98.ノッコと優の奮闘
黒死竜は賢也以外のメンバーの目の前に怪物を出現させた。
そして、ノッコの前には大きな蝶が現れた。2m位はあるであろう蝶が、ヒラヒラと目の前を飛んでいる。
「ちょっと、流石にこんなに大きいと、蝶々でも気持ち悪いわよ」
ノッコは、蝶を黒い霧で包み込むと、蝶の能力を調べようとした。だが、蝶の大きな羽が羽ばたくと、霧が散ってしまい能力を調べる事が出来なかった。
「ちょっと。私の霧が散ったじゃない。これ、相性最悪なんじゃないの?」
ノッコの能力は黒い霧による視界封じや相手の能力を読み取る力。元々、戦闘向きでは無い能力だったが、常にパタパタと羽を羽ばたかせる蝶は、その霧を霧散させてしまう。戦闘向きでは無いとは言え、自分の頼みの綱である霧が全く意味が無いとなると、ノッコにとっては相性が最悪であった。
「でも、ヒラヒラ飛んでるだけなら、やられる事も無いか。スピードも大した事は無さそうだし」
時間を稼ぎ、他のメンバーに倒してもらうのが最善策かと考えたが、ノッコは覚悟を決めた。
「皆頑張ってるんだ。私だって戦うわよ!」
腰に付けているチャクラムを手に取ると、蝶に向かって投げた。チャクラムは弧を描きながら蝶に向かっていき、蝶の手前で空を切ると、ノッコの元へと戻って来た。
「え?何で届かないのよ!?」
今の攻撃は、確実に蝶に当たると思っていた。だが、チャクラムは蝶まで届かなかった。
「もう一度!」
ノッコは、再びチャクラムを投げる。さっきよりも力を込めて。
だが、結果は同じだった。蝶の手前で空を切り、ノッコの元へと戻って来た。
「何でよ!何で当たらないのよ!」
間違いなくさっきよりも力強く投げた。蝶に届く筈だった。それにも関わらず、チャクラムは再び空を切っただけだった。
自分に攻撃が届かない事が分かったのか、蝶はヒラヒラとノッコに向かって進み出した。
「この。馬鹿にして。今度こそ!」
近付いて来る蝶に三度、チャクラムを投げる。そして、チャクラムは三度、空を切っただけだった。
「何なのよ。もう!」
ノッコはチャクラムでの攻撃を諦め、チャクラムを分解すると、二本の短剣へと形状を変える。投げて駄目なら短剣で斬る。
ゆっくりと近付いて来る蝶に向かって駆け出すと、エイッと蝶を斬り付けた。そして、直接攻撃をして分かった。何故、チャクラムが届かなかったのか。
「この蝶々、手前に何か壁がある」
斬り付けた短剣は、蝶の手前3cmで止まる。ノッコがどんなに力を込めてもそれ以上食い込む事が出来ない。
そして、ノッコは危険を察知するとすぐに蝶から離れた。ノッコが距離を取ったその瞬間に、蝶の目の前で小さな爆発が連続して起こる。
「危ない。あれは何?」
何が起きたのかは分からなかったが、離れるのが少しでも遅れていれば、今の一撃?で即死だっただろう。
「霧も駄目。チャクラムも短剣も見えない壁に遮られて、私の力じゃ届かない。近付けば、さっきの何か分からない連続する爆発に巻き込まれて即死、か」
手も足も出ないとはこういう事。距離を取って、時間を稼ぐしかないのかしら?。そう思っていると、再びノッコの優れた危険察知能力が、危険を感じ取る。
「何か、ヤバい。もっと離れなきゃ…」
直後、蝶からノッコの元へ爆発が連鎖して、向かって来る。
「きゃっ」
ギリギリで爆発から逃れたノッコだったが、今の攻撃を避ける際に、慌てて動いた為、転倒してしまった。
「しまった。やられちゃう」
ノッコは、早く立たなきゃと焦って、逆に起き上がれない。這いずって、蝶から距離を取ろうとしていた。
「は、早く。嫌だ。まだ…」
「ノッコさん!」
優が駆け寄って来る姿が見えた。蝶も優の声に反応し、後ろを振り向こうと回転している。
「ユウ!危ない!」
ノッコは何とか起き上がり、優に蝶が狙っている事を伝える。
ノッコの叫びと共に、蝶が連鎖する爆発を優に向かって放った。小さな爆発が優に向かって次々と起こる。だが、優は慌てず立ち止まると向かって来る炎に弓を射った。
すると、爆発が矢を境に二つに割れ、優の横を通り過ぎたのだ。
「どういうこと?」
ノッコが不思議に思っていると、優がノッコの傍に辿り着いた。
「ノッコさん、一緒にあいつを倒しましょう!」
「ええ。それより、さっきのは何?何で爆発が二つに割れたの?」
「ノッコさん、気が付いてなかったんですね。鱗粉ですよ。あれ。鱗粉が爆発してるんです」
「鱗粉…。じゃあ、ばら撒かれていた鱗粉を矢の風圧で二つに割ったっていうこと?」
「はい。だから、私には当たらなかったんです」
なんて冷静に見ているんだろう。ノッコは思った。この子と一緒に戦えば、あれに勝てる。
「ユウ。あいつの爆発する鱗粉を吹き散らすのは、任せたわ。私は、対抗出来る技の準備をする」
「分かりました。でも、あの硬い防御を貫けるんですか?」
「大丈夫。ちょっとまだ慣れてなくて、かなりの集中力がいるから、発動に時間が掛かるのが問題だけどね。間違いなく倒せると思うわ」
二人が話をしている間にも蝶は、鱗粉を撒き散らしながら、ヒラヒラと漂っている。よく見れば、少しずつだが、上昇して二人の上空へと向かっていた。
「あと矢は8本…。間に合わせて下さいね」
「何とかやってみるわ!」
そう言うと、ノッコは短剣を一本は腰に戻し、一本だけを右手に持った。そして、左手を刃の腹に当て、目を閉じ、集中し始める。
バン!
