話しが違うぞ
しばらく馬車に揺られて着いたのは町から離れた山にあった廃坑跡だった。岩肌に作られた入り口から入り、小さなランタンの明かりを頼りに暗闇の中を先に進む。
暗闇の中に突然大きな扉がでてきて、そこにガラの悪そうな二人の男が左右に座っていて何やら話していたけど、アメたちに気づくと立ち上がって近づいてくる。
「見張りご苦労様です」
「あん? あぁリコールさんか……今日の用事はその娘ですかい?」
「ええ、そろそろ時期でしょうから加えていただければと思いまして」
「なるほど、ほう結構上玉じゃねえですか」
アメの顔をじろじろと二人の男が見るとニヤリと笑みを浮かべて大きな扉を開ける。
扉の先には広場があってそこに十数人の男たちがバラバラに座っていたけど、アメたちに気がつくと近づいてくる。その中でも一際体の大きな男が前に出てくる。
「これはこれはリコールさんじゃねえですか」
「やあガイアックさん。元気そうで何よりです」
「堅苦しい挨拶はやめてくれ、背中がかゆくなる。それで?」
そう言いながらガイアックはアメを見てニンマリと笑みを見せる。
「ご察しの通りこの娘を出してほしいのです。いかがです?」
「そうだな、なかなかにいいな。高値がつくことは間違いねえだろうし、こいつでどうだ?」
ガイアックが手を広げて五本の指を見せるとリコールは首を横に振る。
「前に連れてきた娘と同じ値段ってことはないでしょう。最低でも800はあるでしょう」
「かあ~っ、リコールさんは手厳しいな。じゃあ800で買った」
「最低と言っただけで800で売るとは言ってませんよ」
「これだから油断ならねえ。でも俺たちも危ない橋を渡ってんだってこと考慮してほしいもんですがね」
「なるほど、じゃあ900、本当は1000いただきたいところなんですが」
「900だな。交渉成立だ」
アメを無視して金額の交渉が繰り広げられ、勝手にアメに値段が付けられる。そんなことは理解できていないアメはガラの悪い男たちに囲まれ、ガイアックにあごを持たれる。
「お嬢ちゃんよ、おじさんが買ったからな。頑張って稼いでくれよ」
「うん、頑張って稼ぐ!」
アメが答えるとガイアックは目を丸くして驚くが過ぎにお腹を抱えて笑いだす。
「ぐわははははっ! こいつはおもしれええっ! ぐははは!」
ガイアックと周りの男たちが涙が出るほどにバカ笑いをする。リコールまで可笑しそうに口元を押さえ笑いをこらえている状況がなんでなのか分からずボケーっと見ていたアメの肩をガイアックが乱暴に叩く。
「お前面白いな。いいぜその意気だ! おい、稼ぎ頭様を丁寧にお部屋に案内してやれ」
「「へい!」」
ガイアックの命令で二人の大男がアメを奥の方へと連れて行く。広場よりも暗くてじめじめした通路を歩くと左右に鉄の棒で閉ざされた扉があって、それぞれの部屋には数人の人がいた。
「おめえは、こっちの部屋だな」
一人の大男がアメのことをじろじろ見てそう呟くと鉄棒でできた扉を開けて中へと押し込む。
「しばらくはここの牢屋がお前の部屋だ。稼ぎ方が知りたかったらそこらにいるヤツに聞いてみるんだな。練習が必要なら俺様が相手してやるから呼べよ」
ゲヘヘヘと下品な笑い方をした大男にそんなことを言われ、何が可笑しいのか分からず首をかしげたアメはとりあえず後ろを振り返り中にいる人たちを見る。
見た目で判断すればアメと同じくらいの年齢の女の子たちが四人いてみんな隅の方に座り込んで震えていたり、顔を伏せて泣いている子もいた。
「えーっと、申し訳ございません。なんか稼ぎ方を聞けって言われたんで教えてくれ……もらえるです?」
人からものを教わるときには丁寧に! とメイド長からの教えを思い出したアメが丁寧に尋ねると女の子たちはビクッと体を震わせて壁に背をつけてアメから逃げようとする。
