97.センと大河の共闘
センは黒死竜の攻撃を受け、飛ばされた後、現れたトカゲのような怪物が吐き出した火の玉を横に飛び退き、何とか躱した。見れば、他のメンバーの目の前にも多種の怪物を呼び出していた。
「くそっ。あの野郎。非戦闘員のノッコやユウにまで。こいつを早く片付けて助けに行かねぇと」
目の前にいるトカゲのような怪物に剣を向ける。姿こそトカゲのようだが、その大きさは4m程。背中にはトカゲには無い鱗のような物がある。
「硬そうだな。まずは、小手調べだ!」
センは、トカゲモドキに飛燕を放つ。トカゲモドキは、素早い動きで飛燕を躱すと、火の玉を連続で飛ばしながら、センの方へと近付いて来る。
「ちっ。鬱陶しいぜ。肉弾戦で来いよな」
センは、火の玉を避けては、飛燕で撃ち落とし、間に合わない物は避けてを繰り返し、トカゲモドキの攻撃を凌ぐ。
距離を詰めたトカゲモドキの姿がセンの目の前から忽然と消えた。センが気付いた時には、センの右側に居り、尻尾を振り回す所だった。
「ガード!間に合わないか…」
トカゲモドキの薙ぎ払いをまともに受けたセンだったが、踏み止まり、尻尾を掴む。
「へっ。この程度じゃ吹き飛んでやらねぇよ。もらった!」
センが剣を振り降ろすが、トカゲモドキの硬い鱗はあっさりと剣を弾き返し、傷一つ付かない。
「やっぱ硬ぇな…」
トカゲモドキは、尻尾を捕まれたままセンに向かって、火の玉を吐き出したが、センは、尻尾を離すと、体を反らし火の玉をやり過ごす。その火の玉が、大河と戦っている蜂に命中した。蜂はよろめいたが、直ぐに体勢を整え、火の玉が飛んで来た方へと向きを変える。センとトカゲモドキの姿を見付けた蜂は、大河を放置して、セン達の方へと飛んで行った。
「敵に背後を見せるとは。間抜けめ!」
大河は、蜂に向けて飛燕を放った。大河の放った飛燕は、蜂に直撃したがよろめく事も無く、全く気にも留めず、尻から毒針を出すと、センに向かって突撃する。
「おい、2対1とは卑怯だぞ!」
センは、蜂の毒針を剣で弾き、後ろに跳んで二体から距離を取った。
「くそっ、トカゲ野郎が!面倒な事になったじゃねぇか」
センがトカゲモドキと蜂を見ていると、大河が走って来ているのが見えた。大河は、跳び上がると、麻痺の能力を発動し、蜂に斬り掛かる。
「俺を無視するんじゃない!」
大河の飛び斬りに気が付いた蜂は、振り向き後退しようとしたが、もう遅い。大河の剣は蜂の頭に命中し、触覚を一本斬り落とされた。そして、それだけでは無かった。大河の麻痺が蜂に効き、痺れて床に落ちる。
「こいつ、俺と同等かそれ以下なのか!」
大河の麻痺の能力は、大河よりも強い者には効果を発揮しない。これが効いたという事は、蜂は自分と同等以下という事だと、大河は自分でも勝てるかもしれないという期待から、急に元気になった。
だが、センは蜂が麻痺した事が不思議でならなかった。それは、どう見ても蜂の邪気の方が大河の気よりも強い。本来なら蜂に麻痺が通用する筈が無いのだ。だが、麻痺が通用しているように見える。
「大河さん、ちょっと喜びすぎだって」
「千士郎、大丈夫だ。こいつは、俺より弱いんだよ。麻痺が通用したのが証拠だ。勝つぞ!」
蜂が麻痺から回復し、飛び始めた。更に、トカゲモドキが蜂の傍まで歩いて来ている。そして、床に転がっている蜂の触覚を食べた。それを見た蜂がトカゲモドキに針を突き刺す。
「仲間割れしてるぞ。あいつら」
「大河さん。こっちは、共闘だ。仲間割れしてる今がチャンスだ。一気に叩こうぜ」
「よし。やるぞ!」
センは剣を斧へと形を変えると、大河と二人で仲間割れをしているトカゲモドキと蜂を挟み込む。一斉に攻撃を仕掛けた時、二体は争うのを止めた。
「ちっ。構うものか!行くぞ!」
大河は、そのまま突撃を続けたため、止まろうとしていたセンも仕方なく攻撃に向かう。
蜂の羽が物凄いスピードで羽ばたきを始めた。すると、大河は、突撃を止め両手で耳を塞ぐ。
「何だ!?この音。頭が割れるように痛い…」
「大河さん?どうしたんですか?」
センは斧を振り上げ、蜂に振り降ろすが、トカゲモドキが鱗で受け止め、蜂への攻撃を防ぐ。さっきまで仲間割れしていたのが嘘のような連携を始めた。
「こ、こいつら、連携始めやがった…」
「大河さん、離れろ!」
頭を抱え、苦しんでいる大河に向け、トカゲモドキが火の玉を吐き出した。苦しんでいる大河は、回避が遅れ火の玉をまともに受けてしまった。
