79.空中決戦
空で何やら不審な行為をしている者がいるという情報から、力也は、そのポイントまで空を飛んで向かっていた。スピードが出ない分、目撃された高度より高く飛び、相手に見つからないように。
「梶さんに早く追加装備を作って貰わないとな。このスピードじゃ遅くてしょうがない」
力也が近くまで行くと、確かに人の気配がする。怪物特有の邪悪な気配はしない。相手は人間だ。遠目に見ると、それは男だった。その男は、まだ力也には気付いていなかった。影で相手に気付かれないように注意しながら様子を伺う。
「くそ、やっぱりここからじゃ中々当たらないな。あ、また躱された。くそっ。あいつら強すぎだろ。まったく。火野さんも面倒くさいこと頼んでくれるよ」
その男の独り言が聞こえる。火野と言ったか。五十嵐から聞いた五指の中にそんな奴がいたな。やはり『黒の牙』の者か。
力也は、腰に取り付けている二本の警棒を外し、手に取る。
「人相手には、これだな」
装備を使った下降では、スピードが遅い。力也は、スイッチを切り、男の背後から落下して、近付いていく。
男の頭上5m位まで一気に近付いた時、男は、力也の影に気が付いた。
「何だ?影?」
見上げた時には、もう力也は目の前に迫っていた。
「うわぁ。何だ、お前」
力也の振り下ろした警棒をギリギリで避けると、後退し、力也と距離を取る。
力也はスイッチを再び入れると、男に警棒を向け、警告する。
「お前は『黒の牙』の者だろう。抵抗しなければ、痛い目に合わずに済むぞ。大人しく降伏しろ」
「まさか、空を飛べる奴がいるとは。そうさ。俺は吸坂。『黒の牙』の一員だ。誰が降伏なんかするか」
吸坂は力也に手を向け、土の槍を飛ばす。力也は、飛燕を放ち、土の槍を破壊すると、吸坂に向かって進む。
「遅っ。何だ、そのスピードは」
吸坂は、簡単に力也の背後に回り込むと、再び石の槍を飛ばす。力也は、振り返り様に、石の槍を警棒で叩き壊すと、仕返しとばかりに飛燕を放つ。吸坂は、見えない斬撃をまともに喰らい、後ろに飛ばされた。
「痛ぇ。なんだ、今のは?」
「ほう、加減していたとはいえ、今の飛燕をまともに受けて、動けるのか」
吸坂は、飛燕を放つつもりなのか腕をブンブンと振りながら、独り言を言う。
「何だ。今のは能力じゃないのかよ。神無さんの技みたいなもんか」
力也は、吸坂の言葉に引っ掛かっていた。技を喰らって、動作を真似し、発動出来ないか確認する。そして、使えないなら能力じゃないと。こいつの能力は、まさか…。
「お前、まさかとは思うが、お前の能力は、吸収か複製か!」
「へぇ。鋭いね。そう。俺は吸収の能力だ。相手の能力に触れれば、その能力を吸収して、自分で使えるようになる」
こいつ、馬鹿だ。簡単に自分の能力をバラした。だが、面倒くさい相手だ。俺の強化を覚えられても面倒だ。
力也が考えている間も、吸坂は自分の吸収した能力を自慢するようにペラペラと喋りだした。
「聞いて驚くなよ。今の俺は、浮遊、異空間、痛覚鈍化、石操作、風操作、捕捉、遠視、加速。これだけの力があるんだ。凄いだろ!」
やっぱり、こいつは馬鹿だ。だが、確かに能力は面倒くさい物を持っているみたいだな。飛燕に耐えられたのは、痛覚鈍化で痛みの耐性があるからか。報告にあったのは、遠視で遠くの相手を見つけ、捕捉し、異空間を使って、その相手を攻撃していたということか。捕捉は面倒だな。力也は、構えを取り直し、気を引き締めた。
一方、賢也達は突然止んだ攻撃に困惑していた。
「何だ?攻撃が止んだ?」
「本当ですね。どうしたんでしょう?」
「俺達が避けまくるから、無駄だと思ったんじゃないか?」
そんな簡単に諦めるものなのか?これは、攻撃している相手が、こっちに構う余裕が失くなったと考えた方が良い気がする。賢也は、本部に連絡をする。
「龍崎だ。こっちには、『黒の牙』は居なかった。たが、攻撃を仕掛けられていた。その攻撃も今止まっている。何か新しい情報は無いか?」
「そういえば、甲斐さんが空に怪しい人物がいるという事で出撃しましたけど」
「その場所は?」
