80.火野の策略
SACへと連行された、吸坂は取り調べを受けていた。
「吸坂、お前はあんな空の上で何をしていたんだ?」
力也の問い掛けに吸坂は何も答えず、ただ黙っていた。
「何も答える気は無いか…。なら、しょうがないな」
力也は立ち上がると吸坂の後ろに歩いていく。吸坂の後ろで立ち止まると、
「五十嵐から『黒の牙』については、色々と聞いているからな。近々、お前達のアジトに行って、一網打尽にしようという話が出ているんだ」
力也の突然切り替えた話に吸坂は、何を言っているんだと不思議に思っていると、力也は話を続けてこう言った。
「押し入るのに、複数のメンバーからの話をききたかったんだが、話をしてくれないのなら、お前達自身が知らない『黒の牙』の話をするのも止めておくか」
「なんの事だよ?」
お、喰い付いた。まあ、自分達が知らない話があると言われれば気にならない奴はいないか。
「何だ?気になるのか?」
「当たり前だろ。俺達が知らない話なんて言われたら気になるさ」
「教えて欲しいなら、お前の話を聞かせろよ。質問に答えたら教えてやる。今、こうして捕まった事がどんなに良かったかという事をな」
吸坂は話をするか悩んでいるようだ。暫く、下を向いたまま黙っていたが、力也の方を見て答える。
「分かったよ。俺が何をしていたのか話すよ」
漸く吸坂は話す気になり、話し始めた。
「俺は、火野さんに頼まれたんだよ」
「五指の火野か?」
「そう。火野さんからあの花火工場に火薬を盗りに行くから、出張って来るお前達を倒すか足止めしろってな。五十嵐さんも捕まったし、黒羽さんも捕まったって聞いたから、離れた場所から対応出来る俺が丁度良いってよ」
「火薬なんか盗んで何をするつもりなんだ?」
「そこまでは知らないさ。ただ、何かでっかい事をするとは言ってたけどな。さぁ、俺の事は話したぜ。何だよ。俺達が知らない俺達の事って」
火薬を使ってでかい事か。碌な事じゃないのは、間違いないな。
「そうだな。まずは、さっきのお前が話した内容を訂正しよう」
「何をだよ?」
「黒羽さ。あれは、逮捕じゃない。討伐した」
「討伐?」
「そうだ。あれは、黒死竜の分身体の生き残り。人型の怪物だった。お前はリーダーには会った事はあるのか?」
「俺達下っ端がトップに会うことなんてないよ。火野さんだって、今回初めて会ったんだぞ」
「そうか。五十嵐の話と黒羽の正体から、お前達のリーダーは人型の怪物の可能性が高い。いや、間違い無いだろう」
「な…。俺達は、異能者の世界を作るって話から活動しているんだぞ。そうじゃなく、怪物の世界の為に働かせられていたって言うのかよ」
「そこまでは知らん。知らんが、少なくともお前達はあいつらの餌としか見られていないのは事実だと思うぞ。良かったな。喰われる前に捕まって」
力也の話を信じられないといった顔で吸坂は顔を伏せていた。
「俺達は、お前達を取り押さえるまでが、仕事だからな。後は警察に任せる。じゃあな」
力也は、取り調べ室から出て行くと吸坂の話を上層部へと伝えに行くのだった。
「おい、火野。お前のせいでまた一人捕まったぞ」
「なんじゃ轟。お主には関係ないであろう。捕まるようなヘマをする下っ端なんぞ気にしておったら、切りが無いわ」
「おい、それはないだろう」
火野は轟の言葉を無視して立ち去って行ってしまった。
「ふん。この大量の火薬があれば、SACなぞ。くくく」
火野は、大量の火薬を前に不気味に笑うのだった。
力也の報告を受けて、SAC上層部は賢也を五十嵐の元へと向かわせた。火野の事を知る五十嵐に何か情報が得られないか話を聞くために。
「上も無茶振りするよな。何の見返りも無しに五十嵐が話すとは思わないんだが」
賢也は渋々、五十嵐が入っている刑務所へと足を運んだ。
