邪魔者は全て蹴り飛ばす
口をポカンと大きく開けたままアメを見るだけで動かない女の子たちのあざや傷のある腕や足を見てアメは察する。
「怪我してるなら歩くの辛いか。じゃあここで待ってて」
「な、何を……するの?」
初めに話しかけてくれた女の子がおそるおそる尋ねてくる。
「ここから逃げるんだろ? 逃げやすいようにあっちにいるやつら倒してくる」
「そ、そんなこと! できるわけ……」
女の子が言い終える前に騒ぎを聞きつけてやってきた二人の大男が現れる。扉を抱えて気絶する大男を見て短刀と棍棒をそれぞれ構えて走ってきた大男たちにアメは素早く近づく。
「なんだてめえ! ぐわぁ⁉」
短刀を持っていた男の腹を蹴り、真っすぐな通路を一直線にぶっ飛ばすと。何が起きたのか理解できていないもう一人の大男のあごを蹴り上げ天井へ叩きつける。
大男が落ちたときにした、ドサッと大きな音に驚き女の子たちが体をビクッと震わせる。
「じゃっ、ちょっと行ってくる」
啞然としたままの女の子たちに手を挙げて告げるとアメは通路を一気に駆ける。暗い通路に気持ち程度の明かりがポツポツあるだけで視界はよくないがアメにはくっきりと見える。
壁を蹴ると天井へ足をつけそのまま数メートル走り、異変に気付いてこっちに向かって来ていた男たちの真上で落下する。
一人目の頭を踏みつけ地面に叩きつけるとそのまま体を回転させ蹴りを放つと周りにいた数人の男たちは吹き飛び、それぞれ飛んだ先に激突し気絶してしまう。
動かないのを確認するとそのまま走り通路の先にある扉を守る男たちごと扉を蹴り飛ばす。
鉄の扉と一緒に広場に舞い上がった男たちが派手に地面に叩きつけられた音でたくさんの男たちが集まってくる。
「なんだ! 何が起きた!」
大きな声をあげながらやって来たガイアックが地面に転がる鉄の扉と男たちを見たあとアメを見て目を大きく見開く。
「まさか嬢ちゃんがやったとか言わねえよな」
「アメがやった」
「冗談を……おい、リコールさんよ。こいつはどういうことだ?」
「し、知らない。私はただっぐっ⁉」
ガイアックがリコールの胸ぐらを掴んで威圧する。
「ちっ、こいつは人間じゃねえかもな。見たことはねえが魔族とかか……おい! 野郎どもそいつを取り押さえろ!」
リコールを乱暴に投げたガイアックの一声で男たちが一斉にアメに襲いかかってくる。振られた剣を避けながら蹴り飛ばした男で数人の男たちをまとめて吹き飛ばすと、まだ空中にいる男たちの上に着地して大きく飛び上がり急降下して数人の男たちを蹴散らす。
着地と同時にスタートを切って動けない男の首を横から蹴り真横に吹き飛ばすと、逃げようとしていた男たちごと壁に叩きつける。
「おいおい、まじかよ……こいつはやべえぞ」
ガイアックが額に汗を伝わせながら巨大な剣を両手で持って構えると、アメに向かって真横に振り抜く。それをかがんで避けたアメは真下から蹴り上げる。
パキーンっと甲高い音がして半分に割れた剣が宙を舞って雑に地面に落ちる。
「いやはや、つええな。あぁ~俺の負けだ、参った!」
ガイアックが折れた剣から手を離すと両手を上げる。だが何を意味しているか分からないアメはじっとガイアックを見つめるが、ガイアックはそれを警戒していると取ったのかふっと笑みを浮かべて座り込む。
「終わりだって言ってるだろ。もう嬢ちゃんの好きにしていいってことだ」
「そうなのか?」
「ああそうだ。俺たちはもう悪いことはしねえから勘弁してくれ」
「なるほど。ならいい」
アメは牢屋にいる女の子たちのもとへと向かうためガイアックに背を向ける。そのとき背後から何か投げられたのを感じて避ける。