賢也は力也が向かったポイントを聞くと、速水と石波にこの場を任せ、そこへと向かっていった。
力也は吸坂に向かって進むが、やはりスピードが足らず簡単に距離を取られ、石の槍で反撃された。石の槍は、力也の2m程手前で突然消えた。
「!」
そして、背後に槍が出現する。
「風雅満月!」
力也は、全方位の斬撃で石の槍を破壊する。
「何だそれ!背後の攻撃を防ぐなんて、インチキだ」
「奥義だ。インチキでも何でもない。飛燕!」
力也の放った飛燕は、吸坂に当たる前に消えた。
「もうその攻撃は当たらないぜ。見えなくても、正面に来るのが分かっているんだ。ゲートを開いたままにしとけばいいだけだからな」
今まで見た事のある異空間とは少し違うのか。今まで見た事がある異空間の入り口は、黒い穴が目に見えていたが、こいつのは透明で何処に出現させているのか分からない。直接攻撃しようにもスピードが違い過ぎて、近付けない。やられる事は無いだろうが、勝つことも厳しいか。
「悩んでいてもしょうがない!」
近付けないのなら、飛燕で攻撃するしかない。力也は、旋回しながら飛燕を連続で放つが、全て吸坂の異空間に吸い込まれ届かなかった。
「無駄だよ。いい加減、諦めたら」
吸坂の言葉は無視して、飛燕を放ち続ける。変わらず、吸い込まれ届かないが、吸坂の様子がおかしい。みるみる表情に余裕が無くなっていく。
「いい加減にしろ。おい、本気で。頼むから」
力也は、構わず飛燕を放つ。これまで受け続けていた吸坂は、突然、急降下を始める。
「ヤバい、ヤバい、ヤバい!」
力也も後を追いかける。降下しながら飛燕を放つ。異空間によるガードを止めた吸坂は、飛燕をまともに受けた。
「この、止めろ。死んじまう。やめてくれ」
「何を今更。戦闘中だろう」
「違うんだ。力を使い過ぎたんだよ。今も降下じゃなくて、落下してるんだぁ」
やっぱりこいつ馬鹿だった。普通、こんな空高くで力を使い過ぎるまで戦い続けたりしないだろう。落ちたら死んでしまう。実際、今がその状況になってしまっている。
「まったく…。仕方ない。だが、追いつけるか?」
力也は、スイッチを切ると、空中を蹴って勢いをつけ、落下する。少しずつ距離は縮まるが、この調子では、追い付く前に地面に激突してしまうだろう。
「どうする?いくら何でも、これ以上のスピードは俺も出せないぞ」
地上まであと2kmといった所か。不味いぞ。このままいくと、スプラッターショーを見る事になってしまう。
すると、こっちに物凄いスピードで向かって来る気配を感じ取る。
「この気配は、龍崎か!」
賢也はあっという間に力也に
追い付くと、落下している吸坂に気が付く。
「力也さん。どういう状況なんですか?」
「あの落下しているのが、『黒の牙』の吸坂とかいう男だ。能力を使い過ぎて、落下している」
「分かりました。先に行きます」
「頼む」
賢也は更にスピードを上げ、吸坂を追いかける。力也は、スイッチを入れるとゆっくりと降下を始めた。
吸坂が地上まで残り1kmを切って、死を覚悟し、気を失ってしまった。
「間に合えっ!」
あと200m、50m…
「間に合った!」
吸坂が地面に激突する寸前に賢也は足を掴み、
「くっ、刹那ぁぁぁ、うぉぉぉぉっ」
刹那で力を増幅させると、上へと投げた。そして、自分は地面を蹴り、再び飛び上がる。賢也の蹴った地面は、その衝撃で直径5m程の窪みが出来る。
「ぐぅぅっ。骨が逝ったか…」
流石に賢也の足は無傷とはいかず、骨が折れてしまった。
上へと投げられた吸坂はというと、ゆっくりと降下していた力也が受け止め、地上へと無事に降りたのだった。
「龍崎、大丈夫か?」
地上に降りて来た賢也に力也は尋ねる。
「足が折れてしまいましたけど、まぁ大丈夫です。力也さんも初の空中戦は、どうでしたか?」
「この装備では、まだ空中戦は無理のようだ。移動速度が遅過ぎる。梶さんの強化パーツに期待するしかないな」
力也は初の空中戦で苦戦し、疲れた表情をしていた。
「じゃあ、SACに戻りましょうか」
「ああ、そうしよう」
二人は、吸坂を連れてSACへと飛び立っていった。




