92.虎と闇獅
虎型合成獣との戦闘を始めたセンだが、いくら攻撃を当てても、命中した感触が全く無く、虎型合成獣も傷一つ負う事が無かった。
その余裕からか、虎型合成獣は、悠悠とした態度で、センと対峙し、攻撃もまだ一度だけ。自分が負ける事は無いという自信からなのか、言葉が分からないため、それも分からない。
「さてと、なんだかゲーム攻略みたいだな。命は本当に掛かっているけどな」
センは、虎型合成獣の背後に回り込み、尾を目掛けて、剣を振り降ろす。そして、剣が尾に触れる瞬間をよく見る。剣が尾に触れた…。いや、何か剣と尾の間に黒い物が見える。それが、剣が尾に触れるのを邪魔している。
「これか!」
「おらぁ!」
センが尾を攻撃している間に、五十嵐が虎型合成獣の顔面を殴る。だが、尾と同様に黒い何かが邪魔をして、攻撃が当たらない。
「ちっ。同時に二箇所攻撃しても駄目か」
虎型合成獣が前足を振り上げ、五十嵐に鋭い爪を振り降ろす。センには、尾を鞭のように振り、叩き付けてきた。
「「おっと!」」
二人は、バックステップでそれぞれの攻撃を躱す。二人に意識が向いていた所に轟が雷を纏った拳で胴を殴る。だが、やはり攻撃は届かない。
「くそっ。攻撃中ならいけると思ったが、こいつ化け物だ」
「同時も駄目、攻撃中も駄目…。となると、どうすれば攻撃が通る?」
セン達の攻撃が通用せず、賢也は自身の腕が治っていないまま、前に出る。
「大河さん、力也さんをお願いします」
「え、龍崎さん?その腕で?無茶だ」
「大丈夫。足は動くので、何とかなります」
そう言うと、虎型合成獣に向かって突っ込む。その勢いで飛び蹴りを虎型合成獣に当てる。だが、賢也の攻撃でも通用しない。センは、このままだとヤバいと思ったのか、賢也に呼び掛ける。
「おい、賢也!ここは一旦退こうぜ。こいつに攻撃が通用しないなら、この先にも進めない」
賢也はセンを見ると、首を横に振る。そして、虎型合成獣の引っ掻きを躱すと、上に跳び上がった。
「セン。お前、師匠の教えを忘れたのか。相手の気を感じ取ってみるんだ」
賢也は足に蒼い炎を纏わせると、宙を蹴り、虎型合成獣に向かって急降下する。そして、賢也が蹴り付けたのは、虎型合成獣ではなく、その足元にある影だった。
「ぐぉぉぉぉ」
影から声が上がる。虎型合成獣も初めて焦るような様子でその場を離れた。
「龍崎、何故影を攻撃した?」
五十嵐が驚いたという表情で尋ねる。センは、賢也が影を攻撃した事で気付いたらしい。
「そういう事か!」
「分かったか?」
「あぁ。まさか、二体だったとは…」
センが気付いた通り、あの虎型合成獣とは、別の怪物が影の中に潜んでいる。攻撃は、虎型合成獣が、防御を影の中の怪物が担っており、賢也の攻撃は、影に潜んでいた怪物を最初から狙っていた。自分が攻撃されると思っていなかった影の中の怪物は、自身の防御を怠っていた為に、攻撃を受けたのだった。
「たが、今の攻撃では、致命傷は与えられない」
賢也は、空を使い影の中にいる怪物に攻撃してみたが、完全に捉える事が出来ないでいた。そして、今の叫び声で力也が目を覚ます。
「くっ。何だ。俺はどうしたんだ?腕に激痛がするんだが…」
力也は、自分の腕を見て驚いた。
「何だこれは!俺の左腕、変な方向を向いてるじゃないか!右腕も骨が砕けている。大河、説明しろ!」
「り、力也さん。落ち着いて下さい」
目を覚まして、起き上がれない力也の肩を抱き、大河が力也を起こす。そして、状況を説明する。
「まさか。俺が精神操作を受けて、龍崎を攻撃しただと…。闇獅の奴、いつの間に…」
力也の元へ賢也も駆け付ける。
「力也さん。良かった。元に戻ったんですね」
「すまなかったな。迷惑をかけた」
