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「何があったか今聞きます?」
ミカルアさんと、家に帰ってきた。
様子を伺いながらそう聞くと、心配していたよりも平坦に頷かれたので、アリアーコルさんの例の出来事について説明する。
へぇ、と特に関心のなさそうな相槌が時々入る。
話し終えて、特に咎めることはないのかと聞いてみる。
「別に、貴方に何かあったわけじゃないのでしょう。なら構いません」
「それはそうなんだけどさ、なんか後でなんかあったりしないか不安だから。」
「なにかやましいことでもあるんですか?」
特に無いから平然としているんだろう、とでも言うように聞かれる。
バイト先で事件が起きたことによる不利益がないのか聞きたかったのだが、この語りぶりからして無いということなのだろうと自分の中で無理くり納得する。
適当に否定をすると、満足したようで実験の進捗を聞かされそうになる。
まだそんな気分じゃないのと、疑問は残っているので少し話し続けることにした。
「私の元いた世界ではですね。」
「なんですか?」
「こういう、有名で地位のある人への傷害事件があると、もっと取り立たされるんです。それに人が倒れたら騒ぎになって、帰れなかったりするんですよ。」
「それこそ、アリアーコルさんのようなこちらの世界にはもう居ないんですが、いわゆる貴族。って、意外と軽い命なんですか?」
自分の不安を一つ一つ言葉にしていくのを、ミカルアさんは黙って聞いている。
ミカルアさんはまるで信じられないとでも言いたげな瞳をしていた。
「この世界でも確かに、少し前は貴族が倒れたとなればメディアで報道されました。しかし、今はもう政府関係者かよほどの著名人でなければ誰も気にしませんね。」
「軽い命かどうか、についてですが…死という存在自体は貴女の居た世界よりも確実に多くあって軽いでしょう。」
淡々と告げられる現状になんとなく浮世離れしたものを感じる。
治安の悪化で死が軽くなる、というのも分からなくはない。
たしかに、一般人の死は、事件でなく事故であれば報道されないことも多い。
しかし、それをここまで受け入れられるのは、相当に退廃しているのだろうか。
私はスマホを取り出し、片手間に調べる。
事件というのは調べるとようやく出てくる、それは変わらない。
犯罪件数自体は全てを含めて2400万人だと言う。
殺人だけだったら…と、人口と比べてみても、2.3%で、現代より多分上回っているのだろう。
前年度比が-20%減とあるのは見ないふりをして…
と、私の店は1件だけSNSの投稿になっていただけだった。
「慣れてるんですね…にしても、これ」
私は前年度の殺人犯罪率を見せると、ミカルアさんは眉一つ動かさない。
ここにきてようやく初めて、私は1人なんだという自覚がはっきりとする。
しかし、僅かに口の端を上げたミカルアさんは、流暢に期待外れに語る。
「そうなんです、テロが起きたのですが、何かがおかしい。この世界を破壊で埋め尽くすような…よくあるテロの欲望が見えてこない、と言うと少し気の所為なんですが」
しかし、ミカルアさんともあろう人が、分からないらしい。
確かにここまで殲滅してしまうと、何か叶えたいことがあるようにも見えなかった。
私が首を傾げると、一通り話したからか満足した、ミカルアさんは知らぬ間に、解凍されていた夕食を差し出してくる。
まさか、話は終わりなのか、とミカルアさんを眺めていると、仕方なさげに口を開かれた。
「俺はこれからまだ仕事があるので。早く食べて今日はもう休むように。」
そう言われると、断るのさえ面倒臭くなってくる。
仕事という名の実験が残っている日はミカルアさんは絶対に譲らないのだ。
わかりました、と仕方なく頷いて、置かれた皿に手を付けた。




