジェは足早にその場から去って行く。残されたプレスはゆっくり体を起こすと、誰もいなくなった工房で一人頭を押さえ呟く。
「アメと戦うのは……やめた方が……いいのに……」




