ギルドでひと悶着
ボルタルベアーに襲われていた男たちを近くの町に送ったアメたちはギルドへと戻ると、終了の証である羊皮紙を提出しに行く。
受付の女性がアメたちの姿に気づいた瞬間驚いた顔をして、奥へと入り年老いた男を連れて戻ってくる。
杖をついた小柄な老人は長い眉に隠れた鋭い眼光をランロットに向ける。
「お主は太陽の騎士団の副隊長。金剛のランロット・ウェーベルで違いないか?」
「はい、元ですがそのように呼ばれていたのは間違いありません」
「そうか……申し遅れた。わしはこのギルドを束ねている、シモン・マンダールだ」
「これはギルド長直々にご挨拶いただきありがとうございます」
ランロットが頭を下げるのを鋭い眼差しで見ていたシモンが眼光をさらに鋭くする。
「してかつて最強と呼ばれた太陽の騎士団の一人がギルドに入りたいとは何を考えておる。たしかお前さんは引退の際ギルドへ入ることを拒んだとわしは記憶しているがの」
「時が流れれば状況も変わるといったところなのですが、今回はわたくしの主人であるアメ様をギルドへ登録するのが主な目的なのです」
ここにきてシモンは初めてランロットの隣にいるアメに視線をやる。
「アメ様? この小さな子がお前さんの主人と申すか? はて、ピラトス家にこのような小さな子がおったかの……」
「ピラトス家からは解雇されましたので、今の主人となります」
ランロットの発言にシモンが目を見開きアメをまじまじと見る。
「この子をギルドに登録とは本気か? 雑用係にしてもちと心もとないが」
「お言葉ですがアメ様はわたくしよりもお強いのです。主戦力として活躍してもらう予定でございます」
「なに⁉ 正気の発言とは思えんぞ」
シモンが驚きというよりは正気を疑う目をランロットに向ける。丁度そのとき、受付の前でギルド長が表に出て騒いでいるという珍しい光景に集まっていた野次馬から一人の男が前に出てくる。
「ギルド長、かつての英雄と呼ばれたランロットさんが言うんだ。きっとこのおチビちゃんは相当に強いんだろうよ」
そう言いながらもニヤニヤとどこかバカにしたような表情で近づいてきた男が屈んで、アメの頭をポンポンと叩く。
「ほらほらここは危ないからもっと大きくなったら来ようねぇ~。外に行っておじいちゃんと戦いごっこでもして遊んでおいで」
ニヤニヤしながらアメの頭を乱暴に撫でる男の手をアメがはたく。
「髪が乱れるのはダメ。シェール先輩から毎朝くしでとくように言われてるから」
「あぁ~わりいわりい~。髪の毛は女の子にとって大切ですもんねぇ~。お家に帰ってお人形といっしょにくしで遊んでな~」
茶化す言い方に対しむすっとして怒るアメだが、男はわざとらしく手をパタパタさせ追い払うような仕草をする。
「わたくしを侮辱するのは咎めませんが、主であるアメ様への暴言は許しがたいですな」
「そんなに怒りなさんなって、それとも古き英雄さんが俺と決闘でもするか? つってもあんたらはまだギルドにも登録してないから冒険者でもないんだったな。決闘もできないか」
わりぃわりぃとおちゃらけて謝る男とそれをじっと見つめるランロットたちを見ていたギルド長が口を開く。
「ふむ、確かに決闘は冒険者同士に与えられた権利。一般人や冒険者希望者には適応されないが冒険者希望ということ、かつての英雄であることを考慮して特別に認めようではないか」
「おいおいマジかよ。俺に元英雄とはいえじいさんとガキを相手にしろと?」
「マジじゃ。この騒ぎを大きくしたのはお主であろう? このまま解散とあっては遺恨が残りそうだと判断したゆえの処置じゃ」
「チッまじかよ。あ~あぁ~ギルド長が言うなら拒否権はねえ~よなぁ~」
舌打ちをしたと思ったらニヤリと笑みを浮かべた男がランロットをにらむ。
「ってわけでわりいが、英雄さんよ胸を貸してもらうぜ。英雄相手に手加減なんてできねえから怪我しても文句言わないでくれよ」
「ええ、それが決闘ですから文句など言うはずがございません」
ランロットが涼しい顔で承諾すると、男は指をパチン鳴らし、その指でランロットを指さす。
「よ~し! 男に二言はねえな。わりいがこの勝負勝たせてもらうぜ」
自信たっぷりな表情で挑発する男の視線にはランロットしか入っておらず、アメのことなど眼中にないといった様子である。




