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第76話|残された余白
朝、彼は端末を開いた。
一覧は昨日と変わらない。
更新時刻は整い、
異常欄は存在しない。
画面は完成しているように見える。
それでも彼は、
何もないはずの場所まで自然にスクロールした。
午前中、処理を進める。
入力は受け付けられ、
完了も正常に記録される。
確認ボタンは押され、
一覧は静かに更新される。
何も問題は起きない。
昼前、新しい担当者が、
その場所にカーソルを置いた。
クリックはしない。
「ここ、押せそうな気がしませんか」
彼は画面を見る。
ボタンもリンクも存在しない。
反応する要素は何一つない。
それでも、
押すことを待っているような静けさがあった。
午後、基準文書を開く。
新しい追記はない。
削除された箇所もない。
ただ、右余白だけが
以前より少し広く見えた。
夕方、彼は一覧へ戻る。
何もない場所は、
相変わらず何も表示していない。
だが今日は、
そこを避けて視線を動かすことができなかった。
定時、端末を閉じる。
今日も運用は正常だった。
異常も遅延も表示されていない。
それでも画面のどこかには、
まだ使われていない余白が残っていた。
誰も説明しないまま。




