93.闇獅と黒神
闇獅は、自分を倒す事が出来る可能性を持つ者、賢也の前に移動する。
「お前の空間への干渉が無くなれば、この場に俺を倒せる者は居なくなる。死ね!」
闇獅の肩にある爪が黒く輝く。そして、指と指の間に黒い爪が現れた。その爪で賢也を斬り裂こうと腕を振り回す。
「当たるか!」
まだ骨が戻らず腕が使えない為、捌く事が出来ない賢也は、回避に専念する。全ての攻撃を躱され続ける闇獅だったが、それでも攻撃を続けた。始めは戦い慣れていない闇獅だった為、躱すのも容易だったが、繰り返し攻撃を行う事で、徐々に攻撃が鋭くなり、賢也も足捌きだけで躱すのが辛くなって来た。
「くっ。腕はまだ動かせないか。こいつ、調子に乗るなよ!」
賢也は右足に蒼い炎を纏わせると、闇獅の攻撃を躱し、背後に回り込む。そして、すれ違い様に右足で闇獅の脛を蹴った。
脛を蹴られた闇獅は、ひっくり返った上に、足を蒼い炎で焼かれる。
「まだ、戦いに慣れていないみたいだな。今まで精神操作で相手を殺して来たのが仇になってるんだ」
「ふん。戦いはこれから慣れていけばいい。それにこの程度で俺は倒せんさ」
闇獅は起き上がる前に、影を賢也に伸ばした。賢也は直ぐにその事に気付くと、後ろに飛び退き、影をやり過ごす。その間に闇獅は起き上がっていた。
「なあ、どうでもいいけど俺達を忘れてないか?」
起き上がった闇獅をセンが剣で首を狙って、横に斬り付けた。だが、闇獅はしゃがんで剣を躱すと、センの腹を思いっ切り殴る。
「ぐぅっ!」
「忘れている訳が無いだろう。お前達の相手は後だと言っているだけだ」
腹を殴られたセンは、その場に倒れ込み、意識を失った。
「さあ、行くぞ」
闇獅の焼けた足は、既に炎は消え、火傷の痕も消えていた。闇獅が賢也に向かって走り出すと、賢也も闇獅に向かって走り出す。闇獅は、賢也と衝突する前に突然四つん這いになると、そのまま獣のように走り続ける。
「何だ!?」
賢也は構わず走り、四つん這いの闇獅に対し、回し蹴りをする。闇獅は、四つん這いのまま跳び上がり、賢也の蹴りを躱すとそのまま賢也に飛び付いた。
「くっ」
賢也に馬乗りになった闇獅がニヤリと笑う。そして、賢也を殴ろうと腕を振り上げた時、闇獅の体が宙に浮いた。
「何だ?体が浮くぞ」
「危なかった…」
「くそっ!降ろせ!」
賢也は闇獅が上に乗った瞬間に、重で闇獅の体を宙に浮かせたのだった。闇獅は、地面に何とか降りようと踠いていた。
「悪いな。このまま倒させて貰うぞ!」
賢也は右足に力を込める。足には紫の炎を纏わせている。
「紫炎!」
腹を下から蹴り上げられた闇獅は、天井を突き破り、そのまま上空へと飛ばされていった。
「畜生っ!この程度の炎!」
闇獅は、飛ばされながら、紫炎を影で覆い、消化する。そして、空いた天井の隙間から、五十嵐を見ていた。
「おかしい。そろそろ落ちて来てもいいはずだが?」
蹴り上げる際に重は解除している。いくら自分のキック力が強かったとしても、いい加減落下して来ていい時間が経過した。
それにも関わらず、闇獅は落ちて来ない。紫炎で燃え尽きたのなら、それでいいが、邪気はまだ微かに感じる。待てよ。何でこの辺で微かに感じるんだ?
