26
私は大事を取って早退させられてしまった。
そして、次の日もおやすみになり、退屈な一日を過ごし、ようやく登校できるようになった。
歓喜のまま、登校してきて凍った空気に思い出した。
先日、リアリィスさんに嵌められたばかりだったことを。
そんなわけで、私が教室に着くと、スーッと人が捌けていき、人が近くを離れるとコソコソと話し始める。
嗤っているのだろうか、となんとも言えない感情になるが、横にいる男を見ると一周回って理性を取り戻してくる。
面白そうにニヤニヤ笑っている通常運転は私にある種の日常を思い出させる。
少し文句のように、声をかけるとつまんなそうにされる。
「メーデルさん?嬉しそうにしないでよ。巻き込むよ?」
「あはは、おはよう。君はさっきまで忘れてたみたいなのに?」
そう言われると、否定はできないので、困ってしまう。
そういえば、この人はイジメに加担しないんだなーとは思ったけれども、元からある程度交流もあるしそんなものなのかもしれない。
なんて、適当に理由を考える。
暫く疑いと納得を逡巡したあと行き着いたのは、結局疑問だった。
この人は一部始終を知っているとはいえ、自分の保身に走って白を切るタイプの人間だろう。
失礼だが、情なんて知らないと言い切れるようにしか見えない。
「今失礼なこと考えてない?」
「そんな顔に出てる?」
「初対面の時も同じようなこと言ってたじゃん」
無気力にだらーんと足を伸ばされながら、言われると緊張感の無さに安心する。
メーデルさんは、刺してくるような視線をつまらないものだと言いたげなのだから、それを無視する他無いと柔らかく突きつけられたようだった。
私もぼんやりとして、そのイジメの空気を見つめ返していると、やがてしつこく不躾な視線は離散していく。
なんとなくメーデルさんの言うことも正しいなと考える。
「ね?何も持たない人って皆あんな感じ。君は僕よりも更に特殊なんだから」
もっとやり返すくらいの意気で行かないと、なんて言われる。
意外と、情に厚い人なんだと分かったけど、でも、何故そこまで仲間扱いされるのか、不思議な疑問は残った。
「君も前世でわかってるんだろうけど、ああいうのってイジメれる隙を探してるんだから、格下だと思うくらいがちょうどいい。」
そして、どこか虚しそうに告げられる。
「君って思ったよりも選ばれてたみたいだから、その悲劇で終わらないようにしないと。」
「ミカルアさんより理解してる僕からのアドバイス。今が味方だからって、優しい結末に導いてくれるわけじゃない。」
「ほんとにミカルアさんでいいのかな?」
そう言われれ、急に頭の中の人間関係がぐちゃりと混沌となる。
転生して急ごしらえした人間の信頼図を真っ向からぶっ壊すような表現に思わず不安になる。
「あはは、不安って顔してるよ。でも、意外だねぇ、ミカルアさんがあの感じだし、てっきり君もゾッコンなのかと。」
愉快そうに笑われて、居心地悪さを感じる。
やはり、あのようにヘイトを買っているように、他人からはそう見えているのだ。
あの美貌に並ぶ見た目だから嬉しいなんて、穿った見方をしようとしながらも満更悪くないと思っていた自分に少し後ろめたさを感じる。
きっと、目の前の彼は見透かしてるんだろうな、と恐る恐る視線を向けるが、やはりすべてを見透かしていそうな分からない表現をしていた。
ただ、少し楽しそうなのは救いと言ったところか、さらなる絶望なのか。
「君なら、うーん…悲しいことにあと数人は味方してくれる人がいるだろうね」
言い方からは、きな臭い人が寄ってくるのだろうか、なんて考えてみる。
ウンウン唸ってると、頭の上から愉快そうにまた笑い声が聞こえる。
「まぁ、少なくとも、君がどう思ってようと、僕は君の味方を名乗るから。気になったら質問しなよ」
心強い支援の宣言に私は心打たれる。
普段酷いことも言う人だからこその、言葉の重さっていうのはあって、まさにそれを感じた。
あのメーデルさんが言うレベルならそうなのかもしれない、と。
そう思ってふと、一つ疑問に思った。
「え、てか、それなら、悲しいことに数人の味方って何?」
「あ〜、僕も別にそこはまだ確証がないんだよね」
そう言ってメーデルさんは手遊びをしていた。
あくまで言葉遊びだったのかとも思ったが、であれば確証なんて言葉遣いにならないだろう。
それでも、大凡の当てとして味方が増えることと、それが悲しいことだと言い切れることには緊張感があった。




