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ミカルアさんが研究室のある建物に引きこもって5日目。
隈を作って、戻ってきた。
服は最初と違って髪の毛もずぶ濡れなので、シャワーは浴びてきたのだろう。
「はい、ご飯です。食べて一旦寝てください。」
ワンプレートで差し出して椅子に座らせると、渋々といった様子でミカルアさんは食べ始めた。
半分くらい食べたところを見届けて、私はお茶を飲もうと席を立った。
ハーブティーを淹れて、数日前に勝手に買ったパウンドケーキを持って机に戻ると、ミカルアさんは食事を放棄していた。
机には私の知らないノートとペンが置かれている。
ミカルアさんが何かすごく汚い文字で書いていた。
私が見たミカルアさんの文字史上、最も汚い字だ。
質問しようと思った次の瞬間、ミカルアさんはノートを持って食事の席を立った。
研究に向かうのだろう。
用済みになったのだろうペンだけは机に置きっぱにされていた。
私はティータイムを満喫しながら本を読んでいると、今度はドタバタとミカルアさんが戻ってきた。
さっきまでの急な逃走から見ると、温度差にびっくりするくらいに落ち着いた顔をしていた。
しかし、かつて無いほど満面の笑みだ。
「分かりました。しかし、かなりヤバい状況ですね…」
「カルキュルコアのエネルギー蓄積量がかなりギリギリです!それで、新たな観測、者が……」
ミカルアさんは言葉が尻すぼみに消えていった。
急に黙ってしまい、僅かに顔色を悪くしたのが分かる。
持ってきていたらしいノートを開いて見て、また口を開いて閉じた。
こちらに目を時々やるが、すぐに目を逸らされた。
見たことのないミカルアさんだったので、様子を伺って黙っているしかない。
ミカルアさんをじいっと眺めていると、不意にミカルアさんはペンを取った。
何かをノートに記入して、10秒ちょっと経ったくらいに、深いため息を吐いたようだった。
「あと、5日…少なく見積もれば3日…」
何かとも分からない、しんどそうな声を溢しながら、ミカルアさんは椅子に座った。
どうしました、聞こうとするすんでで、ミカルアさんはこちらに向き直った。
「さっき言ったカルキュルコアって知ってます?」
「まぁ、うん。転生者を観測してるこの星の核でしょ」
そう聞き返すと、ミカルアさんはまたため息を吐いた。
なにか計りかねているような様子だ。
伝えるか、伝えないかだろうか。
カルキュルコアのエネルギー蓄積量が限界…それはノヴェーヌからも聞いている。
新たな観測者が…と言われたことを考慮すれば、転生者が観測者になってそれをどうにかする方法があるとでも考えられる。
「ミカルアさん、カルキュルコアって転生者にちょっとずつ含まれてるんですよね」
「なんでそれを?」
「…本に載ってました」
ノヴェーヌを見ながらそう言ってみる。
「そっちになんか居るんです?」
ミカルアさんが違和感を持って聞いてくる。
否定すると、そうですか…とミカルアさんは黙ってしまった。
いつもは尋問が始まるというのに。
そして、こう言えば、私が本題に踏み込む意思があると普段なら理解してくれるはずだが、本日は鈍いようだった。
「ご飯冷えますけど」
話を逸らすと、ミカルアさんはホッとしたようで、ご飯に手を付ける。
ミカルアさんがご飯を食べている間は私はハーブティーを飲む。
ミカルアさんは半分ほど食べたところで、口を開いた。
「……、なんていいましょうか。」
「…貴方には未来を守られる権利があります。しかし、この星の未来を知り選択する権利もあります。俺はただ事実を告げるだけ、それを念頭に置いてください。」
ミカルアさんがそう言い、一つ息を吐いた。
私が頷くと、決心がついたのか語り出す。
「観測者として操縦席に乗るまでの時間で、コア転換というコアの入れ替えをすれば大きな破滅は避けられるでしょう。」
「コア転換ってどうやるの?」
ミカルアさんは私に悟らせないようにしてるのだろうか、主語も伝えず端的に研究結果だけを伝えてきた。
ミカルアさんが言い淀むという時点で私も関係することになるとは察していたが、案の定観測者になるという話が出てきた。
観測者になれるのは転生者のみ、それは私が観測者になるという意味を持つ。
「私がする」という意思を伝えるための聞き方をしたが、それにミカルアさんは僅かに目を見開いた。
「リリが…するつもりですか?」
「だって、私が一番適任でしょ?ここだけの話、私はカルキュルコアの含有量が多いし、その数値も知っている。」
「はい!?えっと、いつ?なぜ?」
私が少しカッコつけるように、冷静に秘密を伝えたというのに、ミカルアさんは急にギャグのように驚き出した。
「ノヴェーヌって知ってる?」
「は?先代観測者の話がなぜ今……まさか!」
「そのまさかかな。感情のエネルギーが溜まったせいで、その厄介な研究者が私のまえに現れたの。」
「ほんとに、あるんだ。エネルギーの媒介法則って…!それで、リリはどのくらい含有量してると」
さっきまでしんどそうだったミカルアさんの目が輝き出した。
薄情じゃないか、という文句と、研究者気質への感動が胸の中で合わさって、なんとも言えない気持ちになる。
「0.87mg」
「は?は?ちょっと…待ってください。聞き間違えですか?」
「聞き間違えじゃないと思うよ。0.87mgだよ。」
「…いえ、リリで人体実験なんてもってのほか…しかし何故そんな…まさかコアに異常が…いや、しかしそんな物は見当たらなかった…なにか特異的な存在なのか…調べた、い…」
ミカルアさんがブツブツと物騒な事を言い始めた。
コーディウを思い出した。
そういえば研究のためなら禁忌にでも手を出す人だもんな…と苦い気持ちになる。
しばらく横目に茶を啜っていると、ミカルアさんは急に顔を上げた。
「…いえ、何でもありませんから。それにしても…本当に、貴方は観測者になることに異論はないのですか」
「ないよ。どうせ、死ぬの一択しかないから。」
「ノヴェーヌが言ってた。私ほどカルキュルコアを多く含んでいるなら、命は長くは保たないって。」