「それにしても、自己治癒はとんでもないな。もう足の骨が治ってる」
怪物達の持っていた自己治癒は面倒だと思っていたが、自分自身が使えるとなると、これ程頼もしい能力は無い。そんな事を考えながら歩いていると、刑務所へと辿り着いた。この刑務所は、異能者専用の刑務所ではなく、一般犯罪者が収容されている。本来、異能者は能力が使えないように専用の刑務所に入れられるのだが、これは数が少ない。その為、五十嵐を収容していると『黒の牙』が襲撃に来た時に連れ戻される可能性がある為、収容場所を絞らせないように一般の刑務所に収容しているのだ。
「よう。元気にしているか?」
「何しに来たんだ?俺が大人しくしているか見に来たなんて言わないよなぁ」
「その程度の事で来る訳が無いだろう。お前、火野がどういう奴かはよく知っているよな」
「火野か。まあ、俺が言うのも何だが、あいつは、自分勝手な上に危ない奴だな。あいつが何かしたのか?」
「そうだな。これから、何かをするんだと思う。それでお前に話を聞きに来たんだ」
「俺をここから出してくれるのか?まぁ、そんな訳ねぇか。ま、いいぜ。俺もあいつは嫌いだからな」
意外な五十嵐の答えに驚いた賢也だったが、質問を続けた。
「火野が大量の火薬を盗んだらしい。これを何に使いそうか分からないか。火薬なんて物騒な事にしか使われないだろうからな。出来るだけ、事前に対処したいんだ」
「火薬ねぇ。前に言ったが、あいつの能力は火だ。まぁ間違いなくそれを使って何か爆破しようって考えだろ。そうだな。大量って言うくらいだ。目障りなお前達を始末するのに、本部を吹っ飛ばすつもりなんじゃないのか」
「本部を…か。他には考えられるか?」
「そこら辺を適当に爆破なんて考える奴じゃぁねぇよ。間違いなくお前達の本部を狙って来るだろうな」
「分かった。協力感謝する」
「感謝するなら、ここから出してくれや」
賢也は、首を横に振り立ち去って行った。
SAC本部を爆破か。アテナ達が攻めて来た時、あいつらも現れたが、俺は神無と対峙した後、すぐにアテナを追い掛けて、戦わなかったからよく知らないが、中々の強さだったらしいからな。大量の火薬を使って一人で攻めてくるという事も有り得なくは無いか。対策…、といっても周囲の警戒レベルを強化する位しか出来ないか。
「取り敢えず報告して、上がどう判断するか、だな」
賢也は本部へと戻ると五十嵐から聞いた話を報告した。上層部は、SAC本部が狙われているかもしれないという報告に対し、暫くの間、周辺の警戒を強化する事にすると、怪しい動きをする者は即取り押さえるように指示を出した。
それから一週間経ったが、火野は現れる事もなく、特に怪しい動きをする者も居なかった。誰もが気にし過ぎだろうと、気が緩んでいた。
そして、その油断を待っていたかのように、火野が姿を現した。
「くくく。今日がSACの最後の日となるのだ。儂の策によって」
火野は、携帯を手に取ると電話を掛けた。
「儂だ。例の物を頼む」
電話を切ると火野はその場から怪しい笑みを浮かべながら立ち去って行った。火野が立ち去った後、強風が吹き始めた。SACの建物に向かって。
「天気予報で言ってたけど、今日は本当に風が強いよな」
「そうだな。今もビュウビュウ言ってるぜ」
外の様子を見ている警備員二人が話している。そう、警戒レベルを上げた後、何も起きていない事もあり、強風が吹いている中、外で見回りなどしたくないという事から、建物の中で様子を見ていた。
そして、今吹き荒れている風が自然の風なのか人為的なものなのか分かっていなかった。
「くくく。いいぞ、もっと、もっとだ。さぁ、派手に花火を上げてやろうじゃないか!」
SAC本部からは死角となった場所から様子を見ている火野は自分の策が順調に進んでいるのを満足に見て笑っていた。