アメが避けたことで、ボスっと音をたて地面に落ちた白い袋から紫の煙がもうもうと出てくる。
「ぎゃははははっ! お前バカだろ! そいつは魔族でも殺せるっていう毒の煙玉だぜ! 油断しやがったな!」
煙に包まれるアメの耳にガイアックの笑い声が聞こえる。そんなことよりもアメはスンスンと煙を嗅ぐ。
「懐かしい匂いがする」
煙の中にカエルだったころに嗅いだことのある匂いを見つけ懐かしい気持ちになる。大きく息を吸って回し蹴りをして煙を蹴散らす。
「な、なんなんだお前……毒が効かねえのか。嘘だろそれは魔族でもやれるって……」
「トゲトゲの葉っぱから出る紫のジュースがおいしいの思い出した。ピリピリして刺激的な味がする」
「は? 何言ってんだお前⁉」
ガイアックの腹に蹴りを入れると巨大な体はすさまじい勢いで吹き飛び壁に叩きつけられる。
「ひ、ひえっ……」
アメを見てリコールは地面に座りこんだまま後ずさる。
「ち、違うんだ! 許してくれ、騙すつもりはないんだ。そ、そうだあいつに脅されてて」
リコールは動かなくなったガイアックを指さしてアメに必死に無実を訴えてくる。
人を売る悪いことをした人間だけど、アメの代わりにお金を払ってくれた人間でもあるリコールをどうすればいいのか分からないアメが困っていると入り口の方が騒がしくなる。
「な、なんだこれは⁉」
ガイアックにやや似た姿の大男と数人の男たち。そして縄で縛られあざだらけの顔の老人が広場の様子を驚愕の表情で見る。
「サ、サイアックさん!」
突然立ち上がったリコールが中心にいる大男の足にしがみつく。
「あ、あいつが、あの娘が」
巨大な棍棒を担いだサイアックがアメの方を見る。
その瞬間アメは理解する。
こいつも悪いヤツ
メキっと音をたてアメの足がめり込んで変形した顔で吹き飛んだサイアックが壁に叩きつけられ地面に転がる。ほぼ同時に周囲にいた男たちを蹴り上げ、吹き飛ばし動かなくする。
「あっ……」
勢い余ってリコールも一緒に蹴ってしまったことに気づいたアメは、泡を吹いてけいれんするリコールをツンツンと突っつく。
「ごめん」
とりあえず謝る。
「あ、あなたはいったい……」
とりあえず女の子たちの元へと戻ろうとしたアメに声がかけられる。振り返ると縄に縛られた老人がアメのことをじっと見ていた。その目に敵意がないことが分かったアメは尋ねる。
「だれ?」
━━これがランロットとアメの出会い。
自分の話を興味深く聴いていた仲間たちにアメは満足気な笑みを向ける。
「なんかすげえいい風に話してるけど、アメ姉ってとんでもない経験してんのな」
「とんでもないの凄い!」
リネロが呆れた顔でアメを見るが、等の本人はドヤ顔で応える。ますます呆れるリネロに代わってランロットが口を開く。
「なるほど、あのときはよく分からないとおっしゃってましたがそのような事情があったのですね。おかげでわたくしは命を救われこうしてアメ様にお仕えすることができているのですね」
「でもそうなると、なぜランロットさんは縛られていたのかが気になるんですけど。あっ! ごめんなさい、失礼なことを聞いてしまいました」
何気なく会話に入ってきたシェールだったが、無神経な質問をしてしまったと慌てて口を押えて謝るが、ランロットはひげを撫で微笑む。
「お気になさらなくても大丈夫ですよ。アメ様がお話してくれているのですからわたくしも話すのは当然のことです。老いぼれの話に興味があればですが」
「アメは聞きたい」
アメが即答すると他の皆も頷く。それを見たランロットが小さく咳ばらいをすると静かに口を開く。