賢也は、キョロキョロと周辺を探し出した。
「龍崎。何をキョロキョロしてんだ?あいつは上だろ?」
五十嵐が賢也の様子を不思議に思い、確認すると、賢也は気が付いた。
「おい、五十嵐。お前、まともか?」
「何だ、その質問は?人を異常者みたいに言いやがって!」
五十嵐が賢也の質問に腹を立てている。対応はまともだ。という事は、まだ仕掛けていないだけか。賢也は五十嵐の傍に寄ると影を踏み付けた。
「どうしたんだ?」
「いや、こういう事さ!」
賢也は気迫と共に、踏んでいる五十嵐の影に気を流し込む。すると、影の中から闇獅が現れた。
「ちっ。本当に鬱陶しい奴だ。何故、ここに居ると分かった?」
「五十嵐からお前の邪気を微かに感じたからな。いつ影の中に隠れたのかは分からなかったが、逃しはしないさ」
賢也が動くより早く、五十嵐が闇獅に掌底を喰らわす。
「てめぇ、ぶっ飛んどけ!」
五十嵐が掌底から暴風を起こすが、風は闇獅の体をすり抜けていった。
「な!?」
「無駄だ。お前は俺の手足となるんだ」
闇獅の両腕が五十嵐の顔を覆い尽くす。精神操作を五十嵐に使おうとしたその時、突如として現れた者に邪魔をされた。
「闇獅よ。何をしている。其奴は、私の力にすると言っておいただろう」
「「黒神!」」
闇獅と賢也の声が被る。黒神の邪魔で五十嵐に精神操作が出来なかった闇獅が抗議した。
「貴様!どういうつもりだ!俺の邪魔をすると言うのか!」
「どういうつもりだと?それは先程も言ったであろう。こいつは、私の物だ。手を出すな」
黒神の威圧に気圧され、闇獅が後退った。
「べ、別に俺が使った後でもいいだろう!」
「断る。私はお前の力は好かん。とはいえ、お前の力も我等には必要というのが気に食わぬがな」
「ど、どういう事だ!?」
黒神は、闇獅の問いにただ黙って立っていた。その無言のプレッシャーで、闇獅は、何を意味しているのかを悟ったようだ。それは、賢也も同じだった。
あいつは、黒神は、五十嵐も闇獅も食うつもりだ。食って己の力に変えるつもりなのだ。
「黒神に闇獅の力を取られては駄目だ。くそっ。剣を、剣を握れたら…」
闇獅は、振り返り賢也を見ると、四つん這いになって突っ込んで来た。
「くそぉぉぉ!食われてたまるかぁぁぁ!」
賢也を食い、黒神よりも強くなって返り討ちにしようというつもりなのだろう。
「鳴神ぃ!」
賢也に辿り着く寸前、意識を取り戻したセンが、闇獅の首目掛けて、鳴神を放つ。意表を突かれた闇獅は、躱す事も出来ず、体を影へと変化させる事も出来ないみ、まともに高速の斬り落としを受け、首を刎ねられた。
「セン!ナイス!紫炎!」
「ちっ。馬鹿が!」
黒神が闇獅の死体を回収しようと動く前に、賢也が闇獅の体を燃やし尽くした。
「貴様!まあいい。こいつとあいつは貰っていく」
黒神は、五十嵐の首を掴み、反対の手で轟を指差す。轟は、これまたいつの間にか現れた天喰が轟を担ぎ上げていた。
「待て!」
「奥で待っているぞ」
黒神は、そう言うと五十嵐と共に消える。天喰と轟も同様に消えてしまった。
「くそっ」
「落ち着けよ。賢也。あいつらは奥で待っているって言ったんだ。今回は、逃げるつもりは無いって事だろう。それよりもユウ達が来るのを待とうぜ。あいつらと戦るなら、万全の状態じゃないとな」
センの言う事も尤もだ。今の戦力は、センと大河。賢也と力也は、腕が使えない。この状態で、天喰達と戦ってもまともにやり合えるとは思えない。自分の腕はもうすぐ使えるようになるだろうが、力也は、優に治療して貰わないとどうにもならない。賢也達は優達が辿り着くのを暫く待っていた。
10分程すると、優達が漸く合流した。
「すみません。遅くなりました。大丈夫ですか?」
優の質問にセンが答える。
「ユウ、賢也と力也さんを頼む」
優は、賢也と力也の方を見ると、力也の腕を見て驚いた。
「力也さん!その腕、一体どうしたんですか!?直ぐに治療します」
「悪いな。明智。頼む」
優は、力也の腕を治癒の力で癒やしながら、賢也に確認する。
「賢也さんは、何処も怪我をしてないようですけど?」
「俺も腕の骨が折れてる。両腕ともまだ動かせないんだ」
「分かりました。力也さんの治療が終わったら、直ぐに治療します。待っていて下さい」
「悪いな」
ノッコがセンの元へと近付いて質問する。
「何があったの?あの二人があそこまでボロボロになるなんて」
「賢也と力也さんが戦った結果だ」
「え?どういう事?」
センはノッコにこの場で起きた事を説明する。その間に、力也の腕は優の治癒によって元通りになっていた。そして、直ぐに賢也の治療に取り掛かる。
「そんな事があったのね。じゃあこの先にあいつらが居るって事なんだ」
「そういう事だ。いよいよ最終決戦だな」
「終わりました。賢也さん。自己治癒って本当に凄いですね。ほぼ、治っていましたよ」
「ありがとう。これであいつらと全力で戦える」
賢也は立ち上がると、天喰達がいる奥へと続く扉を見ると、
「よし!行くぞ!」
全員に号令を出したのだった。




