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「ミカルアさん、ただいま。」
無事に帰宅したあと、手を洗ってミカルアの研究室に向かった。
「ずいぶん遅かったですね」
「コーディウに誘拐されかけちゃって」
ミカルアさんに話しかけると、予想通りの不機嫌だった。
ミカルアさんが眉間にシワを寄せて怒っている理由は分かっている。
できるだけすぐに逃げようと書類を机においた。
横でノヴェーヌがクツクツと笑っている。
「レランクェスに誘拐…。なんですか、これは。その割に満喫してそうですけど?」
言葉の節々に棘がある。
誘拐は信じてくれてそうなのに、何故か私も怒られている。
こっちもスパイしたとはいえ、誘拐の被害者なのだ。
ひとまず怒りが酷くならないよう、質問に答えることにした。
「それなりに満喫してきました。これは、コーディウの研究所から奪ってきた天外研究の成果です。」
「………は?…はあ、ちょっと待ってください。何してるんですか貴方。」
「…産業スパイ?」
「お主、自覚あったのだな…」と横からノヴェーヌが笑っている。
「分かったうえでやっているから尚の事たちが悪いんですよ貴方。朱に交わればなんとやらというか…」
「失礼な!メーデルさんほどじゃない!それに元から!」
ミカルアさんがため息を吐いた。
しかし、その手は資料に手を伸ばし、ペラペラと紙を捲っている。
顔だけはこっちを見ているが、視線が資料に行っているのはお見通しだ。
「なにも、良くなってませんけど。てか、それどういうタイプの言い訳ですか…。」
「ミカルアさん、でも資料に興味津々じゃん。私のおかげでしょ?」
「……き、興味があっても、この資料を参考にすると、問題が浮かび上がってくるので駄目です。」
ノヴェーヌが大爆笑している。
世間から神とされている人と思えない大爆笑だった。
やはり学者の性は抵抗なのだろう、とウンウンと頷いているようだった。
「大丈夫だって。本来公開されてない情報だから、たまたま被ったとかにしとけば。それに研究の参考にするくらいなら問題ないんじゃない!?ねーえー、ミカルアさんっ」
「…そうですね。とりあえずこれは貰っときますが。何故、なぜ、レランクェスに誘拐される事態に…はー…」
「帰り道でコーディウとクレジェルに恫喝されました。」
嘘はついてない。
最初は、ノヴェーヌに「カフェなら付いていきたい」と言われて折れたのだが、それは言えない。
ノヴェーヌの話をするのは面倒くさいから。
担いで連れてかれて軟禁された話もしないでおこう。
「それで連れ去られた、と。」
「そんな感じですね〜。」
ミカルアがまた大きくため息を付く。
ノヴェーヌに目をやると、ソファに寝っ転がっていた。
「なにかされかけましたか?」
「いや、なにかされる前に脱走しましたし。あ、でもこんな神話資料を貰った。」
貰った嘘混じりの資料を差し出すと、ミカルアさんは読み始めた。
ノヴェーヌの寝ているソファーの上に私も座って待っている。
読み終えたミカルアさんがこちらをちらりと一瞥したので、ミカルアさんのところに戻る。
「これ全部読みました?」
「はい、一応。」
「当たらずとも遠からず、と言った感じですね。少し説明しておきます。ここにある通り転生者は定期的に現れていて、ここ100年で最低5人は居るんです。観測者になった人間も居ますが、生前がどうであれ善意にも見えず時に破壊行動を繰り返します。」
ミカルアさんが丁寧に発音しながら説明する。
相槌を打ちながら話を聞いていたが、真意が分からなかった。
「はい…なにかありました?」
「下手な実験に参加して、観測者になれる、なろうなんて思わないように。」
ノヴェーヌと同じことを言われてしまった。
なる気なんてない、と抗議すると、ミカルアさんはそれ以上食い下がらなかった。
私は自室に戻ると、ノヴェーヌに話しかけた。
「記録にある限りでここ100年間じゃ、転生者は5人って言ってたけどさ、どういう仕組みなの?」
「カルキュルコアがこの星の外から生みの両親を失った人間を選んで集めてくるのだ。そこからランダムに魔力量を分け与えている。それがこの世界の転生者なのだ。お主のように降ってくるものは珍しいんだぞ。既に存在する人間の肉体を奪うか新たな生命として生まれてくる者がほとんどだ」
長ったらしい説明を聞きながら、ノートにメモする。
空になったカップに茶を淹れ直しながら、座り直した。
「つまり、そのカルキュルコアが条件付きで転生者を投入して、魔力を与えてるわけだ。なんでそんなことを?というか転生者じゃない人とは特に中身は変わらない?」
矢継ぎ早に質問すると、待て、と止められた。
1つずつ説明をされる。
「カルキュルコアである元の人間はこの世界をシュミレーション世界として作り上げた。銀河を破滅に導くために、生み出した星なのだ。しかも、それによって、我たちの世界にも大きな攻撃を残そうとしている。そのエネルギーを貯める役回りになっているのが、お主ら転生者だ。実際は転生者は5人以上居るだろうな」
「5人以上…。なぜこの星の製作者はそんなことを?」
「さぁ、我にも分からん。」
「そして、もう一つだな。お主らには元からの子世界の住民と違い、身体にはカルキュルコアの一欠片が入っている。0.5mgにも満たないほんの、一欠片だ。それが違いだ。量によって、見た目に変化が起こる。お主のその金の瞳だな。」
「私はどれくらい?それにより起こる作用は?」
ノヴェーヌは手を私の胸に突っ込んできた。
不思議と痛みは無いがなんなんだろう。
「…、お主。0.87mgだ。よくこれだけカルキュルコアを入れられて生きていれるな。我がお主に会えたのもこのおかげか。」
「はえー、多いほど観測者に近い的な?」
「…大まかにはそうだな」
ふぅん、と流すと、あくびが出てきた。
あくびを噛み殺しながら、なんとなく一日を振り返る。
「ミカルアさん、ここ数日はずっと夜通し研究だろうな。寝よ、おやすみノヴェーヌ」
電気を半強制的に消すと、ノヴェーヌもため息を吐きながらソファに凭れた。




