食べるためには働くしかない
リナたちを見送ったあと町に戻ったアメは振り返って自分の後ろについてきたランロットを見る。
「ランロット、ここでご飯を食べるにはどうすればいい?」
「ご飯ですか? それでしたら食堂へ行かれるか、露店で購入すればよろしいかと」
「アメはお金を持ってないから買えない。勝手に食べたら怒られる」
困った顔をするアメを見てランロットはあごひげを撫でながら考える。
「なるほどそうでしたか。恥ずかしながらわたくしも持ち合わせがありませんので食事には困っていたところなのです」
「ランロットもアメと同じだ」
「ええ、同じです」
仲間を見つけ嬉しそうにニッコリと笑うアメだがすぐにお腹を押さえてしょんぼりする。
「アメ様、一つご提案があるのですが」
「ん?」
ランロットの発言にアメが興味深く耳を傾ける。
***
ランロットに連れられ立派な建物に着いたアメは大理石でできた床を踏んでキュッキュッと鳴らす。
「お城みたい」
「ええ、ここのギルドの建物は、なんでも城を作った職人と同じと聞いてますから、似ているのかもしれません」
「ふ~ん、だから同じ石なんだ」
アメがキュッキュッと床を鳴らしていると、一人の女性が近づいてくる。
「今日はどんなご用でしょうか?」
腕に『案内係』の腕章をつけた女性はアメとランロットを見て軽く会釈をする。
「依頼の提出でしたらここより右へ行きまして、突き当たりの廊下を真っ直ぐ進んだ先に受け付けがあります」
「いえ、わたくしどもは簡易依頼を受けたくて来たのですが」
「簡易依頼ですか?」
ランロットの発言に案内係の女性は少し驚いた表情をすると、今一度アメとランロットを確かめるように見る。
おじいちゃんと孫娘、十人に聞いたら九人はそんな風にしか見えないと言うであろう二人に戸惑いながらも、案内係の女性は二人を案内してくれる。
受付のカウンターに置かれた依頼書の紙を見るランロットの横には、背が低いため見れないアメがカウンターにアゴを載せて覗き込もうとしている。
「そうですねこちらはいかがでしょうか?」
「ほう、お荷物の配送ですか」
「ええ、距離はちょっと遠いですが、納期期限も長いですし内容物も破損の心配が少ないと書いてあります。それに道中もお昼でしたら人通りも多く、魔物の心配もしなくても大丈夫ですよ」
受付け係の女性の説明にランロットはうなずき依頼書をカウンターの上に置く。
「それではこの依頼をお願いできますか? それと……」
依頼書を受け取った受付け係の女性が手を止めてランロットを見上げる。
「ゆくゆくはギルドに本登録したいのですが、そちらの手続きも合わせてお願いできますでしょうか?」
「え、えっと……登録されるのはどなたでしょうか?」
「わたくしとこちらにいらっしゃいますアメ様です」
即答するランロットと、名前を呼ばれてキョロキョロするアメを交互に見た受付け係の女性は、信じられないといった表情を見せる。
***
「ギルドに登録ってなに? それでご飯食べれるの?」
ギルドから出たアメは不安そうにランロットに尋ねる。
「ギルドに登録すると冒険者になれます。冒険者になると様々な依頼を受けお金を稼ぐことができ、それはつまりお食事を召し上がることができることになるのです。盗賊たちを一人で壊滅させ、わたくしが目で追えないほどの速さで動けるアメ様には最適なお仕事ではないかと思います」
「ふ~ん、よく分からないけど食べれるなら頑張る」
そう言ってアメがランロットをじっと見つめる。
「なんでランロットはアメのこと『様』って呼ぶの? アメは偉い人じゃないよ」
「命を救ってくださった方に敬意を払うのは当然のことです。アメ様がご迷惑でなければこのランロット、お仕えさせていただきたいのですがいかがでしょう」
「お仕え? う~ん? どういうこと?」
「そばにいて、アメ様のお世話をさせていただくということです。承諾いただけないでしょうか」
腕を組んで考えるアメだったがすぐに笑みを浮かべる。
「ランロットがいてくれると助かるからいいよ」
「ありがとうございます」
アメにあっさりと承諾されて、ランロットはホッと安堵のため息と共に笑みを見せる。
「丁度わたくしも仕事を失い今後の身の振り方を考えていたとこなのです。アメ様に出会えたのは幸運でした」
「ふ~ん、ランロットもアメと同じなんだ」
笑みを浮かべるアメにランロットは微笑んで応える。
「まず衣食住を得るためには稼がねばなりません。手に職がない者はギルドで稼ぐのが早いのですが、ギルドに本登録するためには実績ポイントを貯める必要があります」
「本登録?」
「誰でも登録できるわけではなく、実績を積んだ者が冒険者として登録されるのです。この度のお荷物をお届けする依頼だと最低の1ポイントがもらえます。これを1,000ポイント集めれば晴れて冒険者へとなることができます」
「へぇ~、なんか難しい」
ランロットの説明に理解することを止めたのか、興味を失ったアメはランロットが持つ小さな木箱を見る。
「これを運べば、ご飯が食べれるんだよね」
「ええ、その通りです。もらえる報酬からすればパンが買えるほどはあるかと」
「パン! 頑張る」
パンが食べれると聞いてテンションが上がったアメがぴょんぴょんと跳ねる。そんなアメを見てランロットは微笑む。
山を二つ越えた先にある家に荷物を届ける。簡単な依頼ではあるがその分報酬は安く、比較的安全な道をとはいえ山を越える労力を考えれば割に合わない。
ゆえに突発的にギルドに押しかけたアメたちでも依頼を受けられたわけである。
小さな村にある一つの家のドアをノックすると中から女性が顔を出す。
ランロットが丁寧に説明をし小さな箱を手渡すと、女性はパアッと明るい表情になる。
「届けてくださってありがとうございます」
女性が箱を開け傾けて中を見せる。興味深く覗き込むアメの目に蝶々の形をしたブローチが映る。鮮やかな石で飾られた蝶々を作る鉄の骨格はややくすんでおり、年季を感じさせる。
「私が幼いころに欲しいって言ったのを覚えていたらしくて、おばあちゃんが私に譲ってくれるって送ってくれたんです。あ、ごめんなさい余計なお話を、えっと完了書にサインをすればいいんですよね?」
「いえいえ、とても素敵なお話が聴けましたので、この依頼を受けて本当に良かったと思っています」
優しく微笑むランロットが丸まっていた羊皮紙を開いてテーブルの上に広げる。四角の枠に女性が手を当てると、触れている部分がほんのりと光る。そっと手を離した女性が先ほど手を置いていた場所に自分の名前を書く。
「ありがとうございます。それではアメ様ギルドへと戻りましょうか」
「また帰るの?」
「そうです。報酬がもらえるのはギルドですから、もう一度戻ることになります」
「また歩くのかぁ」
「晩御飯までには間に合うでしょう」
「え? 晩御飯?」
二人の会話を聞いていた女性が思わず声をあげてしまう。
「こ、ここからギルドまで最低一日はかかるはずですけど……」
「街道を通ればそれくらいかかりますが、真っ直ぐ森を突っ切ってきたので早く移動できたのです」
「え? 真っすぐ突っ切る? 森を?」
困惑する女性を置いてランロットが深々とお辞儀をすると、隣にいたアメも元気よくお辞儀をする。
「それでは」
「では!」
挨拶をした二人が背を向けたかと思うとあっという間にその場から消えてしまう。あとに残された女性は小さく上がった土煙を呆然と見つめていた。