「大河さん!」
蜂は大河の心配をするセンに向け、指向性超音波攻撃を行う。センの耳に頭が痛くなる程の高音が鳴り響く。
「っ!これか…、大河さんが苦しんでいたのは…。頭が割れそうだ…」
センも頭を抱え苦しんでいるが、火の玉を直撃した大河が動く様子が無いのを見ると、痛みを我慢し、斧を構えた。
「邪魔だ…。退けぇ!」
蜂に飛燕を放ち、走り出した。蜂は、羽の高速振動を止め、飛燕を躱す。だが、その隙に大河の傍へと辿り着く。
「大河さん、大丈夫ですか!?」
「……」
返事がない。不味いぞ。ユウに治癒を頼まないと。センがユウの様子を伺うと、大蛇の首を切り落とす瞬間だった。
「ユウが、敵を倒したのか。俺もやらなきゃな。その前に大河さんだ」
ユウの活躍を目の当たりにしたセンは、戦意が向上した。
「ユウゥッ!大河さんがヤバい。治癒を頼むぅ!」
センがノッコの元へと向かおうとしているユウに大河の治癒を叫んで頼むのと同時に、トカゲモドキが火の玉を吐いていた。
「ちっ。させるか!」
火の玉を飛燕で斬り裂くと、蜂に向かって突撃する。斧を剣に切り替え、突きを放つ。
「氷牙突ぅぅぅ」
蜂は上昇し、氷牙突を躱すとセンに向かって降下する。
その時、優の放った矢が蜂の羽を掠めた。
「センさん、大丈夫ですか?」
「サンキュー!ユウ!」
優は、大河の近くに矢を放つ。矢は大河の頭の近くに刺さると金色の光を放ち、大河を包み込む。
「これで大河さんは大丈夫。ノッコさん、今行きます」
優は、再びノッコの下へ向かうのだった。
金色の癒しの光に包まれた大河は、意識を取り戻し、立ち上がった。
「俺は…。この矢は。明智さんが助けてくれたのか…」
蜂とトカゲモドキの様子を見るとセンが、蜂の腹を剣で薙ぎ払う所だった。センの剣は蜂の腹を斬る直前に、トカゲモドキの体当たりがセンの邪魔をする。
「くそっ。邪魔だ!」
センは、斧に切り替えながら、薙ぎ払う。トカゲモドキの鱗に弾かれてしまったが、薙ぎ払いの衝撃でトカゲモドキも5m程飛ばされる。
「くそ。千士郎でも戦えているのに、俺が戦えない訳がない!」
大河は、片羽を失くし飛べなくなった蜂に向かって突撃する。
「うぉぉぉぉ!」
大河は雄叫びを上げながら剣を突き出し、蜂の左眼に突き刺した。
ズブッ。
大河は腕に妙な感覚を覚える。これが刺した感触なのかと思ったが、その後には激痛に襲われる。自分の感じた違和感は蜂の針が自分の右腕に刺さった感触だったのだ。
「こいつ。何だ?体がし、び…」
大河は蜂に麻痺の能力を、蜂は大河に麻痺毒をお互いに使い、麻痺によりその場に倒れる。
「大河さん!」
足元で倒れる大河に声を掛けるが、麻痺毒が強いのか、全く動けないでいた。更にその傍にいる蜂の頭にセンは剣を突き立てた。大河の麻痺で痺れて痙攣をしていた蜂だったが、センに頭を貫かれ息絶えた。
「よし、一ぴ…」
蜂を倒したセンにトカゲモドキの体当りが命中する。
センを吹き飛ばしたトカゲモドキは、大河が動けない事が分かると、大河を無視し、蜂の死体を食べ始めた。
「野郎!どかどかとぶつかりやがって!」
だが、トカゲモドキの体当りのおかげで、センは身体能力がかなり向上しているのが分かった。
「今の状態ならあいつの鱗を破れるか?」
力を開放した一撃であれば間違いなく倒せるだろう。だが、この後の黒死竜との戦いの為にもこの強化は残しておきたい。向上した身体能力だけでの攻撃であの硬い鱗を破れるか。ギリギリの所だった。センが悩んでいると、蜂を食べていたトカゲモドキは、目に入る蜂の部位は全て食べ尽くしてしまったようだ。そして、全ての部位、大河の右腕に刺さったままの針も食べようとしている。
「ぐ、ぐぁぁぁ…」
何とトカゲモドキは、大河の右腕ごと針を食べた。右腕を食べられた大河は、痺れて大声を出せず、静かに悲鳴を上げる。
「貴様ぁ!」
センは、大河の右腕を食べている事に気付き、飛び上がった。
「死ねぇ!」
センは、落下の勢いを付けて、斧をトカゲモドキの頭上へと振り降ろす。
ザクッという肉を斬る感触をセンは感じた。落下による勢いとダメージによる身体強化によって、トカゲモドキの頭を見事に斬り落とした。
「大河さん!」
センは、大河を抱えると、ノッコと共に戦っている優の下へ向かおうと駆け出したのだった。