「大丈夫ですよ。もうすぐユウも合流するでしょうから、それまで力也さんはここに居て下さい。あいつは。いや、あいつらは、俺とセンで片付けます」
賢也はセンの元へと向かうと目配せをし、虎型合成獣に向かって行った。
センは、賢也の動きに合わせ、飛燕を放つ。そして、背後に回り込むように動き出す。
賢也は虎型合成獣が飛燕を掻き消す間に、影の中に潜む怪物のいる空間に干渉すると、その中に雷を走らせる。その間に虎型合成獣の背後に回ったセンが、斬り込んで行った。影と虎型合成獣の同時攻撃により、初めて虎型合成獣への攻撃が通った。
「よっしゃあ。翼を片方斬り落とせたぞ!」
「こっちは、手応え無しだ。防がれたらしい」
賢也とセンの同時攻撃が続く。次々と虎型合成獣の傷が増えていく中、力也は、影の中の怪物の正体に気が付いた。
「この邪気は!?」
力也は、周辺の気を探りユウの到着がまだ時間が掛かるのを感じ取ると、賢也達に叫んだ。
「龍崎!千士郎!その影に潜んでいる奴は、闇獅だ!精神操作に気を付けろ!」
力也の叫び声に反応したのか、虎型合成獣が前傾姿勢を取り、吠える。
「ガァァァッ!」
すると、賢也達に向かって虎型合成獣の影が伸びていく。最も近くにいたセンの足元まで伸びた影が、センを貫こうと地面から突き出て来た。
「うぉっと!」
センがサイドステップで回り込みながら影を斬るが、剣は影をすり抜けてしまう。その間に他の者達の足元まで伸びた影が、センを襲ったように突き出す。既に見られてしまった攻撃は、誰にも当たらなかった。
「何だ?この程度の攻撃で俺達を倒すつもりなのか?」
「千士郎!油断するな!奴の攻撃は大した事は無いが、精神操作という厄介な力を持っているんだ。下手をすれば、全滅するぞ」
すると、影の中から声が聞こえてきた。
「ふふふ。まさか、こうも簡単に見つかるとは思っていなかったぞ」
そして、影の中から闇獅が姿を現す。
「そもそも、お前がその男を殺せなかったのが悪いんだ。使えない奴め」
闇獅が力也を見た後に賢也を睨む。賢也が居なければ、他のメンバーは、気が付かず虎型合成獣によって倒す事が出来た筈だったからだ。
「その二人には話したが、俺自身は、攻撃が得意じゃないんでな。こいつを使って、お前達を倒す筈だったんたが…。まぁ良い…」
闇獅は、虎型合成獣の頭に手を置く。すると、虎型合成獣がビクッと体を小さく震わせると膨らんだ風船から空気が抜けて萎む様に、みるみる体が萎んでいく。
「「なっ」」
10秒程で体が干からびてしまうと、虎型合成獣の残った皮をくるくると巻くと、一口で食べた。
「ふむ。流石、攻撃特化型の合成獣。これで、俺に足りなかった攻撃力も付いた。さぁ、強くなった俺を楽しませてくれよ」
闇獅の体が一回り大きくなっていた。肩には虎の爪のような物が生えている。邪気もこれ迄とは比較にならない程上昇し、黒羽よりも強い邪気だ。
「闇獅ぃぃぃ!」
轟が闇獅に向かって走り出す。怒りに任せた攻撃は、大振りとなり、簡単に躱されてしまった。
「どうした?轟よ。少し前の方がまだ良い動きをしていたぞ。ああ、そうか。あの男と俺を攻撃していたから、俺と渡り合えたのか。貴様一人では何も出来ないのだな」
闇獅は、轟の怒りを更に増長するように煽る。挑発と分かっていても、轟は我慢が出来ず再び闇獅に突っ込んでいった。
「おらぁ!」
今度は大振りせず確実に闇獅に攻撃をする。雷を纏った拳が闇獅の腹に命中する。が、全く効いていなかった。
「ふっ。この程度か」
闇獅が轟の顔を横殴りに叩くと、轟は勢いよく吹っ飛んでいった。
「さて、この場にいる奴で俺の命を脅かす者は一人だけだな。折角、強くなったんだ。俺自身の手で殺してやろう」
闇獅は、ペロリと舌舐めずりすると、ニヤリと微笑むのだった。