聞き方が悪かったのか、なんでそんなに怯えているのか分からないアメは、何と言えば良いのかを必死に考えていると、壁に身を寄せたまま怯えた表情の女の子が口を開いてくれる。
「わ、私たち売られるの。稼げるわけないから……」
「えぇ~稼げない?」
さっき大男が言ったことと違うじゃないかと憤慨するアメに答えてくれた女の子が震える声で話を続ける。
「食べ物くれるって、住むとこあるって言われてついて行っちゃったの……」
言いながら思い出したのか涙をボロボロ流し始めしゃがみ込んでしまう。
「う~ん、困ったなぁ。お金を稼がないと食べれないのに」
「あんたのんきなこと言って! 私たちこれから知らない大人に買われてどうなるか分からないのよ!」
泣き出した子とは別の女の子がアメに向かって声を荒げる。
「どうなるか分からない?」
「そうよ! 買われたら物のように扱われて死んでもゴミのように捨てられるのよ! 分かってんの!」
「死ぬ? ゴミ? 捨てられる? なんでそんなことされるんだ?」
「知らないわよ!」
アメに近づいてきてにらんできた女の子はしゃがみ込んで泣き出してしまう。
「ここから出たい……なんで、ママ私を……」
アメの目の前で体を震わせて泣く女の子を見ながらふとシェールが言っていたことを思い出す。
(私は兄弟が多いから家から出された……っていってもまだましな方よ。中には売られるか、捨てられて路頭に迷った挙句犯罪に巻き込まれる子だって多いんだから。アメは王子と出会えてこうしてここで働かせてもらってるわけだから王子に感謝しなさいよ)
何となくシェールの言っていたことと、目の前の女の子たちの言っていることが繋がったアメは手をポンと叩く。
「もしかしてこれ犯罪?」
アメの発言に女の子たちが信じられないといった目をしてアメを見てくる。
目の前で泣いていた女の子が歯をギリっと鳴らしてアメの胸ぐらをつかむと鋭い視線でにらみつける。
「ふざけるのもいい加減にして!」
泣いていたせいなのか掠れた声だけど大きな声で叫びながらアメの頬を叩く。避けれたけどなんとなく避けちゃいけない気がしてそのまま叩かれる。
アメを叩いて手が痛かったのか右手を押さえてにらむ女の子になんて声をかければいいか分からず困っていると、牢屋の鉄格子がガシャンと乱暴に叩かれる。
「お前らうるせえぞ!」
大男が棍棒で牢屋の鉄格子を叩きながら怒鳴ると女の子たちは悲鳴をあげて部屋の隅に固まって震え始める。
「なんだ新人と喧嘩か? 大切な商品に傷が入ったらいけねえだろうが? おい、どいつだ? あん? 喧嘩していたのはどいつだって聞いてるだろうが!」
棍棒で鉄格子を何度も叩き怒鳴る大男にアメを叩いた女の子が歯をガチガチ鳴らして震える。その姿を見てニンマリと笑った大男は牢屋の鉄格子を掴んで揺らして大袈裟に音をたてる。
「お前だろ。言うことを聞けない商品は修正が必要だからな。俺が常識ってものを教えてやるからな」
げへへへと品のない笑い方をする大男が腰につけた鍵に手をかける。ジャラジャラと鍵同士がぶつかり鳴る音にアメを叩いた女の子が頭を抱えて体を小さくする。
「ちょっと聞きたいだけど」
「あ? あん?」
アメが尋ねると、大男は驚いた顔で気の抜けた返事をする。
「あのさ、これって犯罪?」
「は? 何言ってんだお前。てめえらを金持ちの変態どもに売り飛ばす商売が普通の商売だと思うか? まだ置かれた状況が分かってねえのか? とんだバカだな。いいかお前は売られるんだ。そうさ犯罪に巻き込まれたんだよ!」
「あ、そう」
アメは牢屋の扉を蹴り鉄格子でできた扉ごと大男を蹴り飛ばす。扉と一緒に吹き飛んだ大男は向かいの壁に激突して気絶してしまう。
「よし、ここから出るか」
アメが振り返るとさっきとはまた違った驚愕の表情でアメのことを見る女の子たちがいた。




