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法紋で爆破も試してみた。
びくともしない。
宝石を浮かせて床に叩き落としてみた。
床にヒビが入ってしまった。
…つまり、宝石は割れていない。
もう案は思い浮かばない。
材質を細かく調査する、という手に移行することにした。
法紋を魔改造して、材質の解析ができるように自分で作り上げていたのだ。
ノヴェーヌに自慢しながら、法紋を起動させる。
レーダーのようなものが出て、解析情報がこっちまで届く。
「ふむふむ…あ、これプライラトだ。電気で壊せるじゃん」
「お主、なんだその法紋は。我でも考えんぞ、着眼点が有機化学的だな。」
褒められているのか、貶されているのか。
法紋を準備する片手間に、少し考えた。
サイズやプライラト自体の性質から、かなりの威力がいるはずだと推測できる。
法紋を展開して、宝石に発動する。
ヒビは入ったが、効力は足りなそうだ。
今度は更に大きく強く法紋を準備しようとする。
_その瞬間、誰かが目の前に現れた。
人だ。警戒して武器を構えた。
ところが、ノヴェーヌはのんびりとしている。
「再現性生物だな。観測者の模倣をしているのだろう」
そんなことを言うが、その割には動きも洗練されていて、攻撃対象が的確だ。
再現性生物特有の動きの単調さや、姿を模倣しているような綻びは見当たらない。
再現性生物とは思えない違和感に思考を奪われていると、こちらの胸を的確に狙ってきていた。
「危なっ!?」
慌てて飛び退いて掠った腕を見ながら、今度こそと構える。
相手は剣を使っているため、ある程度離れた距離で戦えば、こちらに利がある。
時折迫ってくる剣を振り払いながら、隙を見つけて魔槍で突く。
そして、敵の胸を刃で貫けば、再現性生物は元のキノコのような姿になって息絶えた。
それを見届けて、武器を下ろす。
その様子を見てようやく、再現性生物だったのだと安心した。
「ふぅ、じゃあ、今度こそ、カルキュルコアを壊そうかな。」
ようやく、準備していた法紋を展開して使用すれば、大きな轟音が耳をつんざく。
鼓膜が破れるかと思えた衝撃に、思わず耳をふさいだ。
そして、音が消えたのを確認して、目の前を見ると、砕けて散らばっているカルキュルコアの残骸が広がっていた。
いくつかが私にぶつかってきて、素肌の出ていた、ふくらはぎに少し傷がついていた。
適当にカルキュルコアの欠片を入手してポケットに入れた上でカルキュルコアの元を出発する。
「お主、なぜコアを拾った?」
「綺麗で可愛かったから。前世の世界だと凄い高値で売れそう…」
簡単のやり取りをしながら、足早に元の道を戻る。
どれくらいのダウンロード進捗か分からないから。
半分まで移動したところで、戻る道がはっきりと思い出せる場所に来た。
ここからはシールの能力を活用して高速移動で操縦席まで戻る。
定期的にノヴェーヌがテレポートしてくるのがこの環境の中でも少し面白かった。
「ダウンロードは…どっちも終わっちゃってたみたい…あ、でもアセット整理中だ」
安心して操縦席に座って待った。
座れば即完了かと思っていた。
どうやら違うらしい。
完全に同期が終わるまで、待たないといけない。
心拍数の上がった身体のまま、ひたすら座って待つ。
この間に観測者に見つからないことを祈って、ノヴェーヌと話すことにした。
「で、先代観測者としては、ぶっちゃけここは何年ぶりなの?」
「覚えておらん。そうだな…1500年は経っておるのではないか?」
「ふぅん。じゃあ、1500歳以上か。ババアだね。私なんてまだ未成年だよ?」
「まぁ、お主ほどのガキからしたら婆に見えるのもおかしくないだろうな。お主は、この世界に来る前はどうしていたんだ?」
誂いにも顔色1つ悪くせずに、あしらわれた。
逆に、こちらが都合の悪いことを聞き返されてしまった。
私自身もいう気がなく、それにもう思い出せないというのに。
「うーん、もうあんまり思い出せないんですよね。でも、確か…学生をしながらファッションデザインをしていたかな。」
「ファッションデザイン…想像できないな。どちらかと言うとセンスがない方かと思っていたぞ」
今度は、失礼なことを言われ返されてしまった。
頭の良い人との会話はこれだから、しんどい。
「有名な賞だって取ったことあるのに!」
「そんなに拗ねるな。お主がそこまでの人間だとは思わなかった。なぜ、お主はこちらにここまでの力を持ってきたのか、心当たりはあるのか?」
「心当たりあたりなんかないよ!」
「そうか?お主の暗い過去とか僅かな心当たりでもないか?」
流石、先代観測者。
的確に言い逃れしづらい聞き方をしてきた。
しかし、私なりに頭を働かせる。
「あまり覚えてないんですけど。まぁ、生みの親と1回目の育ての親と2回目の育ての親で2回親が変わってることくらいかな。私自身はそこまでショックはなかったけどね、うん。」
そう言うと、ノヴェーヌは少し深刻そうに黙り込んでしまった。
これだから、あまり自分の過去を人に言いたくはないのだ。
ただ、ここでフォローするように何か言ってしまっても、却って気を使わせてしまう。
結局黙って、返事を待つことにした。
「…なぜ、2回も?」
最終的な質問はそれだった。
何を思ってその質問をしたのかは、私にはわからない。
ただ簡潔に、生みの親は死んで、親戚だった育ての親その1に引き取られたこと。
その1が虐待をしてきたので、保護センターで保護された。
そのあと育ての親その2に引き取られた、という話をした。
まぁ、その2の両親も私には合わなくて、高校入学時に一人暮らしに逃げてしまったけど。
この話を聞き続けるとともにまた、ノヴェーヌは憐れみの視線を向けてきた。
「今の話のどこに、哀れむ要素が??」
「お主、それ、えぇ…?いや、その、育ての親その2とはどんな生活だったんだ?言いたくないならいいんだが」
困惑か、哀れみか。ノヴェーヌは時々、声が裏返らせながら聞いてきた。
言いたくないといえばないけど、言い淀むほどではない。
「えぇっと…どこを説明したらいいかな?あぁ、奥さんのほうはかなりヒステリックで定期的に怒っては物を壊してたなぁ。ヒステリックにさせてたのは、大体家に女連れ込んでた旦那さんのほうだったけど!」
思い出して、また少し笑ってしまう。
大抵、奥さんは旦那さんのほうのコップを壊しては、旦那さんもまた家にお金を入れないようにする、のような喧嘩をしていた。
酷いときは、奥さんは歯磨き粉にすり潰した虫を入れたり、洗濯物を一度ベランダで靴で踏んづけたりもしていた。
「あぁ、小学生のころに、宿題破られたり、主食を奪われて床にはたき落とされたときは流石に危なかったなぁ。あれは良くないな」
「それもそれで虐待ではないか…?」
「そう?奥さんのほうだって、あんだけ旦那さんが夜遊びしてたんじゃ気が狂ってもおかしくないよ」
「それはそう…って、だからってお主が耐える必要はないだろう!?」
ノヴェーヌが急に勢いよくノリツッコミをしてきた。
笑いそうになったところで、急に変化したノヴェーヌの表情で、気が引き締まった。
恐る恐ると辺りを見渡すと、居た。
観測者と思わしき人が。




