13
「起きてくださいっ!」
強めに叩き起こされることで私の一日は始まった。
なんだなんだ、と重い瞼を開く。
イケメンがいた。
小紫色のような、濃い紫色の発酵した葡萄酒のような、そんな髪を揺らしている。
現実には到底居ないだろう。
夢だろう、そう思うと再び瞼は落ちていく。
「おい!もう一度寝ませんって!」
イケメンと目が合う。
ミカルアさん…?
そう思い、ようやく異世界に転生してきたことを思い出す。
ちょうど、家族で旅行に行く夢をみていたせいで、なんとなく以前のような気がしてしまっていた。
「…?そっか!転生したの忘れてました。」
「学校は?」
そう聞かれて一瞬なんのことか分からなかった。
見つめ合ったまま数秒時間が経つ。
「いや…、以前も学校に行くために起きるんじゃないんですか?もしかして、学校の制度違いました…?」
そう言われて何の話か理解した。
単純に日付感覚が狂っていただけだ。
まぁ、確かに私の言っていた高校は週4制でちょっと特殊だったが。
「疲れてて…日付感覚ないんですよ…」
ため息と同時にそう強く放つ。
最低かもしれないがそこらへんはご愛嬌、ってことで。
再びウトウトと深い眠りに入りそうになる。
しかし、ミカルアさんの発言によりまた意識が浮上し始める。
「はぁ…まぁ少し早めに起こしたんで大丈夫ですよ。着替え置いてるんで、着たらリビングに来てくださいよ」
そう言って掛け布団が捲られる。
寒い。
なんで布団を剥がされるのか半分くらい理解できていなかった。
「制服は持ってきてるんで…着替える気あります?」
「あぁ?あー…ん、」
なんか間違ってる気がするが、眠気に逆らえない。
半分閉じた眼のまま、手を差し出す。
適当に返事してしまっても仕方ないだろう。
自明の理だし、世の中の基礎。
ミカルアさんは微動だにしていなかったが、10秒ほどの間の後。
ぽん、と服が手に乗せられた。
ので、制服のブラウスを通そうと袖を手に近づける。
「ん…?あぁ、先にブラつけないと…取って…」
「取りませんけど。というか、パジャマ着たままでしょう。」
ミカルアさんがそう言って出ていこうとする。
せっかくまだ寝てたのに…と愚痴を溢しながらベッドから転げ落ちる。
ミカルアさんの動作が止まったのを横目に、そのまま匍匐前進でタンスまで近付いた。
タンスを漁り出したところを見届けたミカルアさんが部屋を出たので、ブラを素早くつける。
ここまですると起きてしまった。
「はぁ…目が覚めちゃった…。」
立ち上がって、制服を雑に着ていく。
そして、履き忘れていたタイツを履くと、5分とちょっとで着替え終わる。
「先生、ご飯ありますか…?」
部屋を出て、ミカルアさんに低姿勢で伺う。
ミカルアさんは最初こそ嫌がっていたものの、もう慣れたようだった。
優しい人だよな…、なんて頷く。
鞄の荷物を確認して、予定表も確認して…と終えると、洗面所に向かった。
顔を洗わなければ、なんて考えながら予定を反芻する。
学校は通常通りで、終わったら部活を断って…そしてアルバイト面接。
なんとなく、やってみたいで決めた職種なのでゆるい面接ではある。
やるからにはきちんと、それはそれとして決まるまでは考えすぎず。
洗顔し終わると、買っておいたヘパリン類似物質とワセリンの混ざった、マイーロルンという保湿剤を塗る。
乾燥すると肌を切ってしまうのは、転生しても一緒なんて。
夢がなくて残念だと思う。
(歯磨きは画期的だったのに…)
保湿し終えたので洗面所を後にして出されたご飯を食べると、あっという間に登校する時間になる。
ミカルアさんの出勤する時間に合わせる弊害だ。
どう考えても生徒が登校するには早すぎる。
しかし、送ってもらうという選択をしたのは自分なのでそこは妥協するしかないのだ。
いや、なんならありがたすぎることなのだ。
車は移動速度が軍を抜いて早い。
現に、乗って5,6分だが、もう半分くらい進んでいる。
移動速度においては、魔指監督省が特別に設置する瞬間移動機、こちらの世界にもあるあの飛行機、の次といったランキングだ。
飛行機はこの距離には無いし、瞬間移動機は混むし酔いやすい。
となったら消去法で車になるのだ。
「ここまでついたし、もう降りるのでは?」
ミカルアさんの一言でこの移動手段についての思考は終わる。
思わずハッとして周りを目でぐるっと一周する。
学校の近くまでもう着いていた。
慌てて車を降りると、門まで小走りで向かった。




