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第80話|置かれている時間
朝、彼は端末を開いた。
一覧は静かに表示される。
更新時刻は整い、
異常欄も存在しない。
何も変わっていない。
そう思いながら、
彼は最初の案件を開いた。
入力欄を確認し、
文章をゆっくり読み進める。
確認ボタンは画面の下にある。
以前なら、
読み終えた流れのまま押していた。
今日は違った。
画面を閉じず、
手も止めず、
ただ読み終えた状態のまま置いておく。
午前中、誰もそれを指摘しない。
処理は他の案件から進み、
業務全体も滞りなく流れていく。
昼前、新しい担当者が
机の横を通りながら画面を見る。
「まだ開いてるんですね」
彼は頷く。
「読んだあとにも、少し時間があるみたいです」
担当者は返事をしない。
そのまま自分の席へ戻り、
同じように一件だけ画面を開いたままにしていた。
午後、ログを確認する。
完了した案件は整然と並んでいる。
開いたまま置かれていた時間は、
どこにも記録されていない。
夕方、彼は一覧へ戻る。
何もない余白は、
昨日と同じ場所にある。
その余白は、
待つための場所というより、
急いで埋めなくてもよい場所のように見えた。
定時、端末を閉じる。
今日も運用は正常だった。
異常も遅延も表示されていない。
ただ、
誰にも数えられなかった時間だけが、
静かに一日の中へ置かれていた。




