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第73話|思い出せない場所

朝、彼は端末を開いた。


一覧は昨日と変わらない。

更新時刻は整い、

異常欄も存在しない。


彼は最下部を見る。


何かを探していた気がする。


だが、

何を探していたのかは思い出せない。


午前中、処理を進める。

入力は受け付けられ、

完了も正常に記録される。


運用は滞りなく続いている。


昼前、新しい担当者が言った。


「前に気になっていた行、ありましたよね」


彼は頷く。


確かにあった。


だが、それがどの位置だったのか、

どの番号だったのか、

思い出せない。


担当者も同じだった。


二人とも覚えている。


だが内容ではなく、

覚えているという感覚だけが残っている。


午後、ログを確認する。


記録は整然と並んでいる。

欠番もない。

削除の履歴も存在しない。


夕方、彼は一覧をスクロールする。


途中で手が止まる。


何かがあった気がする場所。


だがそこには、

他と変わらない行が並んでいるだけだった。


定時、端末を閉じる。


今日も運用は正常だった。

異常も遅延も表示されていない。


ただ、

思い出せない場所だけが、

少しずつ確かなものになっていた。

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