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第69話|押さなかった記録

朝、彼は端末を開いた。

一覧は昨日と同じ表示だった。


更新時刻は並んでいる。

異常欄は存在しない。

完了件数も表示されていない。


彼は最初の案件を開く。

入力欄を確認し、

カーソルを確認ボタンへ合わせる。


そして、

押さないまま画面を閉じた。


理由は分からない。

拒否したわけではない。


ただ、

押す必要が少し遠く感じられた。


午前中、別の案件を処理する。

こちらは通常通り完了する。


遅延も補正も発生しない。


昼前、新しい担当者が言った。


「さっきの案件、閉じました?」


彼は頷く。


「あとで開けばいい気がした」


担当者は少し考え、

「そういう感じ、最近あります」と言った。


午後、ログを確認する。

完了した案件だけが記録されている。


閉じられた案件は存在していない。


夕方、一覧を見る。

件数は変わっていないように見える。


だが彼は、

押されなかった確認ボタンが

どこかに残っている気がしていた。


定時、端末を閉じる。


今日も運用は正常だった。

異常も遅延も記録されていない。


ただ、

押さなかった時間だけが、

記録されないまま残っていた。

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