連鎖の最初の爆発が始まった。優は、矢を射るタイミングを計る。次々と爆発が続く中、優は矢を射った。矢はしっかりと空気を裂き、周囲の鱗粉を吹き散らす。そして、蝶のばら撒いた鱗粉全てが爆発で消えた時、上空にいた筈の蝶がそこに居なかった。
「あれ?蝶がいない。何処に?」
優は辺りを見回すが何処にも居なかった。
「消えた?」
「ユウゥゥゥ!」
消えた蝶を探していると、センの呼ぶ声が聞こえ、呼ばれた方を見ると、センが大河を抱えて、自分の所に向かって来ているのが分かった。
「大河さんの腕が…」
優は、大河の右腕が肘より下が無い事に気付く。止血を直ぐにでもしないと、出血多量で死んでしまうだろう。だが、消えた蝶が気になって、駆け付ける事が出来ない。もし、何処かに蝶が隠れていて、優が離れた瞬間にノッコにあの鱗粉での爆発攻撃をされれば、ノッコは即死してしまうだろう。優は、二人のどちらかを選択する事など出来なかった。
「どうすればいいの?」
そんな悩んでいる優だったが、更に追い打ちをかけられる。
「ぐわぁっ!」
センが突然悲鳴を上げ倒れたのだ。見ると、足下に転がっているトカゲモドキの頭がセンの左足の足首辺りに喰らいついていた。
「こいつ、まだ生きてやがった…」
センはトカゲモドキの頭を右足で蹴るが、トカゲモドキの頭は喰らいついた左足を離さない。
「くそっ。こいつ離しやがれ!離せってば!」
センが何度も蹴る姿を見て、優は焦った。このままだと、二人死ぬか一人死ぬかの選択になってしまう。そんなのは自分に選ぶ事なんて出来ない。だが、選ばなければ、最悪、三人共死ぬ事になるかもしれない。
「悩んでもしょうがないわ。先ずは、二人を助ける。ノッコさん!すみません。少しだけ離れます!」
優は、セン達の治療をするために駆け出した。矢は節約しなければ、ノッコを守れない。
すると、突如、センの頭上に蝶が現れたのだった。
「こいつは!?くっそぉぉぉ」
蝶の口が伸びて、センの足に食い付いているトカゲモドキの頭に突き刺さった。
「え?」
センは、蝶が助けてくれる?と思ったが、そんな事がある筈が無い。蝶は、トカゲモドキの頭を吸い尽くすと、体が変貌する。顔はトカゲだが、眼は蝶の眼が付いており、胴体は、蝶のままトカゲの手が生えて来ている。更に尻尾も生え、尻尾の先には蜂の針のような尖ったものが付いており、羽が更に2枚増えている。
「こいつ、蜂を喰ったトカゲモドキを喰った事で、蜂とトカゲの力を手に入れたのか」
そして、センは気が付いた。自分の足の痛みが引いている事に。大河も落ち着いている。よく見れば、優が回復の矢を床に射っていた。蝶がセンの方に現れた事を確認した後、直ぐに回復の矢を射ったのだ。
「与えるダメージが減ったが、問題無い。まだ力は残っている。黒死竜に取っておくつもりだったが、こいつを倒さないと始まらないな」
センは起き上がり、駆け付けて来た優と共に、目の前の敵に剣を向ける。すると、背後から声がした。
「お待たせ。私達であいつを片付けるわよ」
それは、切り札があると言っていたノッコだった。右腕を失くした大河も左手に剣を取り、四人は、奇妙な姿となった蝶と戦闘を開始した。




